36人が一斉退団…女子プロ野球で一体何が起きているのか? 元選手が語る問題点とは

ファンにお礼を言う埼玉・加藤優(中央)ら選手たち
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 今月1日、日本女子プロ野球で36選手の大量退団が発表された。その数に驚いた人もきっと多いはずだ。それにしても一気に36人もの選手が辞めるなんて、女子プロ野球に一体何があったのか。選手からはリーグの運営を行っているわかさ生活(京都)が、これまでは全員が正社員だった選手に対し「正社員での雇用」か「NPB(日本野球機構)のようなプロ契約」の選択を提示し、プロ契約を希望した選手は来季の戦力外を告げられたという話も出ている。果たして真実は何なのか、かつて女子プロ野球でプレーしたAさんに話を聞いた。

 現在も野球に関わるAさんだが、女子プロ野球を離れた理由のひとつとして「野球と違うところで圧力がかかる。幹部がいきなりルールを変えたり、選手をいきなり野球以外の理由で出場停止にしたこともあった」と振り返った。セカンドキャリアへの取り組みとして、選手は柔道整復師の資格取得のために専門学校に通っていたが、そこでの試験に合格できなかった場合などにいきなり試合の出場停止の決定が下されたという。またAさんはきちんとした手順を経て退団したにも関わらず、辞めた後も「社内でみんながいる前で『あんな辞めたヤツみたいになるな』と言われていたようです。それは私の後に辞めた子も言われていたみたい。辞めたらあんな風に言われるんだって見せしめですよね。人材人材と表では言っておいて、辞める人には厳しかった」と話した。

 しかしそれでもプロを辞め、セカンドキャリアが保証されたアマチュアのクラブチームに流れる選手が後を絶たなかったため、リーグではその防止策として在籍年数の長さによって給与が上がる仕組みを作った。だがAさんは「お客さんは年々減っているのに、選手に払うお金は多くなっている。だから赤字は膨らんでいくばかり。もっとうまくやったらいいのにと思うことばかり」と結果的に経営の悪化にもつながっていることを指摘。さらには以前、チームに在籍していたコーチが指導業を辞め、球団を買い取って新規参入したいと表明したことがあったそうだ。だが表面では新規参入を呼びかけているにも関わらず、リーグ側はかなり厳しい条件を突きつけてこの申し出を拒否。Aさんは「(新規参入をさせず)幹部のワンマン経営を守るためというのもあったと思う」と分析した。

 男子の場合、NPBがリーグを統括し、そこに各球団が所属している形となるが、女子の場合はまるで違う。男子のNPBにあたる日本女子プロ野球機構(JWBL)は存在するが、それもわかさ生活が株主となって設立した法人。つまり組織全体の運営もチームの運営も、全てわかさ生活の社内事業として行われているのだ。だから外部の手が入らず、ワンマン経営でも成り立ってしまう。現在そのわかさ生活が4つのチームを運営しているが、毎年行われる契約更改でも「チーム内の評価」ではなく「リーグ全体で見た評価」が下されるという。だからAさんも「チームの中でこれだけ活躍したのに、全体で…といった話をされる。自分のチームでの貢献度の話をしても聞いてすらもらえない。結局はみんなわかさ生活の社員だからってことでしょうね。やっぱり連盟とチームは切り離さないと」と契約更改で何度もはがゆい思いをしたことを明かした。

 ワンマンだからこそ起きた残念な出来事もあった。今年7月に育成チームである「レイア」とトップチームとのチャレンジマッチが予定されていた。しかしその1か月前にアマチュアとの試合でレイアが完敗。幹部の「見せ物にできない」というひと声で急きょ試合のカードが変更になり、レイアは試合ができないことになった。レイアの選手にとっては女子プロ野球選手として、観客の前でプレーできる貴重な機会。それだけでなく試合が行われることは既に各所に発表されており、選手も周囲にポスター掲示のお願いに回るなど宣伝に奔走していたところだった。実際レイアの選手も「本当に残念。試合をやりたかった」と嘆いていたという。その試合を見に来る予定だったファンも同様に悲しい思いをしたことだろう。いくらアマに負けたとはいえ、そういった急な変更によって、ファンや選手を振り回しているという事実は絶対に忘れてはならない。Aさんも「いきなりカードが変わるなんて、女子プロは大丈夫なの?となりますよね」と疑問を示した。

