首骨折から奇跡の復活の高橋ヒロム「プロレスは危険だけど、それ以上にめちゃくちゃ楽しい」という言葉の重み

4日のIWGPジュニアヘビー級戦でウィル・オスプレイを破り王座奪取。ベルトを高く掲げた高橋ヒロム(カメラ・中島 傑)
4日のIWGPジュニアヘビー級戦でウィル・オスプレイを破り王座奪取。ベルトを高く掲げた高橋ヒロム(カメラ・中島 傑)
5日のメインイベントでオカダ・カズチカに雪崩式リバース・フランケンシュタイナーを仕掛ける内藤哲也。トップレスラーは常に命がけの戦いを展開している
5日のメインイベントでオカダ・カズチカに雪崩式リバース・フランケンシュタイナーを仕掛ける内藤哲也。トップレスラーは常に命がけの戦いを展開している

 史上初めて4、5日の2日間にわたって開催された新日本プロレス新年恒例の「WRESTLE KINGDOM14 in 東京ドーム」。合計で7万71人を集めた日本プロレス界最大の祭典で誰よりも私の心をとらえたのは、2日連続でメインイベンターを務めたオカダ・カズチカ(32)でも、5日のIWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタルW世界戦でオカダを破り、史上初の「2冠王」に輝いた内藤哲也(37)でもなかった。

 東京ドームを4万8人の大観衆が埋めた4日の第9試合。ジュニア最強を決めるIWGPジュニアヘビー級選手権で大観衆からの「ヒロム」コールを一身に浴びて登場したのが、「TIME BOMB(時限爆弾)」の異名を持つ高橋ヒロム(30)だった。

 新日ジュニア最大の人気者のレスラー人生が暗転したのは、18年7月7日、米サンフランシスコ大会のリング上だった。

 IWGPジュニアヘビー級王者としてドラゴン・リーの挑戦を受けたヒロムは急角度のドラゴンドライバーを受けた際、リングに首から落ち、骨折。1年4か月という長期欠場を余儀なくされ、王座も返上した。

 療養過程も知らされないままの不在期間の長さにファンは動揺。「引退説」も浮上した。新日中心に取材してきた私も「リング復帰は、もう無理なのでは」と正直、覚悟していた。

 しかし、この男は帰ってきた。昨年11月3日の大阪大会で突如、リングに現れると、「ヒロム・イズ・バック!」と復帰を宣言。首に全体重をかけて受け身を取るパフォーマンスまで披露。その場で東京ドームの大舞台での最強王者・ウィル・オスプレイ(26)への挑戦が決まった。

 そして「1・4」のリング。復帰4試合目にして、ヒロムは全盛期のスピードを披露した。オスプレイのロープを使っての首へのフットスタンプ、場外でのネックブリーカードロップと情け容赦のない古傷への攻撃を受けたものの耐えに耐える。互いに抜群の身体能力を披露し合う激闘の末、最後は必殺技・TIME BOMBを改良したTIME BOMB2でオスプレイをリングにたたき付け、3カウントを奪ってみせた。

 試合後の会見場にベルトを高く掲げながら入ってくると、まず「やったぞー!」と叫んだ。へたり込むように用意されたイスに座ると、「この1年半、辛く険しい、何も先が見えない闇の中で、もがき苦しんできた。いろいろな人たちの助けで何も見えない中、歩き続けられた」。淡々と言ったかと思うと、突然、「そんなわけあるか~!」と“1人ツッコミ”を見せ、絶叫。約50人の取材陣を驚かせた。

 「先が見えているに決まっているだろう。こんな楽しい世界、やめられるわけねえだろ。首がへし折れようと、この新日の世界を楽しんでやるよ」と、汗まみれの顔でニヤリと笑った。

 取材陣をにらむと、「ごまかすんじゃねえぞ。プロレスはすげー危険なスポーツだと思っているよ。でも、プロレスラーの俺だから、ちゃんと言える。プロレスは危険だけど、それ以上にめちゃくちゃ楽しいんだ。もっと、もっと、もっと、もっと~、みんなで楽しもうぜ。こんな素晴らしいプロレス(観戦)を趣味に持っているお客さんは、なんて素晴らしいんだ」と再び絶叫。「俺の好きなプロレスを、最高に楽しいプロレスを今日は見せられたはず。何より、これ(ベルト)が証拠だ。ありがとう、ベルトさん。これからも高橋ヒロムのプロレスを楽しんでくれ」と続けた。

 ヒロムの言葉「プロレスはすげー危険なスポーツ」は真実だ。プロレスファンなら、97年8月、ライガーボムを受けた直後に急逝硬膜下血腫と脳挫傷で亡くなったプラム麻里子さん(享年29)や09年6月、急角度バックドロップを受け、頚髄(けいずい)離断で亡くなった三沢光晴さん(享年46)の試合中の悲劇を覚えているはずだ。

