田淵幸一さん殿堂入り 後楽園を包んだ「タブチコール」…今年も私の殿堂投票発表します

1976年の巨人戦で田淵幸一が豪快なアーチ
1976年の巨人戦で田淵幸一が豪快なアーチ
後楽園球場のスタンドで笑顔を見せる田淵幸一さん(右)と長嶋茂雄さん
後楽園球場のスタンドで笑顔を見せる田淵幸一さん(右)と長嶋茂雄さん

 法大時代に当時の六大学リーグ戦新記録の22本塁打。そして阪神、西武でもスラッガーとして通算474本塁打と活躍した田淵幸一のエキスパート部門での野球殿堂入りが発表された。当選に必要な102票を超える109票を獲得した。

 プレーヤー部門では高津臣吾が惜しくも7票足りずに殿堂入りを逃した。該当者無しは2008年にプレーヤー部門新設後初となった。各選手の詳細は紙面などで発表されるので割愛、恒例の私が投票した選手の名前を列記します。

 プレーヤー表彰は高津臣吾、T・ローズ、石井琢朗、前田智徳、A・ラミレス、小久保裕紀、中村紀洋。

 エキスパート表彰は、田淵のほか、柴田勲、足立光宏、松岡弘、佐藤義則。

 エキスパート部門で足立は21票、松岡は12票。この2人の票が伸びなかったのが納得できない。バースに入れなかったのは実働6年だったため。私の殿堂投票への考えは日米(メジャー)で10年以上、球界に貢献した人と考えています。モルツ野球に貢献しても(笑い)、それはカウントしません。

 田淵は2008年プレーヤー部門最終年度で211票、当選に必要な231票に20票足らずに、翌年からエキスパート部門に回った。最初は2票だったが、年々票を伸ばし続けてきた。山中正竹氏が「法大時代の功績も選出理由に」と語ったが私も同意見。個人的には六大学時代の22本塁打の大記録と合わせ技の殿堂入りと評価したい。今後は、プロでの選手&指導者の合わせ技がOKなら、プロ選手成績にアマチュア時代の抜群の成績を加味する殿堂入りもあっていいと思う。

 田淵の、神宮の六大学時代の本塁打は見ていないが、プロ入り後のアーチは何本かスタジアムで見ている。現役引退後に「最も印象に残った本塁打は?」と尋ねたところ、1973年10月10日、後楽園球場で満塁逆転本塁打と答えてくれた。最終戦の同率決戦で敗れて優勝を逃すことになるが、この試合で厳しい優勝争いの中での一発だったことで、彼にとって忘れがたいものだったのだろう。

 私にとっては今でも夢にまで見る彼の本塁打シーンがある。それは1972年6月2日、後楽園球場で行われた読売ジャイアンツ・阪神タイガースの伝統の一戦だ。阪神が10連勝で乗り込んだゲーム差無しの週末の3連戦初戦、当日は金曜日でプロレス中継があるため、巨人戦中継はない日だった。当時、学生だった私は試合開始30分前くらいに外野席売り場に到着。ところが、満員札止めでチケット完売となっていた。

 売り場の周りには切符を買えずに怒りのファンが数百人をおり、係員との「入れろ、入れない」の押し問答のあげく外野19番ゲートに殺到。約200人のファンが乱入した、と翌日の新聞に載った。その中の一人が私だった。スタジアムに入ったものの通路までびっしり埋まり、唯一空いていたのはバックスクリーン裏の階段状になっている場所で、もちろん立ち見である。

 試合は堀内恒夫、江夏豊という当時最高の投手2人が激突。巨人が敵失で1回に先行するも6回に田淵が堀内のカーブを左翼席にたたき込んで同点となる。ここから阪神が好守を続ける。6回裏1死一、三塁から堀内がスクイズを敢行、すると江夏が脱兎のごとく前進して本塁へグラブトスしてタッチアウトとなった。

 7回無死一塁からは王貞治が送りバント。これがファウルとなって打ち直した打球はバックスクリーンやや左翼側への大飛球。これを4回に本塁返球で刺した中堅・池田祥浩がシフトで守っていた右中間から激走したまま後ろ向きでつかむ大ファインプレー。一塁走者は三塁を回っているほどの打球で戻れずに併殺。その時、目の前で見下ろしていたバックスクリーン裏の私たちの集団は、スポーツ紙のカメラマンとともに将棋倒しとなるほどのプレーだった。

 この守備が9回の田淵の決勝2ランを誘う。翌日の報知新聞1面を飾ったのは元近鉄投手で阪神担当だった蔦行雄記者。原稿の書き出しに「その時、左翼席から突然起こった手拍子は、三塁側から巨人ファンで埋められているはずのネット裏まで巻き込み、球場全体を、ゾクゾクするほどの興奮で盛り上げていった」と描写。打ったのはカウント2―2後。1球ごとに歓声が大きくなって「タブチコール」は後楽園スタジアムを覆いつくさんばかり。そして再びカーブをジャスミーとした打球は左翼ジャンボスタンドに吸い込まれていった。

 埼玉の片田舎に住んでいた私は、自転車置き場が閉まっていたため、自宅まで約5キロの道のりを、スタジアムの熱狂の余韻で夢見心地のまま小走りに走り帰った。翌朝、駅まですっ飛んでいってスポーツ全紙を購入。今でも大切に保管してある。(蛭間 豊章=ベースボール・アナリスト)=敬称略=

1976年の巨人戦で田淵幸一が豪快なアーチ
後楽園球場のスタンドで笑顔を見せる田淵幸一さん(右)と長嶋茂雄さん
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