◆報知新聞社後援 東京マラソン(1日、東京都庁スタート~東京駅前行幸通りゴール=42・195キロ)
男子は日本記録保持者の大迫傑(28)=ナイキ=が自身の記録を21秒上回る2時間5分29秒の日本新で日本人トップの4位に入り、東京五輪代表3枠目を大きく引き寄せた。昨年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で出場権確保に失敗。以降は約2か月半のケニア合宿を経て、心身ともに鍛え直した。復活を証明した日本のエースは大会賞金も含めて1億600万円を獲得した。(晴れ、気温11・5度、湿度46・4%=スタート時)
吠(ほ)えた。泣いた。最後の直線、いつもクールな大迫も日本新を確信すると、荒々しく右拳を天に突き上げた。手首に巻かれた「YU&SUZU」とまな娘2人の名前が入った“お守り”のブレスレットにキス。さらにガッツポーズを4度。たけだけしい雄たけびを上げてゴールテープを切った。レース直後は感極まり、「9月に(MGCで)3位になって、ここまで一人苦しい戦いだったんですけど…」。孤高の男も言葉に詰まった。
涙の日本新は意外な展開から誕生した。日本勢では井上大仁(27)=MHPS=と2人で先頭集団でレースを進めるも、22キロ過ぎに脱落。だが「いかにリラックスして立て直すのか考えた」と反攻の機会をうかがい、視界に井上をとらえ続け、32キロ過ぎにスパート。最終盤はシャツをまくり苦しげに脇腹を押さえながらも日本のトップを守った。
昨年9月のMGCは3位に終わり五輪切符を逃した。悔しさにまみれる中、切符のかかる大一番を前に、拠点である米国を離れてケニア・イテンで合宿。期間は昨年12月から約2か月半に及んだ。標高約2400メートルの高地では、階段の上り下りだけで心拍数が急上昇する。厳しい環境に身を置き、走り倒した。
「目指すのは、日本一ではなく世界一」という負けず嫌いな男。生まれ育った東京・町田から長野・佐久長聖高への進学時、米国に拠点を置こうと考えた早大4年時と同じく、MGC3位という悔しさがケニアでの挑戦に向かわせた。
足元にも注目が集まった。大迫は1日発売のナイキ社の新たな厚底シューズ「エアズーム アルファフライ ネクスト%(αF)」を使用。「ナイキの新しい技術を使うことができるのは強み」と技術力の高さを信頼した。主催者による大会前日のシューズチェックには旧モデルも持ち込み、2足をギリギリまで比較。ケニアから帰国する際の飛行機内でもαFを履き、少しでも履く回数を増やした。結果として足になじみ、レースで使用するに至った。
昨年大会は低体温症とみられる体調不良で29キロ付近で途中棄権するなど、振るわない一年だった。激闘を終え、「五輪に一番近い存在になれた。自分を信じて準備を進めたい」とかみしめるように口にした。
ファイナルチャレンジ最終戦となる8日のびわ湖毎日マラソンで日本新をマークする選手が現れない限り、五輪切符は大迫に転がる。ワンチャンスをものにして道を切り開こうとしている日本のエース。夏の大祭典へ、役者はそろいつつある。(太田 涼)
◆マラソン日本記録の複数更新 大迫が2度目の日本記録を更新。男子で複数回の更新は65年別府大分の寺沢徹以来、55年ぶりの快挙となった。寺沢は4回、広島庫夫と中尾隆行は3回。女子では高橋尚子が3回、日本記録をつくった。