話題は「サイン盗み」ばかりの異常キャンプ

サイン盗み問題への処理のまずさが批判されているマンフレッド・コミッショナー
サイン盗み問題への処理のまずさが批判されているマンフレッド・コミッショナー

 キャンプ地は野手組の合流で一気に賑わいをみせる。球場には開門を待ちわびるファンが列をなす。オープン戦が開幕するまでの数日間はキャンプ期間の中でも最も快適で、素敵な時間である。全体練習は3時間程度で終わってしまうが、ファンにとっては間近で選手をみることができ、サインをもらえるチャンスも十分にあるし、運が良ければお気に入りの選手と会話だって楽しめる。

 メディアにとっても、比較的のんびり調整している主力選手に取材をするタイミングに恵まれる。レギュラーシーズン中とは違う話題で盛り上がる余裕もあり、選手の知られざる一面をみることもある。

 選手たちはシーズンの希望を語り、首脳陣は下馬評に関係なく等しく優勝の可能性を口にすることができる。クラブハウスでの早朝取材を終え、グラウンドに出たときの新鮮な芝生の匂いと、気持ちを引き締めるようなひんやりした風と、まるで体を解放してくれそうなまぶしく輝く太陽…この時期にこそ、満喫できる。

 キャンプ地からは希望に満ちた情報が発信される。特に、この時期はそういうタイミングなのだ。ところが、今年は例外的な幕開けとなってしまった。聞こえてくるのはシーズンのことよりもサイン盗み問題のことばかり。

 当事者の対応が酷すぎた。他球団の選手やファンの間で米大リーグ機構の処分への不満がくすぶっているさなか、キャンプインに合わせて行った会見でアストロズのオーナー、ジム・クレインが全面的に謝罪するべき席でサイン盗みが「試合に影響したとは思わない」と、強気な発言をしたあとすぐに、これを翻すようなコメントをするなど、問題と真摯に向き合っているとは言い難い姿勢を露呈。

 これに対して反発の声が上がる最中、今度はアストロズ主力のカルロス・コレアが批判の矢面に立っているホセ・アルテューベを全面擁護する発言を行って、まさに火に油を注ぐような事態に陥った。

 調査に協力した選手に対して一切の処分を控えたコミッショナーのロブ・マンフレッドへの批判も高まっている。今や、ウォールストリート・ジャーナル紙のスクープでその調査報告書の信憑性まで疑われているのだ。

 こうした一連の流れの中でキャンプインしたビッグネームからも批判が相次いでいる。メジャーの顔で、普段は発言に慎重なマイク・トラウト(エンゼルス)も「耐え難い行為だ。選手に処分がないのは納得できない」と、はっきり口にした。また、ヤンキース選手のスポークスマン的立場になってきたアーロン・ジャッジも複雑な表情を浮かべながら「(チャンピオンの座は)不正で手に入れたもの」と語り、ダルビッシュ有(カブス)などが主張する「タイトル剥奪」まで言及した。

 この2人は人格的にも一目置かれる存在である。その彼らが、ここまでいっているのだ。それが切ない。

 オープン戦が始まれば、話題の方向性は変わるだろう。しかし、アストロズへのわだかまりが残ることは必至だ。選手たちは頂点を目指して戦うのだから。

 また、コミッショナーに対しても不満は溜まっている。甘い処分だけでなく、ワールドシリーズの優勝トロフィーを会見で「ピース・オブ・マテリアル」(金属品)といったのだ。のちに謝罪したが、選手たちが目指す栄光の先にあるものに対して何という知性のない表現をするのか。今季はいくつかのルール変更が行われる重要な年でもある。こうした混乱を一刻も早く排除し、期待値が高まるシーズンにするためには何よりもコミッショナーの正しいリーダーシップが求められる。

 出村義和(スポーツジャーナリスト)

出村 義和
 (でむら・よしかず)1971年、ドジャースタジアムでMLB初観戦。ベースボールマガジン社でアメリカ総局勤務、週刊ベースボール編集長などを務める。独立後、ニューヨークをフランチャイズに19年間MLBを中心に多岐にわたるジャンルで取材、執筆を行う。帰国後、JスポーツでMLB中継の解説者も務める。

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