プロ経験者が高校生、大学生を指導するために必要な学生野球資格を回復する研修会が13日、都内で行われ、3月に引退したマリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(46)=本名・鈴木一朗=が受講した。学生野球指導にはプロ球団からの退団が条件だったが球団の活動がない期間限定で特例を許可。圧倒的な実績を考慮し、マ軍在籍のまま指導が可能になる“イチロー・ルール”を認める見通しとなった。
偉大なレジェンドの熱意を受け、野球界が動いた。イチロー氏からの学生野球資格回復の希望を受け、日本野球機構(NPB)と日本学生野球協会が話し合い、“イチロー・ルール”が導入される見通しとなった。
学生にアドバイスを送りたいという同氏の思いがNPBに届いたのは今秋。アマチュア側にも伝えられた。申請書には「(学生野球の)役に立ちたい」という言葉が書かれていたという。日米通算4367安打を誇るスーパースターの考えに、高野連の田名部理事は感激。「驚きました。日本の、というより世界の宝。日本の学生野球の振興のためにお手伝いいただくのは大変好ましい、うれしいことです」と大歓迎した。
一方で“壁”も存在した。日本学生野球憲章はプロ野球経験者の関与を原則的に禁じており、学生野球指導には資格回復手続きとプロ球団の退団が条件。今回から現役の選手、監督、コーチ、球団在籍中スタッフの研修会受講は可能になったが、現行のルールでは球団会長付特別補佐兼インストラクターとしてマ軍に在籍中のイチロー氏は、資格回復の申請ができない。
そこで、同氏がオフシーズンに球団の活動をしない点に着目した。「世界での功績は当然考慮している。世界のイチローさん。絶対にいろいろな意味でプラスになるので前向きに取り組む」と田名部理事。スカウト活動をしていないこと、何より日米での数々の偉業を踏まえ、特例で、退団前の資格回復を認める方針とし、同理事は「期間限定で常勤は難しいかもしれないが、特定の学校、大学というだけでなく、広く日本の野球界のために協力していただければ」と期待。技術指導が行えることが最大のメリットで、高校生・大学生を集めた“大野球教室”、代表合宿での指導などが想定される。
この日のNPBプロ研修会は127人が受講。イチロー氏は講義中、熱心にメモをとっていた。報道陣への対応はなかったが、休憩時間には後輩らからのあいさつに気さくに応じていたという。14、15日にアマ側の研修を受講し、2月の審査を通過すれば資格回復となる。これが前例となれば、ヤンキースGM付特別アドバイザーを務める松井秀喜氏らの学生指導も夢ではなくなる。イチロー氏の熱意が球界を動かした。
◆学生野球資格回復制度 NPBプロ研修会の講義内容
〈1〉「学生野球とプロ野球の関係~プロアマの歴史・経緯」
〈2〉「新人獲得ルール・内容に関する説明」
〈3〉「高校生のからだの特性とケガ予防」
〈4〉「指導者の役割」
◆川口氏前田氏研修会に参加 〇…研修会には巨人などで活躍した川口和久氏(60)、元広島の前田智徳氏(48)らも参加。川口氏は母校・鳥取城北高が来春のセンバツ出場が当確で「(臨時コーチなどで)投手を教えたいな、と」と受講の理由を説明。イチロー氏に関しては「子どもを教えたいという純粋な気持ちからだろう」と推察した。前田氏は次男が神奈川・慶応高の野球部に所属。試合観戦に赴くこともあるため、「気持ちの不安がなくなる。気兼ねなく応援や練習に行ったりできる」と明かした。