「野球を日常に」さらに続くタフな戦い

オープン戦が中止となり、選手もほぼ現れなかったエンゼルスのキャンプ地・米アリゾナ州テンピのディアブロスタジアム(2020年3月13日撮影)
オープン戦が中止となり、選手もほぼ現れなかったエンゼルスのキャンプ地・米アリゾナ州テンピのディアブロスタジアム(2020年3月13日撮影)
入場門を閉ざされたエンゼルスの本拠地・テンピディアブロスタジアム(2020年3月15日撮影)
入場門を閉ざされたエンゼルスの本拠地・テンピディアブロスタジアム(2020年3月15日撮影)

 メジャー開幕は2週間の延期から、さらに8週間、少なくても5月半ばまでの再延期を余儀なくされた。猛威をふるう新型コロナウイルスは全米50州全てに感染者を生んだ。非常事態宣言が各地で発令され、ニューヨークのマンハッタンでさえゴーストタウン化させてしまった。

 キャンプ地をあとにする選手の姿や、練習用具がトラックに積まれて施設から運び出される映像や写真を見るたびに、日常から野球というスポーツが奪われる悲しみに襲われる。

 1994年8月12日、メッツの本拠地シェイ・スタジアム(当時)のクラブハウスでのことだ。労使が真っ向から対立。選手会は期限だったこの日、オーナー側からの回答が得られなかったことで、プロスポーツ界最長の232日間にも及ぶことになる選手ストライキを決行した。選手はクラブハウスで落胆の表情を浮かべながら、重苦しい空気の中で黙々と荷物整理をしていた。「本当に、本当に残念だけど仕方がない。再開が決まるまで故郷でしっかりトレーニングをしておくよ」と25歳のルーキー、リコ・ブローニャは言った。

 タイガースからトレードで3月に移籍。6月に入ってレギュラー一塁手の故障によりプロ7年目にして初のメジャー昇格を果たした。チャンスを生かして、この日まで39試合で打率3割5分1厘をマーク。そのままレギュラーを奪う勢いだった。無念さを隠すように、いつもの明るい笑顔を見せようとする好青年の姿が何ともいじらしかった。

 キャンプ地からの寂しい映像を見るたびに、あの日のブローニャの意気消沈した姿が、四半世紀経った今もオーバーラップする。もちろん人々を脅威にさらすウイルスと、金持ち同士の争いと言われたストを同列に並べるつもりはない。しかし、野球というスポーツが目の前から消えてしまう現実には変わりはない。

 いつ開幕できるのか。終息のメドどころか、これからピークを迎えると見られる状況のもとで論じるのはナンセンスだが、現地メディアでは6月、あるいは7月開幕説などが取り沙汰されている。いずれにしても大幅なスケジュール変更に取り組む必要が出てくるだろう。すでに延期によって経済的損失は20億ドル(約2120億円)とも見られている。

 深刻なのは、レイオフされることになる球場で働く従業員などの生活だ。特に、選手たちから受け取るチップが収入の大半となるクラブハウス係は死活問題である。こうした危機的状況に、支援が始まっているのは救いだ。MLB機構、選手会が球場従業員などにそれぞれ100万ドルの寄付を表明したのに続いて、全30球団も100万ドルずつの支援を決めた。アンソニー・リゾ、ジェイソン・ヘイワード(ともにカブス)ら、個人として医療機関へのサポートを始めている選手たちも増えてきた。

 目に見えないウイルスでは、2001年の9・11のときのように選手が体を張ってサポートはできないが、その輪はますます広がっていくだろう。あらゆる分野を脅かす新型コロナウイルス。野球を日常に戻すまでのタフな戦いは続く。(出村義和=スポーツジャーナリスト)

オープン戦が中止となり、選手もほぼ現れなかったエンゼルスのキャンプ地・米アリゾナ州テンピのディアブロスタジアム(2020年3月13日撮影)
入場門を閉ざされたエンゼルスの本拠地・テンピディアブロスタジアム(2020年3月15日撮影)
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出村 義和
 (でむら・よしかず)1971年、ドジャースタジアムでMLB初観戦。ベースボールマガジン社でアメリカ総局勤務、週刊ベースボール編集長などを務める。独立後、ニューヨークをフランチャイズに19年間MLBを中心に多岐にわたるジャンルで取材、執筆を行う。帰国後、JスポーツでMLB中継の解説者も務める。

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