【あの日の五輪】「心技体はかけ算」教え子・大野将平に期待…2000年の篠原信一(下)

大野将平(左)と兄・哲也さん(右)と記念撮影する篠原
大野将平(左)と兄・哲也さん(右)と記念撮影する篠原

 東京五輪で連覇が期待される73キロ級のエース・大野将平(旭化成)は、篠原の世紀の大誤審を教訓にしている。金メダル確実と言われながら誤審に泣いた篠原のドイエ戦を「最も印象に残る試合」と挙げ、「『五輪に絶対はない』という気持ちにさせられる」と話す。

 篠原は自宅から近い母校・天理大の柔道場には指導者を退いた今でも時々、顔を出す。東京五輪イヤーの年明けの1月下旬に訪れると大野が稽古をしていた。

 「これでもかっていうぐらいすごい稽古をしてましたね。僕は稽古をよくすると思われた方だけど、大野ぐらいの稽古ができたかと言えば、できていなかったと思います」

 大野と話をした。後輩や教え子としてではなく、同じ柔道家として、連覇に挑む五輪王者の心境が聞きたくなった。

 「初めて金メダルを獲得した(16年)リオ五輪は勢いと若さがあって、東京に向かう今は経験がある、と。それを差し引いても、彼は『まだ勝てる気がしないんですよね』と言うし、『勝つっていうイメージはできても、絶対勝つっていうイメージはまだできていない』と言う。その話を聞いた時、こいつ、想像もつかない境地に入ってるなと、思いましたね」

 「心技体はかけ算」という持論がある。技術と体力がみなぎっていても、心がマイナスに落ちた瞬間に全てがマイナスになるというもの。ドイエ戦の試合中に誤審を受けた後、最後まで立て直せなかった心の弱さが敗戦の綻びになったと受け止めている。自分には最も足りなかった心の強さ。それが大野にはあると思った。シドニー五輪にともに出場し、金メダルを獲得した60キロ級の野村忠宏、100キロ級の井上康生も同様に「心技体、全てで調和していて、特に心の強さがありましたね。彼らなら僕のように同じ場面になっていたら、もう一回、相手を投げていたと思う」。

 2月27日に東京五輪に挑む男女代表が発表された。期待される史上最大のゴールドラッシュへ、篠原が日本代表に願うのは“仏造って魂入れず”にならないことだ。「最後の最後に自信につながるのは、積み重ねてきた日々の稽古。歩んできた過程を大事にして挑んでほしい」

 そしてエースの大野には、もはやエールは必要なしとばかりに言った。「野村もそうだったけど“勘違いモード”がすごい。一回、金取って『俺は最強に強い!』みたいのが人一倍あるんじゃないですか?(笑い) 勝つべくして勝つ男のメンタルみたいなのがありますから」 (小河原 俊哉)=敬称略、おわり=

 ◆2000年の世相 千年紀を意味する「ミレニアム」という言葉がクローズアップされた。「新語・流行語大賞」では「おっはー」(慎吾ママ)、「IT革命」が大賞。一年を表す漢字一文字には柔道の田村亮子、高橋尚子らの金メダル獲得で「金」。高橋の愛称「Qちゃん」や田村の名言「最高で金 最低でも金」も流行。プロ野球では巨人・長嶋茂雄監督の背番号3が復活し、日本シリーズでのON対決を制して優勝。ストーカー規制法も施行された。

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