【箱根への道】駿河台大3年に29歳超異色オールドルーキー、元体育教師・今井隆生

先生を休業して駿河台大3年に編入した今井は強い決意を記した(カメラ・森田 俊弥)
先生を休業して駿河台大3年に編入した今井は強い決意を記した(カメラ・森田 俊弥)

 新型コロナウイルス感染拡大による政府の緊急事態宣言発令で、各大学駅伝チームも活動を停止、自粛する厳しい状況の中、各校に新人が加わった。箱根駅伝初出場を目指す駿河台大には超異色オールドルーキーが入学。中学校の体育教師だった今井隆生(29)は「自己啓発等休業」制度を利用し、3年生に編入した。「もっといい先生になるために」心理学部で学びながら駅伝部入部。2年間限定で「箱根への道」を全力で駆ける。

 先行きが見えない春。熱血先生、いや、熱血すぎる先生が懸命に走り出した。埼玉・飯能市内の公立中学校の体育教師だった今井は、一学生に戻り、箱根駅伝に挑戦する。

 教員の「自己啓発等休業」の制度を利用し、駿河台大3年生に編入する決断をした一番の理由は、教師として成長するためだった。「担任したクラスの中で不登校の生徒がいました。私なりに一生懸命アプローチしたが、結局、生徒の力になれなかった。教師として力不足を実感した」。悩んでいた時、同じ飯能市内にキャンパスがある駿河台大に心理学部があることを知った。「今まで勉強していなかった分野を学んで、もっと生徒に寄り添える先生になりたい」と実直に話す。そして、久しぶりに大学生となる機会を生かし、封印していた“夢”にも挑戦する。

 大泉高時代は陸上部に所属し、将来の箱根駅伝出場を目標としていたが、そのレベルにはほど遠く、日体大入学後トライアスロンに転向。世界大学選手権に出場するなど活躍した。「その頃はトライアスロンに全力を尽くしていたので、箱根駅伝への未練はなかった。4年生だった2013年は日体大が箱根駅伝で30年ぶりに勝った。クラスメートに優勝メンバーもいたし、素直にうれしかった」と振り返る。卒業後も実業団でトライアスロン選手として活動。走力を磨くために参加した陸上の練習会で駿河台大の徳本一善監督(40)と知り合い、アドバイスを受けるようになった。

 16年にトライアスロン選手としては現役を引退し、埼玉県の教員となった。体育教師、陸上部顧問を務めながら市民ランナーとして多くの大会に参加した。勤務先の中学校が駿河台大と近かったため、休日は生徒を指導した後、同大学で練習を重ねた。「水泳と自転車はやはりパワーが必要で、トライアスロンの選手時代は体重59キロでした。ランだけに絞ったら52キロに減って一気に走力が上がりました」と笑う。18年の栃木・大田原マラソンでは優勝を飾った。いつしか、封印したはずの箱根駅伝出場という夢を現実的に考えるようになった。

 「駿河台大で心理学を勉強して、箱根駅伝にも一緒に出場しよう」。徳本監督の熱いエールが最終的に今井の背中を押した。

 昨年度は中学1年生のクラスを担任していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一斉休校となり、慌ただしいまま生徒と別れた。原則、公立校の教員は3月末まで人事について口外してはいけないため、生徒に何も伝えていない。「私が大学生になったと知ったら生徒は驚くでしょうね。本当はお別れの言葉を交わしたかったけど仕方ありません」と静かに話した。

 4月から2度目の学生生活が始まったが、授業開始は5月13日以降となり、駅伝部の活動も停止中。自主練習の日々が続く。多くの人々と同じくオールドルーキーは不安を抱えたまま新たな生活をスタートさせた。

 それでも、今井は必死に前を向く。「しっかり勉強して、箱根駅伝も走って『先生は頑張っているぞ』と生徒に伝えたいですね」と遠くを見ながら話した。実業団経由で箱根駅伝に出場した選手は多いが、教員経験者は異例中の異例。箱根駅伝100年の歴史でも画期的な挑戦だ。今井の活躍は元教え子たちを勇気づけることになるだろう。

 休業期間中の2年間は給与はない。「貯金を取り崩しながら頑張ります。特に今年度は昨年度の収入に対する税金を納めなければいけないから大変ですよ」と苦笑いする。実は2歳の女児のパパでもある。今井隆生。29歳。大学生。確固たる覚悟で学び、そして走る。(竹内 達朗)

 ◆新型コロナ感染拡大でケニア合宿から帰国に影響

 駿河台大の石山大輝主将、エース・吉里駿(ともに4年)ら主力選手は春休みを活用し、2月1日からケニアで強化合宿を行った。3月29日に帰国するはずだったが、合宿が始まった後、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、帰国の予定が大幅に変わった。第1陣は4月7日に帰国したが、徳本監督はじめ一部の選手は座席が空いていなかったため、現在もケニアに滞在中だ。

 徳本監督は飯能市で自主練習を続けている選手と電話で連絡を取り合っている。“大人”の今井に対しては全幅の信頼を置く。スポーツ報知の電話取材に応じ「トライアスロン選手だった時も先生だった時も応援したくなる人間だった。性格はいいし、競技者としても期待は大きい」と話す。

 昨年まで徳本監督と今井は練習後に一緒に酒を飲むこともあったが、4月から関係性は一変。あくまで監督と選手だ。「これからの2年間は今井と個人的に食事することはない。ケジメをつけます」と徳本監督は厳しく明言した。その上で柔らかな口調で付け加えた。「2年後、また今井とうまい酒を飲みたいですね」

 ◆今井 隆生(いまい・たかお)1990年8月31日、東京・保谷市(現西東京市)生まれ。29歳。大泉高では陸上部に所属し、都大会10位が最高成績。2009年、日体大に入学し、トライアスロン部に入部。世界大学選手権に出場。13年に卒業後、トライアスロン実業団チーム、ケンズ入り。16年に現役を引退し、埼玉県の中学校教員に採用された。自己ベストは5000メートル14分25秒79、1万メートル30分12秒78、ハーフマラソン1時間5分32秒、マラソン2時間23分23秒。165センチ、52キロ。

 ◆箱根駅伝の出場資格

 ▽年齢 1992年までは27歳以下という制限があり、87年に28歳だった駒大4年の大八木弘明(現監督)=写真上=は出場できなかった。戦前や現在は年齢制限がなく、39年に33歳131日で5区区間賞に輝いた村社(むらこそ)講平(中大)が最高齢出場。2017年に実業団経由で東京国際大に入学した渡辺和也(4年)=同下=は来年大会に出場すると最高齢出場記録を更新する(往路で33歳179日、復路で33歳180日)。29歳で3年に編入する今井は4年時の復路に出場した場合、31歳125日。

 ▽回数 戦前は制限がなく、日大の曽根茂は1927年~34年に8回も出場した。現在は登録を含めて4回まで。今季、留年して5年目を迎えた青学大の竹石尚人は1、4年時に登録メンバーから外れたため、来年も出場資格を持つ。日体大時代は陸上部に所属していなかった今井も出場資格を有する。

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