東洋の魔女にパワハラはなかった

 大分県で起きた小学生女子バレーボールチームの体罰問題について、元バレーボール全日本男子で参院議員の朝日健太郎氏がテレビ番組で、バレーに体罰発生率が高いのは「東洋の魔女時代に始まったスパルタ」も原因と指摘したが、直後から、関係者から「それは違う」という電話を何本かいただいた。どれもが、朝日氏の意見を否定するものだった。

 「東洋の魔女」は64年東京五輪で金メダルを獲得した全日女子のことを指している。大松博文監督のスパルタ指導で、世界一の座をつかんだと当時のマスコミは報じた。

 朝日氏は「世界的に画期的なことだったんですが、それを成し遂げたのは、スパルタ指導という大変厳しい、スポーツのトレーニングというより訓練に近いようなことが起こりました。当時は正しい方向性だったが、その厳しい指導、文化がまだ残っている」と指摘した。

 私は過去に、当時の選手や関係者を取材したが、大松監督が、暴力を振るったとか、選手を追い詰めるような言葉を発したということを聞いたことがない。選手は「できるまでやるというのが、大松先生の練習でした。だから、時間がかかり、気がつくと、明け方になっていることはありましたけど、それは決して一方通行ではなく、選手たちは納得してやってましたし、練習中に笑いが起きることもありました」と振り返る。

 勝つためにはどうしたらいいか。最大のライバル、ソ連にどうやったら勝てるか。その一心で、監督、選手たちは一丸となっていた。そのために行われている練習と、選手たちは理解していた。「そうでなかったら、私たちはついていってないですよ。先生を嫌いになったこともないし、ストを起こしたこともありません」とも、ある選手は話した。

 主将だった河西昌枝さんも生前、「大松先生は厳しかったけど、優しさもあった。だからみんなついていったんです」と、インタビューに答えていた。「当時は大松先生よりも私の方が怖かったのよ」と笑いながら後輩に話したりもしている。

 回転レシーブを発案、男子大学生を練習相手にするなど、大松監督は画期的なアイデアマンでもあった。レシーブ練習でボールを打ったり、投げたりはひとりでこなし、1日に千数百本にも達したことがあったという。月に一度、選手たちを映画に連れて行き、気持ちをリフレッシュさせたりもした。「尊敬こそあれ、向かっていこうなんて気持ちには全くなりませんでした」と当時の選手はしみじみと話した。

 だが、その選手は、全日本に入る前の高校では暴力を受けたという。「試合中に、こちらの監督が選手を殴ると、相手チームの監督がそれ以上に殴るというようなことが起きていました」と、高校レベルでは暴力が珍しくなかったと指摘した。つまり、「東洋の魔女」以前から、パワハラは存在した。また「東洋の魔女」を誤解し、暴力を容認する練習だと思い込んでいた指導者が多かったのではないか。

 私は長年、バレーボールを取材してきたが、下は小学生から上は実業団まで、パワハラの話は数多く聞いてきたし、未だにいろんなカテゴリーで“事件”が発覚し、日本スポーツ協会の理事会でもバレーの暴力の報告が目立つし、減少するようにも見えない。

 朝日氏は日本バレーボール協会の理事でもある。今回の大分県の体罰問題も含め、先頭に立って、パワハラ撲滅に向け、指導者の講習会を開いたり、ガイドラインを策定し、ペナルティーを設けるなどの行動をぜひ、お願いしたい。

(記者コラム・久浦 真一)

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