「アスリートが世界で勝つにはコーチも世界基準に」パラ競泳・河合純一氏…2020年東京パラリンピックを支える

北京パラリンピック(08年)男子100メートル・バタフライ(視覚障害1)で銅メダルを獲得した河合純一氏
北京パラリンピック(08年)男子100メートル・バタフライ(視覚障害1)で銅メダルを獲得した河合純一氏
日本身体障がい者水泳連盟会長・河合純一氏
日本身体障がい者水泳連盟会長・河合純一氏

  スポーツ報知web版では、56年ぶりに東京で開催される障害者スポーツの祭典、東京パラリンピック2020(開会式2020年8月25日、閉会式9月6日)を迎えるにあたり、パラアスリート(障害者アスリート)を支える側にスポットを当てた連載を月1回配信している。(取材・構成=松岡 岳大)

 第3回は、競泳(視覚障害)で、1992年バルセロナ大会から2012年ロンドン大会まで6大会連続でパラリンピックに出場し、金メダル5を含む、計21(銀9・銅7)のメダルを手にした河合純一氏(44)。現在は、日本スポーツ振興センターにて勤務しながら、日本身体障がい者水泳連盟会長と日本パラリンピアンズ協会会長を兼任。日本パラ水泳陣が世界で勝てるレベルになるには、マスコミやメディアにもワールドクラスの視点での取材が必要だと提言した。

 河合氏は昨今のパラスポーツ周辺の盛り上がりについて「格差があるなと思っています」と口を開き、「興味を持ってくれている層がいて、そこは熱い思いでいてくれるけど、そうでもない層もいる。東京は盛り上がっていますけど地方に行けば温度差がもっと大きくなるし、年齢差もあったり。二極化していて格差が広がったかなと思っています」と語った。

 人気を定着させるための方針として、観客向けのサービスをどう充実させていくかが大きなポイントとの見解を示した河合氏は「お金がかかる話なのでそことのバランスをどう取っていくかというところがある」。身体障がい者水泳連盟として「選手を強化していく部分と、観戦してもらって大会のクオリティーを上げていくというところと。両立できるようでなかなか違う要素があるかなと思っています」と続けた。

 2000年代以降のパラリンピックで、日本水泳陣が最も多くのメダルを獲得したのは04年アテネ大会の23(男子12:金1・銀5・銅6、女子11:金7・銀1・銅3)。次に多いのは00年シドニー大会の15(男子8:金3・銀4・銅1、女子7:金6・銀1・銅0)となっている。

 今年9月、ロンドンで世界パラ水泳選手権(9~15日)が開催され、この大会で最も多くの金メダルを獲得したのはイタリアだった(メダル合計50、金20・銀18・銅12)。しかしパラ水泳ではシドニー・パラリンピックで銀メダル2のみ、アテネ・パラリンピックでもメダル合計3(金・銀・銅それぞれ1)にとどまっていた。

 08年北京パラリンピックでまたもメダル3(金1、銀2)に終わったイタリアは、その後、本格的な選手強化に着手。12年ロンドン・パラリンピックで金メダル4、銅メダル7(合計11)を獲得すると16年リオデジャネイロ・パラリンピックでは金2、銀8、銅3(合計13)にメダルの数を増やした。10年計画で選手強化を成功させたイタリアは20年東京パラリンピックへ向け「若手の強化や世代交代がうまく調整できている」とたたえられた。19年世界パラ水泳選手権で金メダル4を獲得した男子のシモーネ・バルラームは19歳。25歳のフェデリコ・モルラッキもロンドン・パラリンピックで銅メダル3、リオ・パラリンピックで金メダル1、銀メダル3の他に入賞も。今大会では金メダル2、銀メダル2に輝いた。女子でも18歳のカーロッタ・ジリが今大会で金メダル4を獲った。

 このことについて河合氏は「イタリアはリオ・パラリンピックではメダル数ではそうでも無かったのに躍進した。リオの時に8位以内の選手が結構いて、さらに3年掛けてメダルを取れる選手を育ててきたんです」と解説し、「メダルには現れない数値とかデータで読み解けるものがある。そういうところを含めて見た上で、どうやって分析するか。全体の戦略、トレーニングメニューをどう作るか。ミニマムな個別性だけではなく、チームとしてのプランニングが重要。日本を強くすることと、普及やこの国にどんな文化を作っていくのかとか、まだまだリンクし切れていないんだろうなと。そこも課題だと思っています」と話した。

