「行けば強くなる」は間違い 大迫傑が選んだケニアという場所で感じたこと

1日の東京マラソンで日本記録を更新した大迫傑は2か月以上に及んだケニアでの合宿を行った
1日の東京マラソンで日本記録を更新した大迫傑は2か月以上に及んだケニアでの合宿を行った

 夢や目標というのは、日々生まれては消えていく。達成したり、届かなかったり、忘れたり。だが、不思議なことに、幼い頃に描いた「ケーキ屋さんになりたい」みたいなものは、意外と覚えているものだ。私にとって、その一つは「ケニアで走りたい」だった。

 サッカーに打ち込んでいた小学校時代だったが、福島の転校先にクラブがなく、担任の先生に誘われるがまま、陸上の道に進んだ。箱根駅伝で活躍した初代“山の神”の今井正人(35)=トヨタ自動車九州=に憧れて順大の門をたたくことになるが、物心ついたときに観戦したマラソンでは、アフリカ勢が頭角を現し始めていた。

 どうしてあんなに速いのか―。足が細いから? ハングリー精神? 呼吸器系や血液の状態? 想像の域を出ない疑問が次々と浮かび上がった。「いつか行って、走ったら分かるかも」と心の奥底で温め続け、ついに今年、実現した。

 ケニアでの生活は驚きの連続だった。停電は日常茶飯事。シャワーの水圧は、まるで小雨。温水にすると蛇口にも電気が流れ、ちょっぴり感電したり。観戦予定だったトップ選手も集うクロカン選手権はモイ元大統領の死去によって1週間開催が延期され、見ることはかなわなかった。

 だが、現地で出会った東京五輪男子マラソン・デンマーク代表のアブディハキン・ウラドが“魔法の言葉”を教えてくれた。「ケニアに来たのは初めてかい? そしたら、何かあったときにこう思えばいい。『ディスイズ ケニア』ってね」。滞在中に数え切れないほど、心の中で唱えたのは言うまでもない。

 標高2400メートルのケニア・イテンには数多くのランナーが集まる。日本からも1日の東京マラソンで2時間5分29秒の日本新記録をマークした大迫傑(28)=ナイキ=だけでなく、神野大地(26)=セルソース=や須河宏紀(28)=Volare Sports=、実業団のラフィネやスズキ浜松ACの選手もトレーニングを積んでいた。そこで彼らの走りを見て感じたのは「どこでやるか」ではなく、「何をするか」ということだ。

 「ケニアに行けば強くなれそう」、「大記録を打ち立てた選手がケニアでやっているから行きたい」-。そうではなく、「強くなるためにこういうトレーニングをしたい。これはケニアでやるのが一番だ」と覚悟と信念がなければ意味はない。様々な用途のロード、トラック、クロカンなどがあり、現地ランナーとともに質の高い練習が可能ではある。トレーニング環境として申し分ないのは間違いないが、必ずしも恵まれているからケニア人選手が強いわけではない。

 ある程度の基準はあるが、選手ごとにフォームが違うように、それぞれに合った環境やトレーニングが存在する。今回、大迫はケニアを選んだが、それが全てではない。前日本記録保持者の設楽悠太(28)=ホンダ=は行ったことはないし、井上大仁(27)=MHPS=も直前合宿はニュージーランドを利用している。それぞれが自分に何が必要なのか判断し、選択していく。走るだけではなく、そういったランナーとしての真の素質が必要な時代だと感じた。

 ケニア人ランナーにとっては今の環境が当たり前で、置かれた場所でいかにして花開くか、という努力をしている。それは日本人選手も同じで、今できることに注力できなければ、その先はない。日々、自分をアップデートし、成長できているか―。そんなことを考えさせられたケニアでの日々だった。(陸上担当・太田 涼)

 ◆太田 涼(おおた・りょう)1991年7月8日、福島市生まれ。28歳。2010年に順大スポーツ健康科学部入学。3年から長距離マネジャーを務め、4年時は駅伝主務。14年に報知新聞社入社、レイアウト担当を経て18年から取材記者として箱根駅伝担当。マラソン自己記録は12年ロサンゼルスでの2時間33分41秒。

スポーツ

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請