動き始めた視聴率調査の新時代…新たな指標「個人視聴率」への民放各局の思惑

6年連続で視聴率三冠王を続ける“勝ち組”日本テレビ。1年前から個人視聴率を番組評価の指標としてきた
6年連続で視聴率三冠王を続ける“勝ち組”日本テレビ。1年前から個人視聴率を番組評価の指標としてきた
あくまで全階層、オールターゲットに番組を届けることを目指すテレビ朝日。三冠王・日本テレビを激しく追い上げている
あくまで全階層、オールターゲットに番組を届けることを目指すテレビ朝日。三冠王・日本テレビを激しく追い上げている

 1962年から60年に及ぶテレビの視聴率調査にとって、大改革の時が来た。ビデオリサーチ社が3月30日から世帯視聴率に加え、個人視聴率の発表も始めたのだ。

 最大の変化が「屋根」から「人」へ―。これまでの「どれだけの世帯が見たか」を示す世帯視聴率ではなく、「何人が見たか」を示す個人視聴率が重視されること。さらに、これまでの関東地区で900世帯というサンプル数も3倍の2700世帯に拡充(関西地区は600から1200世帯に拡充)。「全国で何人が見たか」など細かい分析が可能なサンプル数になることで、よりリアルな視聴動向が分かることになった。

 CMを提供するアドバタイザー(広告主)にとって「商品のターゲット層にリーチしやすくなる」と同時に視聴者にも「自分の好みに合う番組が制作、放送されやすくなる」というメリットがある。

 個人視聴率はあくまで「世帯」ではなく「個人」が対象となるため、分母が大きくなり、その分、視聴率の数字自体は小さくなる。例えば、ある番組が世帯視聴率で20%を記録していても個人視聴率は11%、世帯の10%は個人では5・5%という数字が目安となる。

 最新の例を挙げてみる。新型コロナウイルス感染による肺炎で亡くなったタレント・志村けんさん(享年70)を偲んで1日午後7時から緊急放送されたフジテレビ系「志村けんさん追悼特別番組 46年間笑いをありがとう」の場合、関東地区の平均視聴率は21・9%だったが、個人視聴率は14・8%と計測された。

 番組を1分以上視聴した「到達人数」(推計)は全国で4072万6000人。数多くの視聴者が昭和、平成、令和を駆け抜けた希代のコメディアンを悼んだことが分かる。

 そんな新しい指標が各局の編成戦略にどんな影響を及ぼすのか。私は、そんな興味を胸に先月19日から31日にかけ、毎月1回行われる在京キー局の定例社長会見を“ハシゴ取材”。各局トップの新たな視聴率調査への思惑を探ってみた。

 まずは19日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われた全国民放の総元締め・民放連(日本民間放送連盟)の大久保好男会長(69)の定例会見。大久保会長は新視聴率調査について、「テレビの媒体価値をどう高めていくか、どう価値を証明していくかを放送事業者が試していくということ。個人視聴率をどう生かしていくかは民放各局がそれぞれ努力し、検討していくことだと思っています」と答えた。

 23日、東京・汐留の日本テレビで行われた小杉善信社長(66)の定例会見。同局は世帯視聴率で今年度まで6年連続で三冠(全日、ゴールデン、プライム全て首位)を獲得中のトップ企業。特に各曜日のゴールデン、プライム帯にバラエティー番組を3、4個と並べた編成で他局を圧倒し続けている。

 “勝ち組”の同局は昨年1月から社内表彰にもつながる番組視聴率の評価基準をいち早く個人視聴率にシフト。2010年代からすでに13~49歳をコアターゲットに定め、世帯視聴率はできるだけ下げず、若者中心の視聴者層を掘り起こすことを目指してきた。

 小杉社長は、まず「従来から言っております個人視聴率へのシフトの中、幅広く見ていただけるコンテンツをタイムテーブルに並べ、視聴者、クライアントから支持を受ける局でいたい」と決意表明。その上で「世帯から人、屋根から個人に指標が変わるということで、デジタルメディアと同じ土俵でのテレビの見られ方が(視聴者に)しっかり届く。視聴人数、番組での全国平均や1分以上見たニーズなど、より正確な実態が分かる。私たちはそれを利用することで、クライアントのニーズに一番合致するコンテンツの内容、展開の仕方、時間帯などでの番組の置き方をよりつかみやすいと思っています」と続けた。

 「一つの家でたくさん見ていれば、個人視聴率は上がりますが、たくさん見ていても世帯視聴率は変わらない。少しでも多くの年代の違う人が家族視聴で見る番組は個人視聴率が上がる。その獲得を目指します。より、きっちりした数字を出していかないといけないという我々自身への枷(かせ)として、しっかり戦っていく」と小杉社長。

