問われる「王者としての振る舞い」戸惑った国際大会での“野球道”

パキスタンと対戦したマドンナジャパン。4回コールドで大勝した(カメラ・軍司 敦史)
パキスタンと対戦したマドンナジャパン。4回コールドで大勝した(カメラ・軍司 敦史)
コーチのユニホームに背番号をテープで作り、打席に立つパキスタン選手。バットは日本から譲渡されたもの
コーチのユニホームに背番号をテープで作り、打席に立つパキスタン選手。バットは日本から譲渡されたもの

 3回表ながら、試合開始からすでに1時間半を経過していた。10日、中国で行われていた女子野球、第2回BFAアジア杯の日本・パキスタン戦。35対0と大量リードしていた侍ジャパン日本代表「マドンナジャパン」の右打者は、2死一、二塁の場面で力なくバットを振り三振となった。日本はこの試合、38対0の4回コールドで勝利した。

 来年予定されている第8回WBSC女子野球W杯(開催日程、場所未定)のアジア予選を兼ねたこの大会に、日本は育成を兼ねて18歳以下の高校生で編成したチームで臨んだ。全員が国際大会が初経験だったが、フルメンバーの他国を相手に日本は6試合の総得点110に対して失点はわずか計4点という圧倒的な実力をみせ、17年の第1回大会(香港)に続く連覇を果たした。

 女子野球は年々発展しているが、その度合いはわずかで依然マイナーだ。この20年で全国の女子硬式野球部を持つ高校は32校、登録人数も971人まで増えたが、今夏の甲子園を目指した3730校に比べると、ケタが2つ違う。世界的に見ても同様で、今回対戦したパキスタン代表はレベルの差もさることながら、スパイクを履いていなかったりコーチのユニホームの番号を粘着テープで書き直した出場選手がいるなど、環境面でも大きな差があった。

 そんなパキスタンに、日本は大会前にバット2本を譲渡するなど支援。長野恵利子監督(45)はナインに「相手を絶対になめないこと」と厳しく指示し、“野球の不文律”に沿った上で正々堂々と戦おうと呼びかけた。

 “野球の不文律”とは、規則には明記されていないが、相手を重んじて点差が離れたときの盗塁などを控えて戦う、いわば“野球道”ともいうべきもので、敬意をもって戦うという部分で手を抜くのとは違う。日本は、事前に国際大会での不文律のレクチャーを講師から受け、この試合、投手はすべてストレート、得意とするエンドランやバントを封じる一方で、ヒットではゆっくり走るようなことはしなかった。その結果の大量得点だった。

 冒頭の三振の前後、日本ベンチは早い攻守交代を求めるようなプレッシャーを感じたという。ある関係者は、実際に運営側からそのような声があったと明かす。この異常な事態に涙を流す選手もおり、ベンチには重い空気が流れた。マドンナジャパンには一度も笑顔が出ることなく、試合は終わった。

 長野監督は試合後、選手を集めて語りかけた。「なかなか理解できなかったことだと思います。気持ちを抑えて、君たちもしんどかったと思います。でも今日のピッチャー、背番号をテープで貼っていたでしょ。道具をそろえるのも大変、使っていたバットは、君たちが(国内)合宿で使っていたもの(を譲渡したもの)です。戸惑いがあるけれど、(環境の)違いを知ってもらわんとあかん。世界の女子野球が発展するためには日本だけ先に行くわけにはいかん。日本がこういう野球をしなくてもよくなるのは、君たちが、おばあちゃんになってからかもしれないけれど、君たちの(今日)やったことは間違いじゃないから。下を向くことちゃうよ。今は苦しいけれど、これからの野球人生の幅が広がると思います」。そして続けた。「肝心な試合(決勝)で暴れまくってな。変化球も入れて、盗塁、エンドラン、そういう野球を見せつけて」。

 手を抜くことは、相手にとって失礼なことだろう。パキスタンの野手は、日本の長い攻撃に集中力が切れ、自暴自棄にもなっていた。しかし「三振しろとか、(不文律の中で)一生懸命やってきているのに怒られる、選手もどう受け止めて良いのか戸惑っていました。純粋なんですよね」と長野監督。厳しい国内選考を経て選ばれた精鋭20人を襲った葛藤。翌日の中国戦で“解禁”を告げると、選手の顔がパッと明るくなったという。

 17日に決勝を迎える「プレミア12」でも、野球の不文律をめぐる国際大会独特のふるまいやプレーが話題となっている。強いだけでなく、“野球道”としても世界をリードする必要がある日本。あの場面で涙を流していた選手は「これが国際大会。王者としての振る舞いやレベルの高さを知った大会でした。今後も代表でやっていきたい」と振り返った。プレーだけでなく振る舞いでも王者に、日本野球のこれからが注目されている。(記者コラム・軍司 敦史)

パキスタンと対戦したマドンナジャパン。4回コールドで大勝した(カメラ・軍司 敦史)
コーチのユニホームに背番号をテープで作り、打席に立つパキスタン選手。バットは日本から譲渡されたもの
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