「代表になるまでの道のりも評価して欲しい」視覚障害者柔道・日本代表監督…2020年東京パラリンピックを支える

組んだ状態から試合が開始される。73キロ級の永井崇匡(左)と加藤裕司
組んだ状態から試合が開始される。73キロ級の永井崇匡(左)と加藤裕司
男子代表監督(専務理事)の遠藤義安氏
男子代表監督(専務理事)の遠藤義安氏
女子代表監督(理事)の佐藤雅也氏
女子代表監督(理事)の佐藤雅也氏

 スポーツ報知web版では、56年ぶりに東京で開催される障害者スポーツの祭典、東京2020パラリンピック(開会式2020年8月25日、閉会式9月6日)を迎えるにあたり、パラアスリート(障害者アスリート)を支える側にスポットを当てた連載を月1回配信している。第4回は、視覚障害者柔道(パラ柔道)の男子代表監督(専務理事)を務める遠藤義安氏(60)と女子代表監督(理事)の佐藤雅也氏(51)。(取材・構成=松岡 岳大)

 視覚障害者柔道は、試合場となる畳の中央でお互いに手四つに組んだ状態から始まる激しい競技で、組み合った状態からいかに相手を崩すかが勝負の分かれ目。健常者の柔道と同様に体重別で、違いは見え方に応じB1(視力0.0025より悪い)、B2(視力0.0025から0.032までか、視野直径10度以内)、B3(視力0.04から0.1までか、視野直径40度以内)などのクラス分けがされている。夏季パラリンピックでは第8回となるソウル大会(1988年)から正式採用された。

 これまでのパラリンピックで、日本代表として最も多くのメダルを獲得したのは藤本聡(44)の5つ(金3、銀1、銅1)。女子選手では広瀬順子(29)がリオデジャネイロ大会(2016年)で、銅メダルに輝いた。女子競技が正式種目になったアテネ大会(04年)以来、初めての日本女子のメダル獲得となった。

 視覚に障害を抱えている選手たちは、相手をつかんだ感じでその選手の力量がある程度わかるのだという。佐藤監督は「一般の柔道とルールは一緒ですけど、組んでから始まる競技。目からの情報がない分、触感だったり相手の動きで対応する。4分間組み続けるので常に100パーセントの力を入れていますし、距離を置いたり組み手争いがないので、観戦している人たちにはその迫力を楽しんでもらいたいです」と話し、「試合している側は気が抜けないし観戦している側も力が抜けない。見ていて非常に面白い競技です」と力説した。

 選手が畳のどこにいるか位置が分からなくなることはないのかという疑問に、佐藤監督は「普段練習している道場でしたら自分がどこにいるのかはわかるのでしょうけど、国際大会などの会場では事前に選手たちを連れて行って畳の感触をチェックさせています」と返答。試合中にはコーチボックスから選手たちが畳のどこにいるか声をかけるなど、パラスポーツならでは工夫があるのだという。「試合中は動き回りますので、いくら五感が発達しているといっても、振り回されている間に自分がどこにいるのかわからなくなる。だけどコーチが声を掛けたり、場外際になると主審が声を掛けてくれるので大丈夫です。それらを通して自分が今どこにいるのか選手たちは判断しています」と説明した。

 常人では考えられないような空間把握能力を持っている選手がいることも特徴の一つ。女子代表・佐藤監督は「視覚の情報がない分、聴覚だったり嗅覚だったり、その他の交感がすごく発達しているのだと思います。見えない選手でも私が近づくと“佐藤先生来たな”とか分ったりするんですよね」と明かした。

 ブラインド(視覚障害)競技の選手たちは音にとても敏感だ。「多種多様で、なんでもいいからたくさん声を掛けてくださいという選手もいれば、試合に集中したいのでなるべく声援は避けたいと希望する選手もいます」と佐藤監督。「そういう選手には一定の方向からの声掛けをするようにしていますけど、ある程度の場慣れは必要。国際大会など敵地に行けば行くほど相手への声援も大きいので、そういうプレッシャーに負けない選手を育てていきたいです」と語った。

 初めて実施競技となったソウル大会の7つ(金4、銀2、銅1)から、アトランタ大会5つ(96年、金2・銀1・銅1)までは、日本のお家芸として圧倒的な実力を示していた。しかしそれ以降はメダル数で下位に沈んでいた。北京大会(08年)は藤本の銀メダル1つのみ、ロンドン大会(12年)でも、正木健人(32)の金メダル1つだけだった。

 佐藤監督によると日本の強化も決して劣っていた訳ではなかったが、世界の成長速度の方がかなり早いのだという。「組んで行う柔道だから年齢を重ねても出来る。相手の胴着をつかみ合う組み手争いがないので、試合開始直後から技の掛け合いになります。そのため経験という点ではリードしていますけど、若い選手のパワー、スピード、体幹には及ばないことがあります」と指摘した。

 しかしリオデジャネイロ大会では、メダル数を4つ(銀1、銅3)まで盛り返した。日本でも若手は育ってきていて、環境やスタッフ体勢も整ってきた。さらに最近では、全柔連(全日本柔道連盟)の協力をもらい、視覚障害者柔道そのものの理解が進んでいるという。佐藤監督が「全柔連の下の組織になるというより、独立した組織としてやっていきたいです」と希望すると、遠藤監督も「他の競技より柔道は、まとまって進んでいくのではないかなと思っています」と明るい兆しを明かした。

 8日に“柔道の聖地”講道館(東京・春日)で、第34回全日本視覚障害者柔道大会が開催された。19都道府県から44名の選手たちが集結。その中でも、19歳の新星・瀬戸勇次郎(福岡教大)が藤本との対決を制すなど、66キロ級総当たり戦をオール一本勝ちで優勝した。これで瀬戸は対藤本戦4連勝。東京パラリンピック代表を争う藤本に40ポイント差を付けている。

 これまで世界に遅れをとっていたが、東京パラリンピックへ向けて若手も成長してきた。遠藤監督は「(パラリンピックの)メダルにはつながっていないけど、いい若手も育って来ている。必ずや東京大会でメダルをとりたいです」と目を輝かせた。

 最後に、佐藤監督は「もちろん競技だから結果を出すことは大事だけど、視覚に障害を抱えている選手たちが柔道を始めて日本代表になるまでに、どういった努力をしてきたとかそこまでの道のりも評価して欲しいです。それがパラリンピックじゃないのかなと思っています」とパラスポーツ(障害者スポーツ)の意義を強調。遠藤監督も「柔道精神というものをしっかりと理解して。礼儀作法もそうだし、健常者以上にそういうものを表現できる選手を育てていきたいです。当然メダルというところでも期待をしているので、それに向かってしっかりと準備をしていきます」と力を込めた。

 ◆東京2020パラリンピック視覚障害者柔道の主な代表候補

 石井亜弧、瀬戸勇次郎、広瀬順子、藤原由衣、藤本聡、正木健人

 ※五十音順

 ◆東京2020パラリンピック競技日程

・視覚障害者柔道(日本武道館) 8月26日~9月4日

 【注目ポイント】

 互いに4つに組んでから開始する競技なので、選手生命の長い選手が多いのが視覚障害者柔道。経験を積むことで体力差をある程度カバーできる。技の数も健常者の柔道より多くダイナミックだ。

組んだ状態から試合が開始される。73キロ級の永井崇匡(左)と加藤裕司
男子代表監督(専務理事)の遠藤義安氏
女子代表監督(理事)の佐藤雅也氏
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