 その隣で編成担当の福田博之取締役も「世帯視聴率と個人視聴率と(2つの基準)で視聴率ランキングで番組を並べた場合、順番が変わってくるのが答えなのかなと思います。日本テレビでは去年1月から個人視聴率の数字を上げることを目標にやってきたので、4月以降はさらにそれを強く押し出したい」と言った。

 同局では4月以降は世帯と個人2つの視聴率を併記して発表することを公表。小杉社長は「日本テレビの社内では、すでに個人で11%を取ると『やった!』となる。1年間やってきて完全に体が個人視聴率の感覚になっている。コンテンツの力がしっかりと見極められるのは個人だなと、ウチの編成、営業も思っています」と自信をのぞかせた。

 日テレを追いかけるライバルたちの見方はどうか。25日、東京・赤坂のTBSで行われた定例会見で佐々木卓社長(60)は「個人視聴率の全国化ということで統計の取り方が変わる。どういう方が見るかが細分化される。クライアントにもどういう方が見たかが説明できる。何千万人に見られましたという報告も可能になります。より、テレビの持つメディア・パワーを知らしめることができるようになると思います」と話した。

 その上で「テレビには多角的な訴求力があるので、それを示す指標は複数あっていいと思う。何人(が見た)とか、これまでの世帯視聴率では言えない面もあった。テレビのリーチ力が増えた点はいいなあと思っています」と続けた。

 26日、東京・六本木のテレビ東京で行われた定例会見で小孫茂社長(68)は「すでにいろいろなトライを編成、制作でやっています。家族での視聴を狙った方がいいのかなど、個人視聴の傾向はすでに分析済みです。4月以降はドラマ、バラエティー、ニュース番組の全てが、その狙いを十分に意識したものになっていくと思います」と明かした。

 その上で「個人視聴率は世帯視聴率と比べて数字としては下がる。ネット世界では何百万再生とか良く言われるが、ユーチューブの世界だと200万再生がユーチューバーになれる一つのメルクマール(指標)と言われている。テレビに流れる番組というのは、ある一定の滞留時間がいるので一概に比較はできないが、放送の世界では200、300万再生なんて、ざらにある数字と思う。視聴率で苦戦するテレ東でもネットで言う数百万再生に値するリーチ率だと思う」と分析した。

 最後には「そのリーチ力というものを見せたい。クライアントさん、一般の視聴者にもテレビ番組の持つパワー、リーチ力、これだけ届いているということ分かると、若い方々の見方が変わるのに期待しています。でなければ、わざわざ数字が下がるデータに変えるのはおかしい。放送の世界は変わると、大いに期待しています」と訴えた。

 27日、東京・台場のフジテレビで行われた定例会見で遠藤龍之介社長(63)は「新視聴率データ、特に個人視聴率は二つの観点で分析できます。インフラの発展、ニーズの変容です。その二つを合わせて、60年やってきた世帯視聴率から個人視聴率を最重要視してやっていきたいと思います」と前向きに話した。

 編成担当の石原隆取締役も「家族から個人、何人(が見た)に変わっていく。視聴者が望んでいるものをぜひ提供したいし、視聴者が驚くものを作っていきたい。広告主には、より精緻なデータで『こういう人たちが見ている』と報告できる。とてもいい方向にいっていると思います」と答えた。

 しんがりとして、31日、東京・六本木のテレビ朝日で行われた亀山慶二社長(61)の定例会見。この日は早河洋会長・CEO(最高経営責任者、76)も半年に1回の出席を果たした。

 どんな質問にも常に真っ正面から答えてくれる早河会長に、私はどうしても聞きたいことがあった。

 3月いっぱいでタレント・ビートたけし(73)がMCを務めてきた同局(制作はABCテレビ)の医療バラエティー「名医とつながる!たけしの家庭の医学」(火曜・後8時)が16年の歴史に幕を下ろした。後番組として沢村一樹(52)と昨年のM―1王者「ミルクボーイ」がMCを務める「これって私だけ?」がスタート。「ミルクボーイ」は今回がゴールデン帯初のレギュラー番組となった。

 大御所・たけしからホヤホヤのM―1チャンピオンへの変更に私はテレ朝の、ある思惑を感じていた。

 「相棒」、「科捜研の女」など、中・高年層に安定した人気を誇る長寿ドラマをずらりと並べて、首位・日テレを脅かしているのがテレ朝。週間視聴率でたびたび日テレの三冠王を阻止している点からも同局のラインアップの強さが分かるが、一方で視聴者が中・高年層に偏り過ぎていることは事実。若い視聴者へのアピールを狙う一部クライアントからの支持が得られず、広告セールスで苦戦しているという見方もあった。