 またAさんが在籍した頃から選手の“アイドル化”に難色を示す選手も多かったようだ。女子プロ野球ではファンサービスに力を入れており、試合後には選手がそろってダンスを披露したりもする。またここ2年は「美女9総選挙」という、本家のアイドルよりもどストレートなファン投票も行われており「選手は苦痛じゃないかなと思う。仮に実力が伴っていなくても、メディアなどへの露出が多い選手がいれば、その選手を試合でも使えという上から指示が来る。本人も周りも実力勝負じゃないよなってなって、その選手もかわいそう」とAさん。集客のためとはいえ、野球選手という枠を大きく超えたファンサービスには苦手意識を持つ選手もいたようだ。また仮にそれらのファン投票で1位になり、個人のグッズが発売され、さらにそれが完売したとしても「個人には一切入りません。選手には還元されない」というから驚きだ。

 そんな状況もあり、最近ではより自由にプレーできる環境を求めて、プロではなくアマチュアを選ぶ選手が増えているという。「今は企業チームも増えているし、プロじゃなくてもいいという考えの選手が多いです。実際プロのトライアウトを受ける選手も年々減っていると聞きます。特に大卒の選手はトライアウトをあまり受けないようになりました」とAさん。今回退団した36人の選手を含めても「プロからアマに流れる選手はこれからも増えると思う。今回辞めた選手でも誰々がアマに行くらしいといった話は出ているし、半分以上は野球を続けるのではないでしょうか」と予想した。

 野球を引退した後の道が少ないプロに対し、アマの企業チームだと仕事をしながら野球をプレーすることができ、引退後も仕事を続けることができる。Aさんも「アマだとのびのび野球ができる。もちろんみんな野球少女のためにって思いは持っていますが、純粋に野球を楽しむならアマチュアなのかなと。今は元プロの子がアマに行くことでレベルも上がっています」とその魅力を語り「女子野球を広めるためにもプロは必要なのかもしれないけど、やっている方は過酷です。そもそもプロのレベルではないし、ウチはウチみたいなやり方で魅力は半減してしまって“自称プロ”になってしまっている」と女子プロ野球を取り巻く現状に危機感を募らせた。

 またプロとアマとの関係も決して良いとは言えず、9日に開幕した女子野球の日本一決定戦「女子野球ジャパンカップ」でもプロ側からの“鶴の一声”でアマの2つのクラブチームが大会への出場を認められない事態が起きた。その理由として「その2チームに元プロの選手がいるから、プロの幹部がそれを嫌がっているのではと言われています」とAさん。アマ側からも「プロは何でもありだな」といったプロのやり方に対する諦めに近い声が挙がっているという。

 8日に行われた女子プロ野球の退団試合でJWBLの彦惣高広代表理事は、4チームでの運営は厳しくなっていることを明かした。そして来季以降について「規模、やり方が変わる。何とか継続していく方向性ではある」とコメントした。だがAさんいわく「スタッフも意見を言ったら切られる。リーグの初期の頃にいたスタッフでもう残っている人はほとんどいない」という職場環境を含め、今女子プロ野球が見直す点は多岐に及びそうだ。

 今回Aさんに聞いた話は、あくまで以前在籍した一選手の話ではある。女子プロ野球で活動している選手全てが同様の考えを持っているかは分からないが、それでも内情を聞いた時の衝撃は大きく、重い“闇”のようなものを感じた。どんなスポーツであれ、プロ選手は本来憧れを抱かれるべき立場であり、夢を与える存在でないといけない。しかしそれが揺るぎつつある今、リーグの経営を改めて根本から見直す必要があると感じる。経営陣は選手が自ら「プロ」の肩書きを捨て、アマチュア選手になろうとしている現状をもっと重く受け止めないといけないだろう。またアマチュアとの関係を良好にしてこそ、よりよい選手の育成、はたまた女子野球の明るい未来にもつながるのではないだろうか。女子プロ野球がこの最大とも言える正念場をどう乗り越えるのか、しっかり見届けたい。(記者コラム・筒井 琴美)

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