認知症の母を撮った24分、駆り立てた一言…原田美枝子、初監督ドキュメンタリー映画「女優 原田ヒサ子」3・28公開

今作がこれからの女優観にも影響を与えそうな原田美枝子(カメラ・小泉 洋樹)
今作がこれからの女優観にも影響を与えそうな原田美枝子(カメラ・小泉 洋樹)

 女優・原田美枝子(61)が、認知症の母を“主演”に初メガホンを執ったドキュメンタリー「女優 原田ヒサ子」が28日、東京・渋谷ユーロスペースで公開される。原田は制作、撮影、編集、監督、出演の5役を務めた。母が発した思わぬ一言から生まれた24分の映画。記憶がこぼれゆく中、「いま」を生きる母・ヒサ子さん。親の人生に向き合うことは自身を顧みることでもあった。カメラのレンズは肉眼では見えないものを映し出し、原田を驚かせたという。(内野 小百美)

 「私ね、15のときから、女優やってるの」。認知症で家族との記憶も薄れる中、介護施設で生活する90歳のヒサ子さん。ポツンと放った一言が、原田を今作に駆り立てた。「15歳から女優なのは私なのに。もしかして母に演じたい願望があったのかも…」

 娘の活躍を陰で支え、子供を誇りに思う気持ちが、冒頭の言葉となって口をついて出たのかもしれない。認知症を扱ったドキュメンタリーと聞くと、重い、暗いと想像しがち。それなりの勇気を持って見なければならないものも多い。今作は違う。負のイメージを払拭し、見る者の心をほっこり温める。

 ヒサ子さんが生まれたのは、世界大恐慌が起きた1929年。戦中、戦後と激動の中を家族のために生きてきた。チラシの写真は柔和そのもの。しかし、20代の結婚時の写真に原田は引き付けられる。強い意志がにじみ出た一枚。同一人物と思えないほど顔つきが違う。「驚きました。あんなに目力の強い花嫁さんは見たことがない。でも本来、母が持っていた一面で私にも受け継がれているのかも。そんなことを考えさせてくれて」

 早くに演技派女優の評価を得た原田。その昔、娘の出演作を見たヒサ子さんは「ウチの子じゃないみたい」と漏らした。この上ない褒め言葉だろう。時を巻き戻す。俳優を志す娘に母は言う。「好きなことをしなさい。お母さんは戦争でやりたいことができなかったから。でも、やるなら最後まで続けなさい」と。

 抱いた夢に覚悟を持って突き進め、という祈りにも近い願いを込めて娘の背中を押した。原田は若い頃、とんがって近寄りがたい雰囲気を漂わせていた時期もある。でも、そうやって踏ん張り、母との約束を守り通した。

  • 「女優 原田ヒサ子」のチラシより

    「女優 原田ヒサ子」のチラシより

 思い出、記憶とは何だろう。いまのヒサ子さんは水を手ですくってもこぼれ落ちていくように過去は消えていく。あるのは「いま」だけ。「一瞬」を生きる人だ。しかし、穏やかで満ち足りた味わいのある表情は、紛れもなく刻んできた人生を物語っている。

 慣れないパソコンで初めてやってみた編集作業も新鮮だった。「これほど母と向き合い、母を思うことはなかった。この時間が持てたことの幸福。母はお芝居が未経験なのに女優の雰囲気で。これは間違いなく母の中に存在したものなんですよね」

 不思議だ。映像からはヒサ子さんがまとう柔らかな空気までも伝わってくるよう。「そうです。肉眼では見えないのに、レンズを通して映し出されることがある。信じられないことが起きる。命を削ってでも私がずっとこの仕事をしたいと思うのは、その奇跡に出会いたいがため、なんですね」

 母を撮ることで「演じる」ことの原点、尊さに改めて気づくことができた。「濃密で多くの発見があるとは、最初は想像もしていなかった。でも、これはきっと母からのギフトだと思う」。ラストシーン。母娘が海を見ながら歩く。ヒサ子さんの胸元には小さなマイクがしのばせてあった。

 「母は強い向かい風の中、小さな声で『負~けるもんか』と独り言を言っていた。思ったんです。この明るさと強さで、私たち家族を見守り続けてくれたんだと」。わずか1館(入場料1000円)で封切られるが、英語字幕版の作業も始まった。スクリーンのヒサ子さんが、海を渡る日も近い。

 ◆3人の子ども協力

 今回、原田の子どもたちも強力タッグで母を支えた。長男でVFXアーティストの石橋大河(31)、長女でシンガー・ソングライターの優河(ゆうが、28)、次女で女優の石橋静河(25)の3人。原田の多忙なときは、ヒサ子さんが子どもの面倒を見ており、全員おばあちゃんが大好き。原田は「長男は優しくて穏やか。癒やし系男子。長女は真ん中なのでいつも冷静で調整役。静河は私と同じ末っ子で頑固な面も」と話しつつ、信頼を寄せる。子どもたちとの合作で完成した。

 ◆原田 美枝子(はらだ・みえこ)1958年12月26日、東京都生まれ。61歳。74年映画「恋は緑の風の中」主演でデビュー。76年「大地の子守歌」「青春の殺人者」でブルーリボン賞新人賞など。主な出演映画に「絵の中のぼくの村」「愛を乞うひと」。報知映画賞は新人、助演、主演2回と女優で最多の4度受賞。ドラマ、舞台でも活躍。特技は英会話、乗馬。夫は87年に結婚した俳優で歌手の石橋凌。

 ◆原田 ヒサ子(はらだ・ひさこ)1929年11月22日、千葉・館山市の漁師の家に12人兄弟の10番目の子供として生まれる。学徒動員で軍需工場や零戦を作る作業も。20代でオフセット印刷工の喜代和さんと結婚。高度成長期にはパートをしながら3人の子供を育てた。

今作がこれからの女優観にも影響を与えそうな原田美枝子(カメラ・小泉 洋樹)
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