ツアー最終戦「日本シリーズJTカップ」(主催・報知新聞社ほか)が8日に最終日を迎え、今季の男子プロゴルフツアーは幕を閉じた。ゴルフと言えば「寄せ」。「寄せ」と言えば将棋ということで…棋界随一のゴルフ愛好家・佐藤康光九段(50)に魅力を聞いた。日本将棋連盟会長のゴルフ観とは―。(構成・北野 新太)
ゴルフを始めたのは(将棋連盟の)野球部にいたからです。
いや、もうちょっと説明が必要ですね…。22歳の頃、連盟の野球部「KINGS」の合宿で群馬県館林市にお邪魔した時でした。休憩時間に泉正樹さん(現八段・58)と中川大輔さん(現八段・51)に「近くのゴルフ練習場に行こうよ」って誘われたら完全にハマりまして…。2年後には野球部を退部してゴルフ一本に。申し訳ありません…。
ミーハー的なところがありますから、いきなりニック・ファルドモデルのマッスルバックアイアンを使ったりして、これが当たらない(笑い)。今はハンデ15、ベストスコアは80です。忙しい立場なのですが、今年はなんとか15ラウンドしました。10月などラウンド3、対局2で…。クラブを振ってコースを歩いているとリフレッシュできますし、人間としての五感を取り戻せるような気がします。
四半世紀以上続けてきましたが、ゴルフに学び、影響を受けて今の自分の将棋はあると言っても過言ではありません。
若い頃の将棋は序盤から常にベストショット、つまり最善手を求めていました。しかし「ティーショットはフェアウェーキープで正解」という考えもあると知ることで、自分の中に良い許容範囲が生まれたような気がします。私のドライバーはオーバースイングで音はまあまあいいんですけど、あれれ? そんなに飛んでないぞ…ということがよくあります。平均飛距離は220ヤードくらいでしょうか。
そして、将棋で言えば終盤戦にあたるパッティングには正確さの重要性を学びました。ラインを読み、カップからボール1個分だけ外れれば、必ずボール1個分の理由がある。なぜ外れたのかを考えます。おかしいと感じたら修正し、微調整する習慣は対局中の心理につながります。だから棋士は総じてパターのうまい人が多いんですよ。棋風とプレースタイルも似ることが多くて(やはりゴルフ好きとして知られる)久保さん(利明九段・44)は飛ばし屋です。
ゴルフは1ラウンドで序盤・中盤・終盤が18回も来るのですごく勉強になります。もちろん楽しみますけど、いいかげんにはやれません。適当にやってしまうと、普段の生活や対局にもどこかで響いてくるような感覚があるんです。
ゴルフを通じた人脈で人生の幅も広がりました。企業のトップの方で共通するのは、決して手を抜かないこととカートを使わずに歩く方が多いこと。楽しみながら精神修養しているイメージがあるんですね。
プレーヤーでは同世代の藤田寛之さん、谷口徹さんは常に応援していますし、40代になって復活したタイガー・ウッズのゴルフはやっぱり見ちゃいますね。若い頃の飛ばすスタイルからやや変化して、今はショートゲームの精度がものすごく高い。羽生さん(善治九段・49)の将棋と通じるところがありますね。年齢を重ねると、問題になるのはパワーが落ちることよりも精度が落ちることなんです。
今、将棋界はAIを研究に用いる時代になりましたが、ゴルフで言えばクラブの進化と似ているような気がします。今まで棋士になかった「クラブの選択肢」が生まれ、うまく新しいクラブを使いこなせば300ヤードショットを打てるようになる。進化し、変化している意味でとても似ています。
ただ、ゴルフはクラブが進化すればコースセッティングを変化させます。難度を変えられる。将棋はAIが進化しても戦いの舞台は変わりません。盤駒もルールも変わらない。進化により魅力が広がっていくのは将棋の深さと美しさだと思っています。
■恒例小ネタで木村新王位祝福
佐藤九段は6日、都内で行われた第60期王位就位式に出席し、連盟会長として木村一基王位(46)を祝福した。
史上最年長の46歳3か月で初タイトルを獲得した木村王位の晴れ舞台。最近、あいさつで必ず小ネタを挟むスタイルを定着させた佐藤会長は、やはり祝辞で軽妙に笑いを誘った。
「わたくし、第1局の前夜祭で言ったんです。『王位に5回挑戦して取ったことない棋士がここにいるらしいです。今夜は近づかない方がいいですよ。…まあ、何を隠そう私なのですが』と…。近づかなかった効果もあり、木村さんはタイトルを取った。しかし…わたくし、今日からは近くにいさせてください、と思っております」
念願の黒紋付き羽織袴(はかま)に袖を通した木村王位は「浮かれないように精進を重ねたいと存じます」と謝辞を述べた。
◆佐藤 康光(さとう・やすみつ)1969年10月1日、京都府八幡市生まれ。50歳。田中魁秀九段門下。87年、四段昇段。タイトル獲得は竜王1、名人2、棋王2、王将2、棋聖6の通算13期(歴代7位)。永世棋聖資格保持者。17年、日本将棋連盟会長に就任。「週刊ゴルフダイジェスト」連載経験も。現在発売中の「ゴルフダイジェスト チョイス」にも登場。クラブはキャロウェイ。バイオリン演奏も趣味。