”純UWF“中野が見たアンドレ戦直後の前田日明…金曜8時のプロレスコラム

プロレス専門誌「Gスピリッツ」と単行本「私説UWF 中野巽耀自伝」
プロレス専門誌「Gスピリッツ」と単行本「私説UWF 中野巽耀自伝」

 往年の雑誌「ゴング」(休刊)の流れをくむプロレス専門誌「Gスピリッツ」(辰巳出版タツミムック)の最新第55号が発売された。特集は「それぞれのU」で、旧UWF(1984~87年)でデビューした中野巽耀(54)、安生洋二(53)、宮戸優光(56)の「純U系プロレスラー」をクローズアップしている。これに先だって発売された単行本シリーズG SPIRITS BOOK「私説UWF 中野巽耀自伝」(1500円+税)の副読本のような企画だが、それにしてもマニアックすぎる。

 「1984年のUWF」(柳澤健著、文藝春秋)がヒットした2017年からUWF本はいろんな出版社から出続けている。やはりUWFとその象徴である前田日明氏(61)のカリスマ性は不滅で、虚実が入り乱れて盛り上がっている。そこで満を持して「G SPIRITS BOOK」が初めて出したUWFの単行本が、中野巽耀の自伝。渋すぎる。

 中野は、2000年から改名し巽耀になったが、本名の龍雄と言った方がピンと来る人も多いだろう。決してスーパースターではないが、旧UWFでデビューし、新生UWF(1988年から91年)、そしてUWFインターナショナル(1991年~96年)、さらにはフリーとして2017年のFMW対UWF軍の抗争に参加するなど、一貫してUWF戦士を名乗り、現役を続けている。専門誌ならではの価値基準だ。

 旧UWF組でいまだに現役なのは、中野とその師匠格の藤原喜明(70)の2人だけになっている。「Gスピリッツ」第55号では、その両者を巻頭で初対談させている。マニアックにもほどがあると言いたくなる。

 入門テストの試験官だった藤原組長が「お前は土佐犬のような顔つきをしていた」と言って合格にしてくれたという。今さらながら、その通りだと思った。中野はUWFの土佐犬だった。Uインターが、新日本プロレスに初めて乗り込んだ1995年9月23日の横浜アリーナ大会を取材したが、安生と組んだ中野が、長州力、永田裕志組と対戦。安生と永田が顔を腫らす”果たし合い“で、中野は腕十字固めで永田を仕留め、対抗戦で先勝してみせた。長州が「俺をキレさせたら大したもんだよ」と試合後に言ったことで話題になった試合だが、裏を返せば長州がそれだけ警戒した試合だったということ。

 藤原は中野のデビュー戦(84年8月29日、高崎での広松智戦で10分時間切れ)のレフェリーを務めており、「どっちかが死ぬまで、やるような感じだった」とはっきり記憶している。「そんな昔のことは忘れたなぁ」ととぼけるのが藤原流なだけに、その藤原が誇らしげに語る純UWF時代。この師弟は本物だと思った。中野いわく「バーリトゥードだった」と旧UWFの前座は、何でもありの総合格闘技だったことを認めている。

 中野の自伝では、そんな旧UWFが新日本プロレスとの業務提携時代に起きたUWFのエース・前田日明と“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアント(93年に46歳で没)の“伝説のケンカマッチ”(1986年4月29日、三重・津市体育館)を振り返っている。

 試合前から不穏ムードで、アンドレが危ない体勢で前田の首に体重をかけてきたり、流れるようなプロレスの攻防にならなかったため、前田がローキックを膝に打ちまくり、アンドレがリングに大の字になって試合放棄。不可解なノーコンテストマッチとなった。テレビ収録大会だったが、当時のテレビ朝日系「ワールドプロレスリング」では、放送されない”お蔵入り“となり、20年近く後になってDVD化されて話題になった。

 中野は自伝でこう記している。一部を引用すると「藤原さんは前田さんに『お前、よくやった!』と声をかけ、上機嫌。(中略)『あのグラウンドのときのアンドレの顔、怖かったなあ』前田さんが落ち着いた口調で、そう漏らした」

 さらに、あまり報じられなかった、その1か月後となる5月27日に福岡スポーツセンターで組まれたアンドレVS藤原のシングルマッチでのエピソードまで書かれている。「Gスピリッツ」での対談では、藤原組長にその試合についても突っ込んでおり、検証報道の徹底ぶりに感心させられる。

 「Gスピリッツ」佐々木賢之編集長(48)は「純粋なUWF選手は中野さんが第1号なんです。新生UWFの選手は中野さん以外、みんな著書を出してるんですよね。語られていない歴史があるはずなので、自分の中では確信がありました」と話し、発売2週間で増刷が決まったという。

 これまで、「G SPIRITS BOOK」では、「“東洋の神秘”ザ・グレート・カブキ自伝」、「キラー・カーン自伝」、「ケンドー・ナガサキ自伝」、「平成維震軍『覇』道に生きた男たち」(越中詩郎、小林邦昭、木村健悟、ザ・グレート・カブキ、青柳政司、斎藤彰俊、AKIRA著)など、マニアをうならせるレジェンド本を出してきた。中野こそマニアックなUWFレジェンドだ。プロレス興行の相次ぐ中止、無観客試合でファンのストレスはたまる一方だが、”伝説を読む“というプロレスの楽しみ方を今こそ味わう時だろう。(酒井 隆之)

 ◆中野 巽耀(なかの・たつあき) 1965年6月16日、茨城・下妻市生まれ。54歳。84年に旧UWFに入門。同年8月29日、高崎市中央体育館での広松智戦でデビュー。新日本プロレスとの業務提携時代を経て、新生UWF旗揚げに参加。団体解散後はUWFインターナショナルの設立に参加したが、96年に退団。フリーとしてWAR、格闘探偵団バトラーツ、超戦闘プロレスFMWなどに参戦した。172センチ、88キロ。

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