【巨人特集】「おごりがあった」岡本和真が自覚を持って進む巨人の4番道

1月の自主トレを岸田(左)、吉川(右)と共に行った岡本
1月の自主トレを岸田(左)、吉川(右)と共に行った岡本

バットが乾いた音を放つと、「ぷっ」と吹き出す声がした。

岡本和真の打撃練習。白球はセンター方向にはじき返された。

「やばいよ、やばい」

共に練習する吉川尚輝はその鋭い打球の伸びに、驚きを越えて思わず笑い出してしまう。1月、慶応大学下田グラウンドで岡本は面白いように打球を飛ばしていた。

「ゆっくり見せて飛ばすのがパワーヒッターの神髄だと思うんですよね」

長距離砲としての考え

追求しているのは、力みのないスイングからのホームラン。

「人それぞれ考えは違うと思いますが」

前置きした上で語り出した。

「今はフルスイングというか、強く振る人が多いじゃないですか。でもそれって、出来る人と出来ない人がいると思うんですよね。強振してコンタクトしているのはすごいな、と思います。やっぱり、振れるってスゴイから」

「僕は振れないんで。まあ、振らないんで。フルで振って飛ばすタイプじゃないので」

巨人の4番に座って2シーズンを終えて迎えたオフ。岡本の言葉には確かに自信が表れていた。

すべてはコーチの助言から始まった

あれは2017年、プロ3年目を終えた秋季キャンプでのことだった。それまでバットのヘッドを前に倒す構えだったが、バットを立てて構えることにした。

当時の二岡智宏1軍打撃コーチの助言だった。

2軍では4番を任されていた。だが、戦う場所を1軍に設定するために、必要なことだった。

一流投手たちの速いストレートとキレのある変化球への対応力を上げるには、スイングの無駄をなくす必要があった。バットを立てることにより、その無駄をなくす。

とは言っても、打撃フォームはそう簡単に変えられるものでもない。

「全然あかんくて。こんなんやっても無理やって、絶対打てんよと思ってた。正直、そうっすよ」

投げ出すこともできた。だが、岡本は逃げなかった。

2軍生活から抜け出すために

「やらなあかん、なんか変えなあかん、って思って」

ドラフト1位で入団して3年。1軍定着はなかった。年間143試合ある中で、15年に17試合、16年は3試合、17年も15試合しか1軍の試合に出場していなかった。

「いろんな人に色々と言われてたんで…『もう無理だろう』とか。そういうのは見返したろうと思ってました。思ってましたよ」

自分を信じてはいた。でも1軍定着する姿を自分の頭の中ですら、描けなかった。

「イメージできなかったっす」

なんとかしなければ―。

救世主が現れた

その解決法を見出してくれたのは「おかわり君」こと西武の中村剛也だった。

知人を介して、練習を共にできるチャンスを手にした。17年の秋季キャンプから帰京した後の12月だった。

豪快というより、やわらかくバットをコントロールする中村のスイング。

「ロングティーを見ていて、気づいたんです。こうや!オレと違うのはここや!って思ったんですよ!こうやったんや!と」

その日の自分を思い出して語る声は、自然とボリュームも上がっていた。

「肩の後ろから打ってる」感じ。打席に立った時に捕手の方向からバットを出してくるスイングにヒントを得た。

「二岡さんも同じことを教えたかったんだと思います。でもその時に僕は理解できてなかった。あそこで打ち方を変えたことは、今の僕につながる一つの大事な部分ですね」

強靭な体にガラスの心

グラウンドに一瞬、緊張が走った。

「大丈夫か?」

岡本の左腕にイレギュラーしたノックの打球が当たった。

心配そうに見つめる周囲の顔を面白がるように、岡本は笑みを浮かべた。

「大丈夫。俺、打撲系には強いんよ。裂傷には弱いけど」

厚い胸板、太い腕。その上半身を支える下半身の大きさ。周囲の選手を細く、小さく見せる。そしてそのどっしりとした体は、実は繊細な心を持つ。

「なんて言うのかなあ…わかりません?急に自分の置かれた環境が変わったら、どうしたらいいかわからなくなりません?」

「僕もね、自分がそんなタイプだとは思ってなかったんですけどね」

19年シーズンに苦しんでいた心の内を吐露した。

求める理想が高すぎた

18年6月2日のオリックス戦(京セラドーム)で4番に抜てきされた。

そしてそこに座り続けて、史上最年少22歳でのシーズン3割30本塁打100打点を達成した。

迎えた翌19年。岡本は普通に「巨人の4番」と言われるようになった。

「嫌やったんですよ。そう言われるのが。前の年の途中から座っただけやったし、1シーズンだけでそうやって周りに言われるのは。自信がなかったからですね。去年は不安しかなかったですから」