 日本代表は、世界パラ水泳で金メダル3を含む14のメダルを獲得した(銀7・銅4)。河合氏が中学生頃から見ていたという競泳界のエース・木村敬一(29)は男子100メートル・バタフライでの金メダルを含む計3個のメダルを獲得(銀1・銅1)。世界選手権初出場の山口尚秀(18)も男子100メートル平泳ぎで世界新記録での金メダルに輝いた。200メートル個人メドレーでも、リオ・パラリンピック代表を逃した東海林大(20)が世界新記録で金メダルを獲得した。

 選手がメダルを勝ち取るような世界基準になっていくためにコーチの質が大きいと説く河合氏は、良いプールがあれば選手が育つわけではなく劣悪な環境でも良い指導者がいれば選手は強化されていくと考えているという。「日本基準ではダメ。国内で勝てばいいと思って、日本で一番になれば代表になれるんだと思ったら間違いで、世界のトップに近いから代表に選ばれる。それはイコール日本で勝つという発想にならないといけないんです」と熱弁した。

 続けて「日本一は世界で10番かもしれないし、世界一かもしれない。木村(敬一)は日本一であるとともに、世界一の選手。そういう選手にならないといけない。日本のトップやライバルを超えないとその先はない。どこを見ながらやっていくのかというのが重要で、視線を高く持って取り組むような選手やコーチが、そのレベルにあった(練習の)当たり前や常識、頑張りというのを一般化しなくてはいけない」と力を込めた。

 一流の選手を育てるには10年程の歳月が必要だとし、「ターゲットは小学生。幼少期の頃のスポーツ体験どころか、運動体験や日常動作のいろいろな体験自体が乏しい障害児がいる。一定の年齢にこそ鍛えておいたりとか動かしておいたほうがいい能力、伸ばさなきゃいけない能力を伸ばせないままになるんです」と説明した。全国各地で障害児童対象の水泳大会や、はばたき水泳大会、東京都ではパラスポーツ次世代選手発掘プログラムが開催されている。「ある一定の身体の大きさになったら記録は伸びますけど、その先のところでスランプだとかつまずきやすいことがありえると我々は思っています」と河合氏。「『こんなに努力しているんです』という親御さんやコーチがいるけど、そういうのはどうでも良くて。その程度(の努力)で満足しているんならその程度だろうなと。世界で勝つための努力とそのための振る舞いとして、それでいいのかというのがある」と厳しかった。

 現在は、競技開始からメダル獲得の潜在能力を持つアスリートまでの道筋「アスリート育成パスウェイ」を「日本版FTEM」に即して整備しているところだという。「選手もコーチも保護者も、誰が見てもどうすれば世界に通じる選手、世界で勝てる選手になれるかと見せていく。同じビジョンを描いてそれを共有することが重要かなと思っているので」と未来を見据えた。

 さらに世界は先へ進んでいて「パラリンピックの指導メソッドが、オリンピックの指導にいかせると考えている国が多くなってきた」と明かした。日本では型にはめる指導が現在も行われていることが多々あるが、パラスポーツの選手たちは型にはめようがなく、だからこそ自分たちの指導力が磨かれるチャンスだという考えが海外では広がっているという。

 河合氏は「そこにこそ教育やコーチングの本質がある」と述べ、「金メダルを取るような人は何百万、何千万人に1人。障害者より規格外。そういう人の特性を伸ばして更に前人未到の世界記録を出させる指導が出来る人は、普通の感覚だけでやっても絶対ダメ。そうやって考えたら、なんで障害のある人の指導も出来ないの?ってなる。世界ではパラスポーツのコーチ経験者が五輪のコーチに移る。その逆もあるし、これが普通のことなんです」と話した。

 ◇記者が選ぶ東京パラリンピック2020競泳競技の主なメダル候補

一ノ瀬メイ(運動機能障害)、北野安美紗(知的障害)、木村敬一(視覚障害)、東海林大(知的障害)、芹澤美希香(知的障害)、森下友紀(運動機能障害)、山口尚秀(知的障害)

 ※五十音順

 ◇東京パラリンピック2020競技日程

・競泳(東京アクアティクスセンター) 8月26~9月4日

【注目ポイント】

 競泳は重度、中度、軽度と身体、知的、運動機能、全部の障害がある。補助具を使わない数少ない競技の一つであり、そのアスリートの持っているものを全部だし、それを競い合うスポーツだ。各人の特徴をとらえるというところに面白さが凝縮されている。

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