令和元年は高校球児の肘や肩のコンディションについて、多くの議論が重ねられた年だった。そんな中、投手の動作を数値化することで、投球パフォーマンスの改善や肘の故障の予防などに役立つウェアラブル(着用可能な)デバイス「モータスベースボール」(税別2万9800円)が米国から上陸し、話題を集めている。投げすぎを「見える化」する機器は、すでにメジャー27球団が採用している。商品を担当するオンサイドワールドの八木一成さんに話を聞いた。(加藤 弘士)
7月には大船渡・佐々木朗希投手(現ロッテ)の「決勝登板回避」が世間の関心事になり、11月には日本高野連が来春センバツから「1週間で500球以内」の球数制限導入を決めた。学童、少年野球も含めたアマ投手の投げすぎ問題が注目される中、「モータス」も野球指導の現場で徐々に広がりを見せている。八木さんは言う。
「肘の状態について、今までは監督さんと選手たちの経験と感覚で管理するしかありませんでした。でも、これを使えば投球動作やコンディションが数値化され、明確な根拠の上で日頃のトレーニングの強度の調整ができます。『アスリート・ファースト』の理念で開発されたデバイスです」
使い方は簡単だ。iPhoneにアプリを入れて、センサーを同期させ、利き腕の肘にスリーブを装着して投げるだけ。すると、iPhoneの画面に続々とデータが表示される。
「まずは腕の振りのスピード。さらにはボールをリリースする角度です。この角度が直球を投げる時と変化球を投げる時で差が出ると打者に判別されてしまうので、修正が必要だなと分かります。それらの数値に身長や体重を掛け合わせて『アームストレス』という数値が出ます。肘にかかる負荷レベルが数値化されるわけです」
日々の投球練習から一球一球、データが蓄積されていく。肘の疲労状態は「ストレス値」として数値化され、故障を予防しながらベストなトレーニング量を提案してくれる。肘に過度な負担がかからない投球フォームへの手助けにもなり、「これ以上追い込むと故障リスクが増大する」といった警鐘も鳴らしてくれる。これまでは「感覚」で決めていた練習量が、明確な根拠=エビデンスに基づいて定められる点も新しい。
「肘を守る」だけではない。全ての投手や指導者の願いは、試合当日にマウンド上で最高のパフォーマンスが発揮できること。試合予定日を事前に入力することで、ベストコンディションに持っていくための練習量の管理もできるという。
「試合に向けて急激に頑張りすぎて、疲労がたまった状態で当日を迎えてしまうのは投手にとってつらいことです。データを取れば、適切な強度を保ちながらトレーニングしていけます。もちろん上げることも必要ですが、下げて、上げて、休ませてと繰り返しながら、徐々にピークへ持っていく。それがこのデバイスを使えば可能になるんです」
「モータス」のスリーブはメジャーの公式戦でも着用が認められている。米国ではMLBやNCAA(全米大学体育協会)、さらにはシアトル郊外にある話題のトレーニング施設「ドライブラインベースボール」でも導入され、けがの予防やコンディショニングの管理、パフォーマンス向上に利用されている。八木さんはこう結んだ。
「米国に次いで野球人口が多い日本で、夢に向かって頑張っている若い投手が潰れていく姿は見たくありません。客観的なデータを基に投げすぎが数値化されることで、救われる投手を一人でも増やしたいと思っています」