 果たして今回のMC若返りには、ライバルの日テレが得意先とする若者層へのアプローチの狙いがあるのか―。そう思ったから、早河会長に聞いてみた。

 「16年続いた長寿番組の終了と、たけしからミルクボーイへのMC変更は個人視聴率発表という流れの中、中・高年層にコアなファンを持つテレ朝がターゲットを若者層にシフトするという狙いがあるのか?」―。

 この質問にこちらをじっと見た早河会長は「個人と視聴人数を非常に重視しているのは事実ですが…」と話し始めた。続いて、「テレ朝にはシニア層がコア(な視聴者)にいるが、その人たちは50~60代でまだまだ現役で働く人たち。高齢者というかシニア層の人口の中でのボリュームは今後、増える。この層は可処分所得があって、お金を持っているんです。ターゲット論で言うと、若者を狙うのは正しいけど、その若者の消費活動は変わってきている。例えば、我々の商売の元になるテレビは買わない、車は買わない、ゴルフはやらない。そういう高額商品を回避して皆でシェア、分けていこうという、物を売る時に、この層が本当に購買を牽引するのかって言うのには、私は首をかしげるんです」と早河氏は分析。

 その上で「テレビは一斉同報でそこにマーケットがあるならば、全階層、オールターゲットに番組を流して楽しんでいただくもの。それこそ『8時だよ全員集合』のような番組で広告収入を増やしていきたいなという考えがあります」とし、「現実にアドバタイザー(広告主)の中でもシニア層をどうするかという議論が始まっている。プレゼンテーションもしています。そういう中でテレ朝はシニアにしかウケてないから負け惜しみ言っているんだとか言われるかも知れませんが、決してそういうことではない。視聴層を分析していくと、コアな人たちも取らなきゃいけないから個人(視聴率)も大事だけど、50歳以上の人たちは今回の新型コロナ関連の報道をものすごく見ている。そうした人たちへの情報の発信、番組の提供は忘れてはならないと、私は思います」と率直に答えてくれた。

 編成担当の西新取締役も「個人視聴率が導入されたからと言って、特に変える点はありません。時間帯を考え、番組のバランスを取っていく。オールターゲットにテレビをご覧いただける全ての皆さんに楽しんでいただける番組作れるように今後も頑張りたいと思います」と話した。

 どうだろう。各局トップの熱い言葉の数々をじっくり伝えてみた。私自身、2週間にわたった取材で、はっきりと見えてきたものがあった。

 それは個人視聴率を指標に若い視聴者狙いにシフトし、成功を収めている日テレと、あくまでも現在、手中にしている50歳以上の視聴者への目配りを忘れないテレ朝の首位争いからは絶対に目が離せないということ。何より視聴者へのアプローチ法が真逆にも見える両局の勝敗こそが近未来の視聴率争いの象徴となるだろうから。

 さらに1月クールの「テセウスの船」、「恋はつづくよどこまでも」の大成功で「ドラマのTBS」完全復活を印象づけたTBS、「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチフレーズのもと、82年から93年まで12年連続で視聴率「三冠王」に輝いた元絶対王者・フジテレビ、「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」始め一点突破のワンコンセプト番組で“ジャイアント・キリング”を狙うテレビ東京も黙ってはいないと、私は思う。

 今、各テレビ局は強烈な逆風にさらされている。新型コロナの感染拡大によるロケ中止にドラマ制作の延期、さらには東京五輪の1年延期に伴う編成の大幅見直し。何十年に一度の逆境の中、スタートした新視聴率調査が各局の激烈なシェア争いをどう変えていくのか。勝つのは、果たしてどの局なのか。興味は尽きない。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆民放5局の2019年度平均視聴率(51週、2019年4月1日~2020年3月22日)

 ▽日本テレビ 全日7・9(1)、プライム11・2(1)、ゴールデン11・5(1)

 ▽テレビ朝日 全日7・6(2)、プライム11・0(2)、ゴールデン10・8(2)

 ▽TBS 全日5・9(3)、プライム9・1(3)、ゴールデン9・1(3)

 ▽フジテレビ 全日5・7(4)、プライム8・0(4)、ゴールデン8・3(4)

 ▽テレビ東京 全日2・6(5)、プライム5・5(5)、ゴールデン6・0(5)

 ※数字は%、全日(午前6時~午前0時)、プライム(午後7時~午後10時)、ゴールデン(午後7時~午後11時)、数字の後の数字は5局中の順位

6年連続で視聴率三冠王を続ける“勝ち組”日本テレビ。1年前から個人視聴率を番組評価の指標としてきた
あくまで全階層、オールターゲットに番組を届けることを目指すテレビ朝日。三冠王・日本テレビを激しく追い上げている
すべての写真を見る 2枚

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

芸能

宝塚歌劇特集
NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請