追悼・大林宣彦監督 忘れない28分間の「遺言」

2019年11月1日、東京国際映画祭の舞台あいさつに登場した大林宣彦監督
2019年11月1日、東京国際映画祭の舞台あいさつに登場した大林宣彦監督

 大林宣彦監督の訃報に接し、瞬時に思い出したのは3年前のことだった。

 2017年6月。短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」の授賞式に、大林さんはコンペティション部門の審査員として出席していた。

 式の終わり、審査員が講評を述べる時間。小倉智昭キャスター、俳優・三上博史ら他4人の審査員が感想を1分ずつくらい語った後、杖を突き、頬もこけていた大林さんがマイクに向かった。

 前年夏にステージ4の肺がんを告知されていた名監督は会場を埋め尽くした国内外の映画人に向け、優しく、けれども力強い声で語り始めた。28分間にも及んだスピーチは、巨匠・黒澤明監督から受け継いだ「継承遺言」とでも言うべきメッセージだった。

 「じじいがなぜ出てきたからと言いますと、私事ながら、去年の8月に肺がん第4ステージ、余命3か月という宣告を受けまして、本当は今はここにいないのですが、まだ生きております。生きてるなら皆さんに、私が胸に温めていた黒澤明監督の遺言を伝えようと、命懸けで今、立っております」

 「黒澤監督に言われたんです。『大林君、人間とは本当に愚かなものだ。いまだに戦争もやめられない。こんなに愚かなものはないけれど、人間はなぜか映画というものを作ったんだ。映画というものは不思議で、事実ではなくてリアリズムではないけれども、事実を超えた真実、人の心の真が描けると思っているんだ。僕はもう80で死ぬけれども、映画には世界を必ず平和に導く美しさと力があるんだよ。俺があと400年生きて映画を作り続ければ、俺の映画できっと世界を平和にしてみせるけれど、俺の人生はもう足りない。大林君、君は50か。俺が80年かかって学んだことを君は60年でやれるだろう。君が無理だったら君の子供、さらに君の孫たちが少しずつ…そしていつか俺の400年先の映画を作ってくれたら』と」

 「混迷の時代ですが、どうか皆さんも映画の力を信じてください。未来に向け、いつか黒澤明の400年目の映画を私たちが作るんだ、と。黒澤さんは最後におっしゃいました。『お願いだから、俺たちの続きをやってね。人と人との心のつながりが物語としてつながることが映画のいいところだ。だから嘘をつきながら真を描くことができるんだ』。長くなりましたが、黒澤明先輩が私個人にとどめた『俺の続きをやってよね』という言葉を皆さんに贈って終わらせていただきます。若い人たち、俺の続きをやってよね。ありがとうございました」

 会場に鳴り響いた拍手はしばらくやまなかった。

 終了後、会場ロビーで挨拶した。大林さんはあの柔和な笑顔を浮かべ、柔らかい右手を差し出して言った。「がんはまだありますけど、現代の医療はすごくてね。もう少し生きるつもりでいます」

(記者コラム・北野 新太)

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