「第89代4番」の名称が、岡本の上に重くのしかかっていた。

「初めて活躍して、その次の年で、どういう風に振る舞っていいのか、わからなくて。周りはそんなに気にしてなかったのかもしれないけど、僕が勝手に考え過ぎちゃって」

「それで去年は自分に厳しく、理想高くし過ぎちゃったんです。エラーなんかしたらどうなるのか、三振したらあかんのちゃうか…平常心では出来てませんでした」

自分自身に甘かった

そんな言葉とは裏腹に、昨オフの過ごし方はひどかった。10時に集合としたトレーニングの場に12時に現れたりした。

「12時ならまだマシっすよ」昨年同様に今年も一緒に自主トレをする同い年の岸田行倫が証言する。

「午前中ウェートトレーニングして、それから昼にグラウンド出てきて、アップして、ノックを受けて、それからバッティング、という流れの1日。それなのに、僕たちがバッティングしてる時に来たりしてたんですから…」

ちょっと恥ずかしそうに相棒の言葉を聞いていた岡本。

「朝起きられなかった。やっぱりおごりがあった。それしか考えられんもん」

「妥協してました。練習でも『今日これやろう』と思いながらも、いざ始めるとなるとやらんとか。そんな風にやってても、どっかで『いけるやろう』っていう気持ちもあったんで。めっちゃ、おごりでしょ」

プロの喜びを得た一方で

「年俸もいっぱい上がったし、満足しちゃったんだと思う。やっぱり、お金ってダメですね」

そう言って笑ったのは素の23歳の姿だった。

4番で活躍し球団史上最高の567%増の8000万円(推定)を手にした時、同級生たちはまだ大学4年。感覚がおかしくなるのも無理はないのかもしれない。

19年のシーズンを打率2割6分5厘、31本塁打、打点94で終えたことで、今年のオフは違う。

「今年は、理想を高く持って自分に厳しくするんじゃなく、そういう部分では自分にやさしく。でも、練習は厳しく。去年とは逆で行ってます」

年俸は1億4000万円(推定)までアップした。だが、うれしそうではない。

「思うような成績じゃないですからね。悔しいです」

「でもこれで2億円とかもらってたら、また練習しなかったでしょうね」

そう言っておどけてみせた。

メジャーから得るもの

携帯端末でつい動画を見てしまう。何かと思えば、やっぱり野球だった。

「ジャッジとか、スタントンは見ないんですよ。好みがあるんですよね。スプリンガーとかよく見ますね。あ、でも彼はアストロズですね…今はあまり良くないか…」

メジャーリーガーたちの打撃フォームに目を止める。ヤンキースの両長距離砲には興味がない様子。アストロズが今オフにサイン盗み問題で取りざたされていることも踏まえて話した。

打撃フォームの参考にすべく視聴しているのではない。ただ「好きだから」見ているという。

こんな風にこだわりのある岡本。4番へのこだわりも強く持っている。

もうビッグベイビーとは呼ばせない

19年6月4日の楽天戦(楽天生命)で、昨年から144試合座り続けた4番から6番に打順が下がった。

「ややビッグベイビーが困っているかなというところで少し助けてあげようかと」

原辰徳監督はそう説明した。

そしてそのビッグベイビーは今、大人になって振り返る。

「あんまり他の人が4番を打っているのは、気分良くないですよ」

不安だらけだった昨年までの岡本は、もう居ない。

「ジャイアンツの4番として、いいところを継承すればいいんじゃないかな、って思うんです。喜怒哀楽を出さないようにすることも大事とされてますが、そこは僕には無理かな」

「やっぱり、怒が一番多いんじゃないですかね。うれしい時も感情は出るけど、やっぱり悔しい時の方が出ちゃいますよね」

唯一無二の4番へ

ただ、4番の先輩である阿部慎之助(現2軍監督)の言葉はずっしりと胸にこたえた。

「打てなくても、バット担いで帰って来い。それぐらい胸張って帰って来い」

4番は下を向くな―。

「それは大事だと思います。僕に足りない部分だと思うんで」

誰に近づき、誰を追い越したいのか。岡本にとって理想の4番像とは。

「打撃もそうですけど、いろんな人の意見を聞いて、いろんなものが全部入ってます。取り入れるんですけど、全く同じにはなりたくない。だから、僕という4番を作っていきたい」

4番として目指す目標も自然と高くなる。

「バッティングに関しては、パーフェクトでありたいんですよね」

「本塁打、打点だけじゃない。やっぱりジャイアンツに居たら、率も必要かなって。打率、残したいですね」

2020はこれまでと違う出発へ

オフならではの顔、ひげ面。

「ずっと伸ばしていたんですけど、これしか伸びませんでした。ショックや」

そう語る顔にはあどけなさが残る。そしてそのひげも、剃り落とした。

いよいよ、キャンプイン。4番としての3シーズン目が始まる。

「今年はいっぱい練習してるし、自信満々でキャンプインできますよね。やっと今年は自分らしくキャンプインできるかな、と思いますよね」

若き主砲は臨戦態勢に入った。

取材・柳田 寧子、玉寄 穂波 

撮影・関口 俊明

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