奈良クラブ、新社長のもと不祥事発覚から“バルサ流”価値観でJ3昇格へ

2月にJFL奈良クラブの新社長に就任した浜田満氏
2月にJFL奈良クラブの新社長に就任した浜田満氏

 昨年、入場者数の水増しが発覚した日本フットボールリーグ(JFL)の奈良クラブが、新社長のもとで再出発を図っている。2月に就任した浜田満氏(44)は、日本代表MF久保建英(18)がスペイン1部バルセロナの下部組織に入るきっかけとなったバルセロナキャンプを日本で主催するなどの実績の持ち主。欧州のビッグクラブとビジネスを展開してきた経験を武器に、新たな改革に挑んでいる。(取材・構成=種村 亮)

 J3昇格を目指す奈良クラブの不祥事が明るみになったのは昨年12月。15年度から5年もの間、ホームゲームで入場者数を水増ししていたことが発覚した。中川政七前社長は辞任。後任として白羽の矢が立ったのが、数年前から中川氏と交流を続けていた浜田氏だった。

 「人生設計では55歳くらいからやるつもりだったんですけど、いま挑戦することで10年先にもっと良い形でクラブ経営ができると思った。自分の地元、というのも大きかったです。状況的には僕がやらなければつぶれる可能性があった」

 大学を卒業後、商社勤務などを経て欧州サッカークラブの権利ビジネスに携わった。その後、バルセロナのソシオ(クラブ会員)日本公式代理店として独立。以降、バルセロナキャンプやスクール、大会運営など多様なサッカー事業を手がけた。そうした実績がありながら、社長就任後は想像以上の逆風を実感。関係各所と顔をつきあわせて話すことに、まずは力を注いだ。

 「スタッフはもちろん、サッカー協会やスポンサー、あとはサポーター。クラブに届いたクレームに対しては直接連絡し、不信感を持たれているサポーター一人一人と話す機会をつくっています。大阪まで行ったりもしました」

 バルセロナなど欧州クラブを参考に新しくスタートさせようとしているのが「サポーターズトラスト」だ。社団法人を設立し、そこに集まった資金でクラブの株式を購入。最終的にクラブの議決に拒否権を持てるようにするなど、経営に参加できる制度だ。バルセロナのソシオ制度は有名で、クラブ運営は世界中にいる会員の会費などでまかなわれる一方、会員はクラブ会長選挙の投票権を持つ。

 「なぜ皆バルサを好きかというと、アイデンティティーとして一体化しているからなんです。そこに至るにはソシオが影響しているかもしれない。自分がクラブのステークホルダーになれるというのはプラスの影響が出るんじゃないか」

 育成にもこれまで以上に精力的に取り組む。自身が展開するスクール事業で得たノウハウを基に、欧州で編み出された指導方法を導入していく意向だ。

 「才能を発掘し、そこに適切なメソッドを投入してあげる。この2つが強いチームを作る原則。(久保)建英のレベルだとどこでも発掘されると思いますけど、それに近しい選手はいる。それをどう見つけるか」

 「今季の目標は、まずクラブの信頼を回復すること」と強調した浜田社長。その先に思い描くのは“バルサ流”価値観の体現だ。

 「バルサにはクラブともめて辞めた人もたくさんいるけど、バルセロナという象徴は大好きなんです。食事の席でどれだけ悪口を言っていても、結局『バルサ乾杯』となってしまう。時間がかかるかもしれないけど、奈良クラブもそういうクラブにできれば」

 ◆奈良クラブ 1991年に都南クラブとして創設し、97年に奈良県リーグ1部に昇格。08年、現チーム名に変更。10年、関西1部リーグに昇格。13年にJリーグ準加盟クラブ(現Jリーグ百年構想クラブ)に認定され、15年度からJFLに参入する。ホームタウンは奈良市を中心とする県全域。ホームスタジアムはならでんフィールド(奈良市鴻ノ池陸上競技場)。昨季はリーグ14位。

 ◆浜田 満(はまだ・みつる)1975年12月26日、奈良市生まれ。44歳。一条高、関西外大スペイン語学科を卒業し、食品メーカー、商社、在ベネズエラ日本大使館勤務を経てサッカービジネスの世界へ。04年に独立し「アメージングスポーツラボジャパン」を設立する。自身は小・中・高とサッカー部に所属。座右の銘は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。趣味は映画観賞。既婚。

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