「清純派」意外にコミカル…記者が明かす八千草薫さんの素顔

清純派のイメージが強いがミニスカート姿も披露していた八千草薫さん(74年)
清純派のイメージが強いがミニスカート姿も披露していた八千草薫さん(74年)

 宝塚史に残る娘役で、映画「宮本武蔵」、ドラマ「岸辺のアルバム」など日本を代表する名女優として活躍した八千草薫(本名・谷口瞳)さんが24日午前7時45分、すい臓がんのため、都内の病院で死去していたことが28日、発表された。88歳だった。

 約25年の間に何度インタビューさせてもらっただろう。八千草さんの口癖に「もう、あの子ったらねぇ」というのがある。おなじみの、あの柔らかな口調で発せられる一言。例えば息子役、娘役を演じた役者のことを語るとき、愛犬のエピソードを語るとき。最初に耳にしたとき、あの子ってどの子?と戸惑った。しかし、2回目から、いろんな「あの子」がいることが分かった。自分のことより、大事そうに語る愛情あふれるエピソード。こんなところに本当の素顔があるのではないか。

 意外性の人だ。八千草さんといえば「清純派」「理想のお母さん」のイメージが強い。しかし、長年活躍できた演技の背景にあったのは卓越した「コミカルさ」。宝塚・娘役での抜てきは「文福茶釜」の子ダヌキ、緑のタイツをはいて出た「河童まつり」で演じたカッパ。動物役でスターになった珍しい人だ。

 「昔から、私って外から見たら二枚目だけど実は三枚目みたいなんですね」と本人も認めていた。それは「やすらぎの郷」にも、はっきり表れていた。「姫」こと伝説の大女優・九条摂子を貫禄十分に演じたが、八千草さんの芝居の真骨頂は「ナスの呪い揚げ」のシーンに象徴されていた。

 大物女優たちが集まり「一生許せないヤツ」の名前を次々に挙げ、ナスに割り箸を突き刺し、憎い名前を夜中に絶叫し油へ。この呪いを提案するのが「姫」だった。「(この呪いは)よく効くの!」と平然と言う。「私もあのシーンは楽しくて楽しくて。やっぱりコミカルな場面って好きなのね」

 10月12日、台風19号で多摩川が氾濫した。八千草さんが主演したドラマ「岸辺のアルバム」を回想した人は多いだろう。ここでは1974年の多摩川水害の実際の報道映像がドラマに使われた。家屋が流れる生々しい濁流と人生をダブらせて描いた。しかも、演じた役は不倫をする妻というショッキングな役どころ。秘めた激しさを昇華させ、女優として新境地を開いた。「理想の母」だけではないことを証明してみせた。

 八千草さんが暮らした世田谷の高台。夜景のきれいな都心を見下ろすことができ、東京と思えないほど空気がきれいで自然も豊か。自身の体調がつらい中、9月に一時、自宅療養に変えたのは寂しがる愛犬を思ってのこと。この辺りは秋になると耳が痛くなるほど鈴虫やコオロギの鳴き声が響く。にぎやかな虫の大合唱を、八千草さんも最後に聴くことができたのだろうか。(編集委員・内野 小百美)

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