武藤敬司と獣神サンダー・ライガー、最後のリングをつないだデストロイヤーさんが愛した名曲

最後のリングとなった武藤(左)とライガー
最後のリングとなった武藤(左)とライガー

 今年3月7日に88歳で亡くなった日米で覆面レスラーとして活躍した“白覆面の魔王”ザ・デストロイヤーさん(本名・リチャード・ベイヤー)の追悼興行「ザ・デストロイヤー メモリアル・ナイト~白覆面の魔王よ永遠に」が15日、東京・大田区総合体育館で行われた。

 メインイベントは、武藤敬司(56)が獣神サンダー・ライガー、全日本の3冠王者宮原健斗(30)と豪華トリオを結成し、全日本時代の弟子で新日本のSANADA(31)とBUSHI、フリーのKAI(36)と対戦。試合は武藤がデストロイヤーさん、そして自身の必殺技「足4の字固め」でKAIを破り追悼興行を締めくくった。

 武藤にとって来年1月4、5日の東京ドーム大会で引退するライガーとはこの試合が最後のリングとなった。試合後のバックステージで「何と言っても獣神サンダー・ライガー」と万感を込め「ライガー見納めだ。長い間ありがとう」と握手を交わした。

 ライガーは、1983年6月、武藤は、翌84年4月、新日本プロレスに入門した。1年先輩のライガーの背中に武藤は、大きな刺激を受けた。

 「1年先輩にライガーと佐野(直喜)さんがいて、この2人がとにかくプロレスがうまくてさ。見習う点がすごく多かったんだよ」

 当時の新日本プロレスは、前座から中堅、そしてアントニオ猪木、坂口征二、藤波辰爾らメインイベンターまでの序列が厳しく決められ、前座レスラーは、メインイベンターが出す派手な技は厳禁だった。

 「ところが、ライガーなんか平気でトペとか飛び技を使っててね。だったらオレもああいう技をやってもいいんだなって勝手に解釈して、それでムーンサルトをやったんだよ」

 デビューから半年後の85年3月に武藤は、自身の代名詞となる「ムーンサルトプレス」を初めて披露している。今では両膝の人工関節手術を行ったため封印した伝説の必殺技が生まれた裏側には、1年先輩のライガーの存在があった。

 一方のライガーは、武藤が持つ天性の華に嫉妬していた。身長170センチと小柄な体というハンデを克服しようと猛練習を課し誰よりも道場で汗を流した。そんな努力をいとも簡単に飛び越えて言ったのが1年後輩の武藤だった。デビューからわずか1年後の85年11月に米国武者修業が決定。当時、若手選手にとって海外遠征は出世への階段だった。たった1年での米国行きは、新日本が武藤に将来のスターの座を約束した意味があった。86年10月に凱旋帰国。「スペース・ローン・ウルフ」の異名でメインイベンターに駆け上がった。当時の心境をかつてライガーに聞いたことがある。

 「そりゃ、嫉妬しましたよ。当たり前じゃないですか。嫉妬しないヤツなんていませんよ。逆にそれでジェラシー燃やさないヤツなんて強くなりませんよ」

 武藤へのジェラシーを糧にライガーは、さらに汗を流しリング上では「どうやれば自分だけの個性を見つけられるか」を探し続けた。結果、テレビマッチで猪木のタッグパートナーに抜擢されるなど頭角を表し、英国への海外武者修業を経て平成元年となる89年4月24日、プロレス界初の東京ドーム興行で獣神ライガーとなり凱旋帰国した。それから30年、新日本一筋に伝統のストロングスタイルを守り続けた。

 武藤は同じ89年に米国のWCWでグレート・ムタに変身。日米でトップを極め、2002年に全日本へ移籍、13年にWRESTLE―1を設立し56歳の今も比類なき輝きをリングから発散している。

 共に1984年にデビューした2人。当時、新日本プロレスは、長州力らの大量離脱で団体存亡の危機にあった。希望は、明日を担う若手レスラーだった。彼らへの期待を込め前座の若手選手を「ヤングライオン」と名付け、未来を託した。そして、武藤とライガーは、栄光と葛藤と挫折と嫉妬と憎悪を絡めながら未来を切り開き、2019年11月15日を迎えた。

 試合後、武藤はリング上でライガーにこう告げたという。

 「長い間ありがとう」

 武藤の言葉にライガーは、こみ上げるものがあった。

 「リングでお前、おじちゃんが泣いたらカッコ悪いだろ」

 心なしか言葉は震えていた。マスクの向こうの表情は、涙でにじんでいるように見えた。

 「武藤選手には、いろいろ才能に嫉妬したこともあったし、でも最後にこうやってタッグを組めてレスラー冥利に尽きると思う」

 武藤が呼応した。

 「本当に今日うれしくて、本当にこういう機会を与えてくれたデストロイヤーに感謝ですわ。ありがとうございます」

 天国のデストロイヤーさんに感謝し「本当に長い間ありがとうございました」と頭を下げ、最後の武藤とライガーの時間を慈しむように抱き合った。ヤングライオン時代の苦悩を共有した2人だけが分かる「プロレスラーの心」がそこにあったように感じた。

 バックステージでの取材を終え、会場に戻ると館内には、デストロイヤーさんが生涯で最も愛したという和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」が流れていた。

 「あなたに逢えてよかった。

 あなたには希望の匂いがする」

 名曲の歌詞は、まるで35年の時間を過ごしたライガーと武藤の思いを代弁するかのようだった。ライガーがいたから「武藤敬司」は、プロレスラーになれた。武藤がいたから「獣神サンダー・ライガー」は生まれた。あの鐘を鳴らすどころか鐘がどこにあるのかすら見えなかったヤングライオン時代、2人にとって互いが「希望」だった。

 そして、何よりも「あなたに逢えてよかった」と感じているのは、武藤とライガーを見続けてきたファンだろう。

 2019年11月15日、大田区総合体育館。試合後に起きた奇跡のような演出は、もしかすると天国のデストロイヤーさんが仕掛けた最高のサプライズ、そしてプレゼントだったかもしれない。

 だから、プロレスは面白く、そして深い。

(記者コラム・福留 崇広)

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