たけしはなぜ紅白で「浅草キッド」を歌うのか…心の中で響くのは、きっと大杉漣さんのギター伴奏

大晦日の「第70回紅白歌合戦」に歌手として初出場。名曲「浅草キッド」を歌うビートたけし
大晦日の「第70回紅白歌合戦」に歌手として初出場。名曲「浅草キッド」を歌うビートたけし
昨年2月に急逝した大杉漣さん。10本の北野武監督映画を彩ってきた盟友だった
昨年2月に急逝した大杉漣さん。10本の北野武監督映画を彩ってきた盟友だった

 そのニュースを聞いた時、「ああ、たけしさんらしい選曲だな」―。心の底からそう思った。

 NHKが20日、大みそかの「第70回NHK紅白歌合戦」(後7時15分)の出場歌手の曲目を発表。特別企画として、タレント・ビートたけし(72)が歌手として初出場を果たすことが発表された。歌うのは、自身の作詞作曲、東京・浅草のフランス座での下積み時代の思い出をていねいに曲にした「浅草キッド」だ。

 たけしは2000年と01年の2度、タレント・志村けん(69)とともに、氷川きよし(42)の応援ゲストとしてNHKホールに“乱入”。誰もが知るギャグ「コマネチ」などを披露したことがあったが、歌手としては今回が初出場となる。

 令和初、70回記念のメモリアル紅白で紅組、白組の枠を超えた特別企画として披露される「浅草キッド」。1986年発売の自身のアルバム「浅草キッド」に収録された同曲は、駆け出しの芸人だった頃の貧乏暮らしや夢をつづったストレートな歌詞と切ないメロディーが胸を打つバラード。福山雅治、竹原ピストルら多くの歌手がカバーしてきた。

 最近では菅田将暉(26)と桐谷健太(39)が主演映画「火花」(板尾創路監督)の主題歌としてカバーしたことでも話題になった。

 昭和、平成、令和を駆け抜けてきたお笑い界の超大物は1980年代から90年代にかけ、20枚以上のシングル曲も歌ってきた。81年2月の実質的デビュー曲「俺は絶対テクニシャン」から84年の「抱いた腰がチャッチャッチャ」、85年の「哀しい気分でジョーク」まで名曲が並ぶ。

 中でも81年から90年まで放送された伝説のラジオ番組・ニッポン放送「たけしのオールナイトニッポン」を毎回、カセットテープに録って聞き直していた「たけし世代」ど真ん中の私は、同番組で何回もオンエアされていた「ハード・レインで愛はズブヌレ」は今でもフルに歌えるし、サビを聞くだけで、そのビブラートの聞いたハスキーな歌声に涙が出てしまう。

 そんな数々の持ち歌の中から、たけしが選んだのが「浅草キッド」。なぜ、この曲を選んだのか、私にははっきりと、その理由が分かる。

 そこにあるのは、昨年2月に急逝した俳優・大杉漣(おおすぎ・れん、本名・大杉孝=おおすぎ・たかし)さん(享年66)との大切な、大切な思い出だ。

 たけしは映画監督・北野武として大杉さんと93年の「ソナチネ」から17年公開の「アウトレイジ 最終章」まで全10作品でコンビを組できた。そんな“盟友”と言ってもいいベテラン俳優のお別れの会が行われた直後に出演した昨年2月のTBS系「新・情報7daysニュースキャスター」(土曜・後10時)で、たけしはこう言った。

 「すごい不謹慎だけれど、大杉さんは一番いい時に死んだんじゃないかなと思うんだよね」―。

 さらに「芸人の末路は嫌だなと思うし、一番、輝いて忙しくていい時に漣さん、いい思い出でいたって感じがして。それを言っちゃうと怒られるんだけれど。自分のことを考えれば…。うらやましいって言っちゃえば失礼だけれど、良かったねって言っちゃうね。悲しいっていうのは悲しい。俺の映画に『オーディションに落ちたらサラリーマンになる』って言って来た大杉漣さんが『ソナチネ』で当たって、最後の俺の映画の役で死んでいくなんていうのは、すごい結びつきだと思う。役者の世界からいなくなるっていうのは、悲しいと言うより、でかしたっていうかね。よくやりましたっていう気になるね」と、しみじみと続けていた。

 「ソナチネ」のオーディションに1時間遅刻したにも関わらず合格。以来、10本の北野作品に出演。北野映画での名演によって生かされ、トップ俳優まで上り詰めた大杉さんを、たけしは「(映画で)俺が生かして、俺が死なせたみたいな感じ。申し訳ないなと思ってさ」と、独特の言葉で哀悼。その後、流された映像が17年10月の同局系「ぴったんこカン・カン」での2人の共演の様子だった。

 流されたのは、「売れない頃、この曲が心の支えでした」と明かした大杉さんのギター伴奏に乗せ、たけしが「浅草キッド」を歌うVTR。私もオンエア時に見て、大杉さんの演奏のうまさと本当に気持ちよさそうに歌う、たけしの姿に大きな感動を覚えた映像だった。

 1年前の2人の“共演”を見つめる姿をワイプで抜かれた、たけしはその時、何度も何度も手の甲で目元をこすり、明らかに泣いていた。私にとって、たけしの泣いている姿を見るのは、99年8月24日、最愛の母・さきさん(享年95)の通夜後の会見で目の前で泣き崩れられた瞬間以来。正直、驚いた。

 「早いよね…。同じような人が世界中にいっぱいいるからしょうがないのだけど、やっぱり人間っていうのは自分の近い人の死とかは堪(こた)えるね。父親とか母親とかが死ぬのが堪えるのと同じように」―。淡々と話した、たけし。その姿、そして2度目の涙を目にして私は「ああ、たけしにとって、大杉さんは家族同然の存在だったんだ」と気づいた。最高の伴走者を失った喪失感の深さを思って、とても悲しくなったのを昨日のことのように覚えている。

 たけしは今年、15日に最終回を迎えた大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」に古今亭志ん生役でレギュラー出演。大きな話題を呼んだ。タレントとしても4月に「オフィス北野」から独立し、新事務所「T.Nゴン」を設立した。プライベートでも39年間連れ添った妻・幹子さん(68)と協議離婚。7年前に知り合った18歳年下の女性パートナー・Aさんと都内の自宅で同居。マネジメントも全面的に任せているという。

 そんな激動の1年間の最後の1日に迎える紅白。たとえ、心の中だけでもいい。大舞台で歌う自分のバックには、ずっと支えてくれた大杉さんにこそいて欲しい―。そう思ったからこそ、たけしは「浅草キッド」を歌うことにした。私は、そう確信している。(記者コラム・中村 健吾)

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