「とにかく遊んで」誰も教えない、「遊び相手」に徹する野球イベント…早大野球部OB会の「挑戦」

早大野球部OB会による野球振興イベントに出席した日本ハム・斎藤佑樹投手(カメラ・小島 和之)
早大野球部OB会による野球振興イベントに出席した日本ハム・斎藤佑樹投手(カメラ・小島 和之)

 小学生同士で最も頻繁に行う「遊び」が、今でも野球のままじゃん…。

 3歳の娘はアニメ「ドラえもん」が大好きだ。おのずと45歳の私も毎回、欠かさず視聴するようになったのだが、一番の驚きがこれだった。令和元年になっても、ジャイアンとスネ夫はのび太を野球に誘い続けている。そこには指導者も保護者の方々もいない。自然発生的にメンバーがそろい、試合が行われている。

 茨城の田舎で過ごした小学生時代を思い出す。

 三角ベースに手打ち野球。プラスチックのバットにゴムボール。2人いればキャッチボールができるし、3人いれば強引に試合成立だ。打席に立てば上手い下手にかかわらず、気分は原辰徳やランディ・バース。落合や八重樫の打撃フォームもマネしたりした。

 しかし90年代からだろうか。野球は公園で禁止となり、「遊び」から徐々に、チームに入って指導を受ける「習い事」へと変わっていく。

 「遊びの野球」って、もはや絶滅危惧種。もうテレ朝の土曜午後5時にしか見られねえのか…。いや、あった。12月8日、東京・東伏見の早大安部球場。早大野球部OBと現役選手による「Hello! WASEDA あそび場大開放!」という名のイベントが行われたのだ。

 今年で4回目。運営側の大渕隆さん(日本ハムスカウト部長)がイベントの趣旨を説明してくれた。

 「野球教室をやっているという思いは一切ないです。今年は野球を通じて、社会課題に取り組もうと」

 その社会課題とは、次の3つだという。

(1)バットやボールを使える遊び場がない

(2)野球チームに入るのはハードルが高い

(3)ボール投げ能力の低下

 早大野球部の鍛錬の場である安部球場を、子供たちの「遊び場」に変える。参加する130人は野球チームに属していない子供たち。うち45人は女子だ。そして、最近の小学生はスポーツテストを行うと、50メートル走の平均タイムは進化している一方、ボール投げ能力は年々低下しているという。「遊び」でボールを投げる機会が減っていることが原因のようだ。

 ただ「楽しい」だけに止まることなく、子供たちが現役選手と一緒に野球を遊ぶ中で、上手に投げる「成功体験」を積むことはできるのだろうか。

 これは「挑戦」である。

 事前にアンケートを実施し、野球経験の度合いから3つのグループに分かれた。まずはボール投げ測定。何メートル投げられるかを数値化する。その後、40分間、グラウンドでめいっぱい野球で遊ぶ。指導者はいない。誰も教えない。野球部員やOBはただただ「遊び相手」に徹する。

 その一人に日本ハム投手の斎藤佑樹がいた。イベントの趣旨に賛同し、もちろん無償で母校にやってきた。最も野球経験のない子供たちと、ボールの壁当てで盛り上がる。徐々に子供たちの声が大きくなっているのが分かる。真剣に遊んでいるのだ。段ボール破壊にバットを使ってのゲーム形式など、遊びの種類はさまざま。40分間はあっという間に過ぎ、子供たちは再び、ボール投げの測定に臨んだ。

 すると、どうだろうか。

 最初の測定の平均値17メートルから、2度目のそれは19メートルへと2メートルも伸びていたのだ。8メートルから16メートルへと伸びた小3男子もいた。

 このほどDeNAの2軍コーチに就任した田中浩康さんと一緒に今回、「野球あそび」を監修した早大野球部OBでもある東農大の勝亦陽一准教授は、この結果に驚きを隠せなかった。

 「これって結構、すごいと思うんですけど…。僕たちは教えていない。子どもたちはただ遊んでいただけです。体を大きく動かすということと、狙ったところに投げるという二つの要素がないと、遠くに飛ばないんです。それを子供たちが自分で自主的に、やりたいことを選んでやった結果、勝手に記録が上がったんです」

 遊びの中で、現役部員やOBたちは常に声をかけ、一生懸命な姿に拍手と声援を送っていた。褒められると、やる気が出る。成功すると、自信がみなぎる。それは、大人でも一緒だ。

 勝亦准教授は続けた。

 「子供たちが自分で楽しむ中で、勝手に記録が上がったのが、すごく大事なこと。楽しみながら上達する。僕たちが目指しているのは、教え込んでうまくなることじゃなくて、子供たちがまた自分で『ボール投げがしたいな』と思うこと。子供たちが『遊び』を持って帰れたらいい。そういう意味では、今回は大成功だったんじゃないかなと思います」

 さて、斎藤は「子どもの野球離れ」をどう見ているのか。見解はユニークなものだった。

 「現代の遊びは多様化されていて、選択肢が多くなっているのはいいと思うんですよね。自分がやってきた野球を子どもたちに押しつけることは、絶対にやってはいけないこと。その中で、子どもたちが野球を知って、野球ってこんなに楽しいんだと、本人たちが気づいてくれたらいいと思う。やらないことには、楽しさも分からない。最初の入りはとにかく遊んで。野球が本当に楽しいんだと言うことを、知って欲しい」

 「選択肢が多くなっているのはいい」…そうなのだ。子どもたちには選ぶ権利がある。ならば大人たちは、正々堂々と野球のおもしろさを訴えていきたい。野球界を取り巻く課題へと丁寧に向き合うことで、「選ばれる野球」を目指していきたい。

 ところで今回のイベントでは初めて、ライバル校・慶大野球部の部員8名も参加した。キャッチボールの実演で慶大の投手は斎藤のグラブに思い切り投げ込み、子どもたちからは驚きの声が上がった。斎藤は言う。

 「そのことがすでに凄い出来事だと思います。今までなら、慶応野球部の選手がワセダのグラウンドに入ることはあり得なかった。本当にきょう一日の出来事は、とても大きい第一歩だなと感じています」

 話を冒頭に戻す。ジャイアンとスネ夫とのび太は異なる個性を持った子どもなのだけど、バットとグラブを携えて空き地に集う。あんなに下手なのに、のび太は打席に立つ。ひみつ道具を使ってまで、試合でヒーローになることを夢想する。

 ダイヤモンドで白球を追う瞬間、人と人とは立場の違いを超えて、仲間になれる。

 「プレイボール」…球審は「ボールで遊べ」と宣告し、野球は始まる。

 「遊びの野球」よ、永遠なれ。できればドラえもんが誕生した、22世紀まで。(野球デスク・加藤 弘士)

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