 「ハイスピード」「ハイスパート」が売り物の新日のリングでも17年、トップレスラーのリング禍が相次いだ。

 本間朋晃(43)が中心性頸椎(けいつい)損傷、柴田勝頼(40)が硬膜下血腫と、中心選手がリング上で負った大ケガで次々と離脱(現在、本間は復帰)。別団体だが、かつてのスター・高山善廣(53)も頸髄完全損傷で肩から下の感覚が戻らず、医師からは「回復の見込みは現状ない」と診断されている。

 ヒロムのサンフランシスコ大会での大ケガも一歩間違えば、そう万が一、神経まで損傷が及んでいれば、死の危険もあった。今年の東京ドーム大会「1・5」のメインイベントでも内藤がオカダにコーナーポストからの雪崩式リバース・フランケンシュタイナーを仕掛けた。たぐいまれな運動能力で大ケガを回避したオカダだったが、後頭部から落下した瞬間のぐにゃりと曲がった首に心底、肝を冷やしたのは私だけではないはずだ。

 プロレスについて「筋書きのある戦いでしょ」や「勝ち負けが決まっているのでは」と、訳知り顔で言う人がいる。はっきり言うが、そういう人ほど、プロレスラーたちが極限まで鍛え抜いた体で、どれほどギリギリの戦いをつづけているかを現場で見るべきだ。トップレスラーたちは一歩間違えば、致命的なケガを負う危険な戦いを日々、続けている。これだけは厳然たる事実だ。

 そんな過酷な戦いの中、生命の危機すらも乗り越えたヒロムだからこそ説得力を持って言える「プロレスは危険だけど、それ以上にめちゃくちゃ楽しい」という言葉。私の胸にもドシンと響いたコメントをした生まれついてのエンターティナーは5日、3万63人が見守った第1試合「獣神サンダー・ライガー引退試合」にも登場した。

 世界的人気を誇ったレジェンド覆面レスラーの最後の対戦相手としてタッグマッチに挑むと、必殺技・TIME BOMBで、デビュー36年のベテランをマットに沈めてみせた。

 そして、試合後の会見場でヒロムは「ライガーさんを超えられなかった。これが真実。あの人の作り上げてきた新日ジュニアの時代は超えられないけど、これから、あの人の時代は超えられると思う。だから、俺は俺にしかできない新しい新日本ジュニアを作ろうと思います。ライガーさん、あなたのことをリスペクトしています」と淡々と話した。

 試合直後、リング上で大の字になったライガーに何か語りかけた瞬間を目撃したから聞いてみた。「リング上で倒れ伏したライガーさんに、なんと話しかけたんですか」―。

 ヒロムはまっすぐこちらを見つめると、「覚えてないですよ、そんなこと。忘れちゃいました。心の底から出た声なんじゃないですか」。いつもの“ひねくれキャラクター”を全開にして答えたが、続けて会見したライガー本人が「ヒロムは僕の耳元で『俺が、あなたが作ってきた、この新日ジュニアを、もっともっとでかくします』と言ってくれました」と、すぐにバラしてしまった。

 その意気や良し。長かっただろう、そして辛かっただろう1年4か月。一時は絶望の淵にも立っただろうジュニア戦士の完全復活を、私は心の底から祝福する。おめでとう、ヒロム―。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆高橋ヒロム(たかはし・ひろむ) 本名・高橋広夢。1989年12月4日、東京・八王子市生まれ。30歳。八王子実践高卒業後の08年、新日本プロレスの入団テストを受けるも不合格に。翌年、再受検で合格し、10年8月にデビュー。13年6月から英国で武者修行。14年からはメキシコの団体・CMLLにマスクマン・カマイタチとして参戦。16年、CMLL世界スーパーライト級王者に。同年4月からは米ROHを中心に活動していたが、11月の新日大阪大会で「時限爆弾」の正体として登場。17年1月4日の東京ドーム大会でKUSHIDAの持つIWGPジュニア王座に挑戦し勝利。第76代王者に。その後、新日ジュニアのエースとして活躍も18年7月の米サンフランシスコ大会でドラゴン・リーに勝ち、2度のIWGPジュニア王座防衛の際、首の骨折で欠場。防衛戦が半年以内に行えないため王座を返上した。1年4か月の療養、復帰へのトレーニングを経て、19年11月の大阪大会でリングに上がり、復帰宣言。同時にウィル・オスプレイが保持するIWGPジュニア王座に挑戦表明。今年1月4日、東京ドームのオスプレイ戦に勝ち、同王座奪取に成功した。171センチ、88キロ。

4日のIWGPジュニアヘビー級戦でウィル・オスプレイを破り王座奪取。ベルトを高く掲げた高橋ヒロム(カメラ・中島 傑)
5日のメインイベントでオカダ・カズチカに雪崩式リバース・フランケンシュタイナーを仕掛ける内藤哲也。トップレスラーは常に命がけの戦いを展開している
すべての写真を見る 2枚

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

格闘技

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請