2007年世界陸上「僕はゴールしたんですか」係員ミスで棄権扱い 競歩・山崎勇喜が「感謝」のラストウォーク

レース後、東京五輪50キロ競歩代表に内定している鈴木雄介(左端)らと記念撮影する山崎(中央手前、カメラ・中田 康博)
レース後、東京五輪50キロ競歩代表に内定している鈴木雄介(左端)らと記念撮影する山崎(中央手前、カメラ・中田 康博)
拍手を受けながら笑顔でゴールする山崎
拍手を受けながら笑顔でゴールする山崎

◆全日本競歩能美大会(15日・石川・能美市日本陸連公認コース)

 富山市出身で、アテネ、北京、ロンドンの3大会連続で五輪に出場した男子50キロ元日本記録保持者の山崎勇喜(36)=富山陸協=が、現役最後のレースとして20キロに出場した。スタート直後から出遅れたが家族、友人らの声援を受け粘り強く歩き、1時間46分18秒でゴール。最下位の53位だったが、競歩界のレジェンドは、涙のラストウォークで競技人生を締めくくった。

 万感の思いを込め、山崎は両手を掲げてゴールに飛び込んだ。目指していた東京五輪への出場はかなわなかったが、仲間に祝福されながら、富山商から20年以上続いた競歩生活に終止符を打った。「残り1周で終わる時、ちょっと涙が出ました。みんなに応援されて本当に幸せ。楽しく歩けました」と感謝。レース後は一緒に戦ってきた仲間、後輩たちと笑顔で記念撮影した。

 万全の状態には、ほど遠かった。昨年1月に痛めた右臀部は、同6月には歩行困難になるほどに悪化。今年1月末に練習復帰するも「体力が全然、落ちていて、モチベーションも下がった。引退を認めたくない自分がいたが、区切りを付けたい」と、今大会を引退レースにすることを決めた。この日はスタート直後から出遅れたが「ビリになることは最初からわかっていた。感謝の気持ちを歩きで表現したい」。時折苦しい表情も見せながらも20キロを歩き抜いた。

 波乱万丈の競歩人生だった。順大在学時の04年、日本選手権50キロで初優勝すると7連覇。標高2200メートルの高地トレーニングで1日60キロを歩く猛練習を積むなど強さを見せた。一方、07年の世界陸上大阪大会では、係員のミスで周回数が足りず、棄権扱いになるという悲劇も体験。「長い競技人生では、過食や拒食、鬱(うつ)の期間もあった。でも、世界一になりたい夢はぶれなかった」。大きな目標を持ち続け、辛いことも乗り越えてきた。

 3度の五輪出場を果たすも、近年は成績低迷。一昨年には上司から引退勧告も受けたが「東京五輪へ1%の可能性があるなら続けたい」。競歩への情熱は冷めることなく、自衛隊の仕事を続けながら、一般競技者として挑戦してきた。08年の北京五輪男子50キロは7位。男女を通じて日本勢初の入賞を果たすなど、競歩界をリードしてきた36歳。世界一の夢こそ叶わなかったが、次世代へのバトンは、確実に受け継がれた。

 今後は指導者に興味もあるが、まずは自衛官として業務に専念する予定。「東京五輪は金メダルも期待できる。歴史が変わる瞬間を見たい」と山崎。日本競歩界の礎を築き、果たせなかった夢を後輩に託す。(中田 康博)

「事件」誘導ミスで1周足りず

 〇…山崎の名を一躍有名にしたのは、2007年9月、世界陸上大阪大会50キロ競歩で起こった“誘導ミス”だ。酷暑の中、1周2キロの周回コースで入賞争いをしていた山崎に対し、係員が規定の周回数より1周少ないまま、ゴールのある長居スタジアムに誘導。暑さで意識がもうろうとする山崎は「僕はゴールしたんですか」との言葉を残して倒れた。途中棄権扱いとなり、北京五輪内定となる8位入賞を逃した。当時を振り返った山崎は「誰もが記憶にあり、僕と言えば大阪の事件かなと思っている。自己紹介する時は必ず言ってます」と笑顔で話した。

 ◆山崎 勇喜(やまざき・ゆうき)1984年1月16日、富山市生まれ。36歳。富山商で競歩を始めた。順大卒業後、長谷川体育施設を経て11年から自衛隊体育学校所属。04年アテネ五輪から3大会連続で五輪出場。08年の北京五輪50キロでは日本人初の7位入賞。日本選手権50キロでは04~10年の7連覇を含む8度の優勝。179センチ、62キロ。好物は甘い物。

 ☆山崎の父・哲誠さん(71) 「レースができるような状態ではなかった。本人も悩んでいたが、1年間で気持ちの整理も付いたと思う。たくさんの思い出をありがとう」

 ☆滑川市出身の谷井孝行・自衛隊コーチ(37)「やめた年齢が一緒。山崎がいないと、自分の競技人生はなかった。切磋琢磨してきた仲間でライバルでした」

レース後、東京五輪50キロ競歩代表に内定している鈴木雄介(左端)らと記念撮影する山崎(中央手前、カメラ・中田 康博)
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