【王手報知】女性初の棋士を目指して決戦に臨む西山朋佳三段「全ての雑念を離れ、一切の後悔もなく」

女流王座就位式で多くの関係者から激励された西山朋佳三段
女流王座就位式で多くの関係者から激励された西山朋佳三段
女流棋戦では女王、女流王座、女流王将の3冠を保持する西山
女流棋戦では女王、女流王座、女流王将の3冠を保持する西山
1966年、初段免状を受け取る奨励会員時代の蛸島彰子
1966年、初段免状を受け取る奨励会員時代の蛸島彰子

 将棋史の節目になるだろうか。現在、棋士養成機関「奨励会」三段リーグで西山朋佳三段(24)が通算成績12勝4敗でリーグ3位につけ、3月7日の最終節に女性として初めて四段(棋士)に昇段する可能性を残している。蛸島彰子女流六段(73)が入会した1961年から59年、女性たちが目指してきた夢。西山が今の心境を語ってくれた。

 大勝負に臨む者の声の色は透明だった。西山は胸に中にある思いを言葉にした。「今、全ての雑念から離れられている気がしますし、一切の後悔がないように過ごせています。駄目だった場合の気持ちの整理は付いているので、いつも通り臨めると思うんです」。重圧や気負いの影はない。澄んだ心で決戦を見つめている。

 到達するかもしれない領域を別の何かに例えるのは難しい。あえて挙げるならば「女性初のNPB選手」「女性初のJリーガー」という過去に実在したことのない人物になってしまう。形容するなら「マンガのような」という言葉になるだろう。

 将棋のプロは性別を問わない「棋士」と女性のみの「女流棋士」に制度が分かれる。四段(棋士)に昇段にする権利は原則、奨励会三段リーグを突破した者に与えられるが、過去に女性で棋士になった者は1人もいない。

 三段リーグは各18戦を戦い、最終順位の上位2人が四段に昇段する。同星で並んだ場合は前期成績が反映される「順位」の上位者が上位となる。8期目を戦っている西山は、今期参加している30人の三段のうち唯一の女性で、現在3位につけている。

 3月7日の最終節で横山友紀三段、伊藤匠三段との最終17・18回戦に臨む。自らが連勝し、現在2位の服部慎一郎三段が1敗した場合は西山の昇段が確定する。また、自らと服部三段が連勝し、現在1位の谷合廣紀三段が連敗した場合も昇段を果たす。

 女性が「女流棋士」ではなく「棋士」を目指す歴史は、まだ女流棋士制度自体がなかった1961年まで遡る。未開の地を歩み始めた蛸島彰子は特例ルールで初段まで昇段したが、退会。以降は林葉直子、中井広恵、矢内理絵子、甲斐智美、加藤桃子ら後に女流棋界の頂点に君臨する女性たちが挑んだが、高い壁は越えられなかった。

 最も「女性初」に肉薄したのは、今月11日に女流名人11連覇を成し遂げた里見香奈女流名人(27)=清麗、女流王位、倉敷藤花=だった。史上最強の女流棋士は11年、女流棋戦と並行して奨励会に入会。女性初二段、女性初三段と新たな足跡を刻んだが、最終関門の三段リーグを突破できないままに18年、年齢制限の26歳を迎えて退会を余儀なくされた。

 西山は2010年に入会し、10年間戦い続けてきた。16年には三段デビューを飾り、いきなり10勝8敗と勝ち越した。1期目の最終戦で激突したのは当時14歳の藤井聡太現七段。西山に勝って史上最年少での四段昇段を決めた少年は後に数多くの記録を塗り替え、時代の寵児になった。

 以降の三段リーグ6期で6勝12敗、9勝9敗、7勝11敗、11勝7敗、5勝13敗、7勝11敗。激しい波に揺られながら、ようやく好機を手にした。

 「好調なのは純粋に努力の量が増えたこと。あとは強い先生方(棋士)が諦めずに教えて下さるので、頑張らなくちゃと思います」

 女性初と期待されることをどう感じているのか。

 「私は自分の性別を考えながら将棋を指しているわけじゃないです。私、あんまり女性っぽくないし…。でも『女性初』は単純にモチベーションになるから有難いです」

 快挙への機運は高まるが、条件は「自力」ではない。西山は連勝しても上位者の敗北を待たなくてはならない。自分の力ではどうすることも出来ない領域に運命を委ねなくてはならない。

 かつて西山は言っていた。

 「将棋は孤独ですけど…私は苦にしないんです。向いていたのかなって。将棋は全て自分の責任って思えるから気楽なんです。感情が動きにくいタイプで、将棋を指すことで喜怒哀楽が生まれることをどこか楽しんでいるのかもしれません。将棋で勝つことは何にも代え難いです。境遇を楽しみたいです」

 達成すれば将棋界の垣根を越えた話題になり、多くの人々が祝福するだろう。しかし、もし今回実現しなかったとしても、西山には年齢制限まで最小でも残り3期の機会がある。3月7日が歴史に残る一日にならなくとも、落胆ではなく激励の声を贈りたい。(北野 新太)

 〇…西山は20日、都内で行われた女流王座就位式に出席した。昨年10~12月の5番勝負で里見香奈女流王座からタイトルを奪取したことを祝福する集い。深紅の和服姿で臨んだ謝辞で「三段リーグがどのような結末を迎えようと、今回のこと(女流王座獲得)は自分の大きな心の支えになると思います。あたたかく見守っていただけたらと思います」とあいさつした。

 ◆西山 朋佳(にしやま・ともか)1995年6月27日、大阪府大阪狭山市生まれ。24歳。伊藤博文七段門下。5歳で将棋を始める。2010年、関西奨励会入会。14年1月に初段、同9月に二段、15年12月に三段昇段。18年、マイナビ女子オープンで初タイトルの女王を獲得。19年はいずれも里見香奈を相手に女王防衛、女流王座と女流王将を奪取。攻める振り飛車党。慶大休学中。姉の静佳さん(27)は囲碁棋士初段。

 【先駆者からのエール】

 過去の女性奨励会員は全20人。現役は3人。先駆けとして第一歩を刻んだ蛸島彰子女流六段は「男性に伍(ご)して戦っている西山さんのことをいつも応援しています」とエールを送る。三段リーグの結果は常にチェックしているとし「重圧は掛けたくないですけど、本音を言うと四段になってほしいです」と期待を寄せる。

 入会は1961年。当時は女性が将棋を指す文化さえなく、異端中の異端だった。男性会員の間には、蛸島に負けると髪を丸刈りにする暗黙のルールもあった。「厳しい世界に入れば強く生きていける、と父が勧めてくれて。いつもひとりぼっちでしたけど、嫌な思いもしませんでした。みんな将棋を志す仲間でした」

 一人きりで道を開拓した者として、蛸島にはひとつの願いがある。「もし西山さんが四段になれたら、里見(香奈女流名人)さんにも棋士編入試験を受験して棋士になってほしい。将棋の歴史はライバルの歴史。切磋琢磨して、もっと強くなってほしいです」。後継者たちに夢を託している。

女流王座就位式で多くの関係者から激励された西山朋佳三段
女流棋戦では女王、女流王座、女流王将の3冠を保持する西山
1966年、初段免状を受け取る奨励会員時代の蛸島彰子
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