貴景勝 15日間皆勤で初の負け越しにも 「苦しくない」 カド番の夏場所に注目を

千秋楽で朝乃山に敗れた貴景勝
千秋楽で朝乃山に敗れた貴景勝

 貴景勝(23)=千賀ノ浦=が、38年ぶりの一人大関として臨んだ春場所を、7勝8敗で終えた。15日間皆勤しての負け越しは、昨年夏に大関に昇進してからは初めて。2018年九州場所の初優勝からは休場した2場所を除けば、6場所中5場所で2桁白星を挙げていた。だが今場所は、約2年ぶりに3連敗を喫するなど8敗。夏場所を、カド番で迎えることとなった。

 初場所後からの稽古を見る限り、今回の負け越しは「まさか」だった。2月中旬の朝稽古後、大関に「体、張ってますね」と声をかけたことがある。「巡業もない分、稽古を基本にトレーニングも積めている」。筋肉の張り、肌のツヤが、その手応えを裏付けていた。異変を見たのは、場所初日の10日ほど前。四股を踏む際、軸足となる左足の膝付近を気にしていた。「違和感がある」。それから稽古場では、左膝の曲げ伸ばしを確認する動きが見られた。

 だが左膝の違和感が、今回の結果全てにつながったとは考えにくい。番付発表後は、毎日部屋の関取衆と10番以上は申し合い稽古を行い、膝を気にしながらも相撲は取っていた。今場所8日目、北勝富士に勝った直後、左膝が震える様子がテレビに映った。右膝の大けがを負った昨年夏場所の悪夢が一瞬よぎったが、次の日も何食わぬ顔で土俵に立っていた。

 何より、貴景勝本人が今年に入って「ケガの不安なく、本場所に臨める」と語っているように、昨年の秋、九州場所も、右膝や左大胸筋のけがの不安を抱えながら勝ち星を重ねていた。「相撲が取れるのなら、出る」。出るからには、結果を残し続けてきたのだ。

 ただ今場所は、7勝だった。私は、貴景勝の中で「少しのズレ」が重なり、その修正が難しかったのではないかと考えている。左膝の違和感も、一因ではあるだろう。昨年夏に負った右膝のケガは、一度大関の座を手放す結果につながった。違和感を感じている以上、知らず知らずのうちに体の動きに制限がかかっていたのかもしれない。11日目、阿炎を土俵際まで追い込みながら負けた後、「自分の中では力を発揮してるけど、なかなか伝わってない」と話した。感覚と実際の動きに、差があったのだろう。

 また今回、無観客の場所だったという点も、少なからず影響があったと思う。「肉体を精神力で上回ることはできるけど、逆は無理」とは大関の言葉。日々最大限に闘志を高め土俵に上がる準備に、ぬかりはない。そしてその「精神」の一番の支えは、ファンの声援だろう。土俵に立ち、1万人の声で最後に自らを奮い立たせていたとすれば…。誰一人として「貴景勝」と叫ばない土俵上に、何か「抜けた」感覚を感じていたとしてもおかしくない。

 貴景勝は、一人のアスリートとしてストイックだ。食事から生活面、強くなるためなら徹底する。裏を返せば、それだけ繊細だということ。少しの変化、違いに敏感で、そこに順応しようとするだろう。今回も、自分の感覚と現実に起きていることのギャップを埋めようと、なんとか努力していたはず。だがいくら大関といえ、まだ23歳の一人の人間。うまくいかない時もある。

 7敗目を喫した13日目の取組後、「俺は全然苦しくない。こういう場所もあると思っているし、人が思っているほど苦しいとかは思ってない。いい経験していると思う」と語った。てっきり苦しんでいると思っていた我々はあっけにとられたが、本音だろう。貴景勝は、どんな経験でも、「この先の自分に生きる」と考えているのだ。

 力士としては、決して恵まれていない175センチの体格。抜群の運動神経と天性の下半身の強さを持つが、それを磨くのもたゆまぬ努力だ。23歳の大関がこれほど人を引きつけるのは、逆境を自らの力で乗り越え、闘う姿勢を私たちに見せてくれているからだと思う。これから綱取りを目指す貴景勝が、この経験を今後どのように生かしていくのか。まずはカド番の夏場所に、注目したい。

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