「アメリカンいだてん」マイケル・ノーマン、母の祖国・日本で金を!…陸上男子400メートル

クラウチングスタートのポーズで撮影に応じたマイケル・ノーマン。和の心を持つスプリンターは母の祖国で開催される東京五輪を目指す(カメラ・宮崎 亮太)
クラウチングスタートのポーズで撮影に応じたマイケル・ノーマン。和の心を持つスプリンターは母の祖国で開催される東京五輪を目指す(カメラ・宮崎 亮太)

 サムライ・スプリンターが東京五輪を熱くする。陸上男子400メートル金メダル候補のマイケル・ノーマン(22)=米国=がこのほど、来夏に米国五輪選手団を全面バックアップする東京・世田谷区総合運動場を訪れた。米国人の父と日本人の母を持ち、外見からはうかがい知れない“和”の心に満ちた21歳が、第二の故郷への思いと野望を語った。(取材・構成=太田 涼)

 凍える寒さ。降りしきる雨。天気とは対照的に柔和な笑みを浮かべながら、ノーマンは日本の印象を語った。

 「ずっとずっと日本は大好きな国だったので、満喫できて良かったよ。今回で(来日は)2回目だけど、一つ言えるのは前回より、ものすごく寒いということ(笑い)」

 母・伸江さんは静岡・浜松出身で、入野中時代には100メートル11秒96の中学日本記録保持者(当時)だった。米国で暮らして21年。ノーマンが“第二の故郷”に初めて足を踏み入れたのは、意外にも今年5月のゴールデングランプリだった。

 「人がすごく親切。自分はほとんど日本語がしゃべれないけど、差別されることもなく気持ち良く過ごせる。そして、食べ物がおいしい。どこへ行っても、食べ物がおいしいところは大好き。気候が良いところも好きだよ」

 400メートル43秒61は今季世界最速。200メートルでも今季世界6位の19秒84をマークした。「400メートルがメイン。200メートルに関しては(来季も)もちろんやるけど、400メートルのためにやっている」と笑うが、その根っこは“和”で満ちていた。

 「日本らしさというのが、今の自分の中にたくさんあるんだ。一つは靴を脱ぐこと。家ではずっと靴を脱いで過ごしていたけど、友達が土足で上がってくるのがすごく気持ち悪い。今でも、家では靴を脱いで過ごしているよ。あと、時間もそうだね。(米国では)友達と待ち合わせると『10時30分』と言っても(遅れても平気な)『10時45分』のような意味も持たせてしまう。そういうのは、ちょっと我慢できないタイプです」

 母から教えられ、当たり前になっていた日本式の生活。食事の面でもギャップがあったが、競技に取り組む上ではプラスになったことが多いという。

 「(米国では)肉や炭水化物をものすごい量食べる。そういう意味では日本食はバランスが良く、いい食生活ができたと思う。実家にいるときは箸を使って食べていたけど、家を出てからはあまり使っていないので、どうだろう(苦笑い)。6歳くらいからサバの塩焼きが大好きなんだ」

 11月15日には男子100メートル日本記録保持者のサニブラウン・ハキーム(20)がプロ転向を表明。南カリフォルニア大に所属しながら今年プロ転向した“先輩”が、その難しさを語った。

 「(サニブラウンは)プロとして、よりビジネスに深く関わることになる。その中で卒業をするということ、学業を修めることも重要なので、とても大変にはなると思うよ」

 さらに、米国スポーツ界全体に大きく寄与している全米大学体育協会(NCAA)のシステムについても持論を展開した。

 「いいことは、やはりレベルが高いこと。プロのように要求が高い中でやるわけなので、いい環境になると思う。ただインドア、アウトドアのシーズンがあり、競技を続けていかないといけないのでオフが短くなりやすい。もう一つ悪い点は、体への負担。大学生活と一緒に競技をしないといけないから、勉強も大変だよね」

 日本人の親を持つアスリートとして、陸上大国・米国でトレーニングに励む日々。近年サニブラウンをはじめ、さまざまな分野の選手が日本を飛び出し、海外で牙を研ぐことが増えている。自身も日本を訪れて、多くの刺激を得たという。

 「快適で安心した環境から出て新しい挑戦をする、実験的なことをするというのは、本当にいいことだと思う。正しいやり方は一つじゃないし、競技のことをより深く知ることができる」

 来年の夏には、東京で世界一を決める戦いが始まる。五輪切符を得るためには来年6月の全米選手権などで厳しい選考をクリアする必要がある。だが、日本で走ることは大きな意味を持つ。

 「もちろん米国の代表として競技をするわけだけど、母の祖国ということもあるし、出ることができたら金メダルを目指すよ。その上で、日本と米国の競技の中でつなげていくような役割を果たせることがあれば、とてもうれしいな」

 米国で育んだスプリンターの素質と和の心。「USA」のユニホームで国立競技場を駆けた時、日本中から大声援が送られるに違いない。

 ◆米拠点世田谷区が全力サポート

 スター軍団の米国代表が五輪直前に拠点を構えるのが世田谷区総合運動場だ。東京23区内では珍しい50メートルプールのほか、陸上競技場やテニスコート、体育館などがコンパクトにまとまっており、環境は申し分ない。世田谷区スポーツ推進部の中潟信彦オリンピック・パラリンピック担当課長(52)は「全力でサポートする態勢を整えている段階です」と明かした。

 世田谷区は当初、姉妹都市であるカナダやオーストリア、オーストラリアなどの代表招致に動いた。しかし折り合いがつかず断念。五輪組織委に問い合わせたところ「米国代表が拠点を探している」という返答を得て、2016年に協定を締結し「ホストタウンUSA」に指定された。既に水泳のオープンウォーターや女子バレーボールの選手が練習に訪れており「視察にも来ていただいて、気に入っていただけた」。米国代表が「ハイパフォーマンスセンター」と名付けた専用基地は、代表が選手村に入る直前から使用され、コンディションを整えることが目的になる。

 来年7月4日~8月15日は代表選手と関係者以外は施設内への立ち入りを禁止するほか、レストランは代表専属シェフが自由に使用できるという。「ドーピング管理やコンディショニングのお役に立てれば」。ただ総合運動場近くの砧公園に立ち入り制限はしない予定なので、16年リオ五輪男子マラソン銅メダルのゲーレン・ラップ(33)らのクロスカントリー走を目撃できる可能性は高い。

 国際親善キャンペーン「Thank You,Japan」の一環として訪れたノーマンも「すごいきれいで新品みたい。トラックも走りやすいし、ここでトレーニングするのが楽しみ」と大満足。中潟課長は「これからも交流を続けて、子供たちに夢や希望を与えてもらいたい」と笑顔で話した。

 ◆Thank You,Japan 米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)が発表した国際親善キャンペーン。ホスト国への感謝を示すとともに、東京五輪がもたらすポジティブなレガシーに貢献し、その価値を多くの人と共有することが目的。世田谷区を中心に、競技期間中には難しい文化体験や交流が今後も企画されている。

 ◆マイケル・ノーマン 1997年12月3日、米カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。22歳。ブキャナン高入学後に本格的に陸上を始め、2015年全米ジュニア200メートル2位。16年にはU20世界選手権200メートルで20秒16の大会新をマークして優勝。南カリフォルニア大に進み、18年全米学生室内400メートルで44秒52の室内世界記録を樹立。19年プロ転向。自己記録は200メートル19秒84、400メートル43秒45。185センチ、82キロ。

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