燃える公立魂、企画者は現役大学生…「第1回神奈川公立球児プロジェクト」に潜入してみた

「第1回神奈川公立球児プロジェクト」で講演を行った東大のエース左腕・小林大雅投手(カメラ・加藤 弘士)
「第1回神奈川公立球児プロジェクト」で講演を行った東大のエース左腕・小林大雅投手(カメラ・加藤 弘士)

 神奈川は、言わずと知れた高校野球の激戦区だ。強豪私立がひしめき合い、公立校の夏の甲子園出場は90年の横浜商(市立)が最後で、県立では51年の希望ケ丘までさかのぼる。

 それでも公立校の指導者や球児たちは熱い。「打倒私立」を目指してこの師走も日々、練習に励んでいる。

 そんな彼らを後押しするプロジェクトがこのほど行われたので、潜入してみた。12月20日、横浜市西公会堂で開催された「第1回神奈川公立球児プロジェクト」が、それだ。152人の現役公立球児と指導者が集結し、会場には青春のパッションが充満していた。

 講師を務めたのは東大のエース左腕として4年間で51試合に登板し、通算222回を投げ、0勝29敗で現役生活を終えた小林大雅さん(横浜翠嵐OB)、理学療法士の後藤太一さん、上智大に進学後は南アフリカの大学へ交換留学を経験した中野真吾さん(ともに川和OB)、県相模原で主将を務め、筑波大でもレギュラーをつかんだ井口史哉さんの4人だ。いずれも神奈川の公立で白球を追い、大学進学後も悪戦苦闘の中で進むべき道を模索していった「先輩」である。

 小林さんは「文武両道という選択、続けてこられた理由」をテーマに講演を行った。身長167センチと投手としては小柄ながら、甲子園経験者がスタメンに並ぶ5大学の強力打線に対峙してきた男の言葉は、説得力にあふれる。高校野球の思い出、東大を受験したきっかけ、東大野球部での日々、キャンパスライフに就活…栄光も挫折も、ありのままに語った。

 「自分の気持ちに素直になって取り組もう、いくつでも。好奇心があれば挑戦した方がいい」「仲間を大切にしよう。様々な場面で力になるから」-。

 講師陣が語ったのは決して成功物語ではない。例えば井口さんは「野球に悩んだ大学時代」をテーマに据えた。けがとの闘い、周囲の「熱量」との自身とのギャップ、その中で自らのモチベーションをどう上げていくか。しかし、苦悩の中にあったからこそ、仲間や家族の大切さに気づくことができた。野球の素晴らしさを再発見できた。綺麗事ではない、むき出しの告白に誰もが耳を澄ました。

 4人の講演後には、高校生たちが4つのグループに分かれ、「交流会」が開かれた。少人数形式で満遍なく4人の講師に質問できるというシステムだ。高校生たちの挙手は途絶えない。高校野球の2年半から「何か」をつかんだ男たちに、飛躍のヒントを得ようと前のめりに問いかけていた。

 さて、このプロジェクトの中心は現役の大学生だ。川和OBで慶大野球部4年の三島祐司さん。一般入試の現役で環境情報学部に合格し、野球部に入部。今秋、チームの大学日本一とともに引退した。「公立出身でも上のカテゴリーで野球を続けてほしい」という願いを込め、企画を現実化した。

 「神奈川の公立って、チャレンジングな立場だと思うんですよ。ずっと甲子園には出ていないですし。でも大学に進んで、活躍している選手やいい選手はたくさんいる。『やれるよ』と示してきた人はたくさんいるんです。同じ空気を吸うというか、場を共有するだけでもいい刺激になる。そういう『出会いの場』を作りたいなと思いました」

 高校球児が大学でも部に所属し、硬球を握るにはある種の覚悟や決意が必要になるのは事実だ。一歩踏み出すか、否か。そんな時、目標とする先輩が身近にいて、リアルな話を聞かせてくれたらどうだろう。今後の4年間をイメージできる「モデル」がいれば、自然と背中を押されるはずだ。

 三島さんは続けた。

 「野球の方での究極の夢は、この中から大学日本一になる選手を出すということ。そしてもう一つは、いろんな選択肢の中から、おのおのが一番、いきいきとできる道を選んでくれること。むしろ、こっちの方が大きいかもしれませんね…」

 それは必ずしも、大学野球に挑むことでなくてもいい。例えば講師の中野さんは「野球以外の世界もあるよ」と南アフリカへの交換留学体験を熱く語り、高校生たちは必死に耳を傾けていた。高校野球に熱中したエネルギーがあれば、卒業後の生活も必ずや良きものにできるはず。先輩たちの生きた話は、その羅針盤にもなるだろう。

 午後9時に交流会はお開きとなったが、小林さんの元へ個別に訪れる高校球児は後を絶たなかった。球速アップへの練習法やフォームチェックなどの技術論から、志望校の過去問に取り組むタイミングなど、質問は多岐に及んだ。荏田の2年生サウスポー・堀岡凜太郎投手は、赤門のエースを最後まで質問攻めにしていた。

 「小林さんはこの前、YouTubeの『おすすめ』に出てきたんです。『いいね』を押したりしていたんですが、そんな投手に直接教えていただけるなんて。これも何かの縁だと思います」

 懇切丁寧に指導を続けた小林さんは、こう結んだ。

 「質問がいっぱい出てきたのは、僕もびっくりしました。僕が高校生だったら、こんなに質問はできない。きょう来てくれた高校生は意欲的でした。僕も一生懸命に考えて、これまでやってきてよかったと思います」

 プロジェクトのサブタイトルは「高校生の自分に伝えたいこと」。卒業して数年しか経っていない今だからこそ、後輩たちに話せることがある。現役生と若きOBたちのほとばしる「公立魂」がぶつかり合い、つながる「場」が、そこにはあった。(野球デスク・加藤 弘士)

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