健常者と障がい者、2人の日本記録保持者を指導する高野コーチ…再会が待ち遠しい

健常者と障がい者の日本記録保持者を指導する高野大樹コーチ
健常者と障がい者の日本記録保持者を指導する高野大樹コーチ

 日常生活を送っていると、意識せずとも多くの人と出会う。学生時代の友人、会社の上司や同僚、コンビニの店員、駅員、タクシー運転手…。一生の付き合いになる出会いもあれば、その場限りで1日も経てばどんな人だったかを思い出すことすら困難になる出会いもある。後者が大半のなかで最近、陸上を指導している1人の青年コーチに出会い、彼の語った言葉がとても印象に残っている。

 「オリンピックやパラリンピックに出場できるような選手に巡り合える機会なんて、なかなかない。今しかできないことをやりたかった」

 9月27日~10月6日まで開催されていたカタール・ドーハ世界陸上。現地での取材で出会ったのが、高野大樹コーチ(30)=慶大陸上部短距離コーチ=だった。大学まで選手だった高野コーチだが、全国大会で目立った実績はない。しかし、現在は女子100メートル障害の寺田明日香(29)とパラ女子100メートルの義足ランナー高桑早生(27)を指導。異なるフィールドで戦う2人の日本記録保持者に携わる“二刀流”コーチだ。

 大学時代にパラスポーツに興味を持ち始めた高野コーチ。ボランティアなどを通して携わっていたが、「その当時、感じたのはパラスポーツは選手に関わるスタッフの対応がリハビリの域を出ていないということ。障がいの重い、軽いは別として『スポーツをやっているだけですごい』という雰囲気。それを変えたかったし、競技力向上を目指す選手の力になって、一緒に大きな舞台を目指したいと思った」。そんな時、全国障がい者スポーツ大会で高校2年だった高桑と出会った。

 小学6年の時に骨肉腫で左脚膝下を切断したスプリンター。もちろん、健常者である高野コーチは義足を履いたこともない。装着してみたこともあるが、「走るというよりもスノーボードをしている感じに近い」と感覚の違いに戸惑った。進学した大学院では、どんな条件が整えばパラアスリートが理想的な走りができるかを研究。「義足スプリント走の疾走フォームに関する発生運動学的研究」という修士論文を書き上げた。

 大学院卒業後は埼玉県内の夜間定時制の高校に勤務。平日の昼間と週末を高桑の指導に充てた。転機は28歳の時。全日制の高校に異動する可能性が高くなった。そうなれば昼間は授業、放課後や週末は部活動。つまり、高桑の指導ができなることを意味していた。公務員として安定した自分の生活を守るか。1人の選手のために今後どうなるかわからない未来を選ぶか―。後者に気持ちが傾きながらもなかなか決断できずにいた高野コーチの背中を押したのは当時、結婚したばかりの妻・恵理さんだった。

 「絶対に挑戦(高桑を指導)したほうがいいよ」―。

 同じ埼玉県内の高校で体育教諭をしていた妻の一言に、高野コーチは「彼女の言葉が大きかった。あれで決心することができた」と振り返る。2018年春に退職し、その後は“フリーランス”のコーチとして慶大陸上部を拠点に高桑を指導。昨冬からは寺田のコーチングも行っており、「高校の先生が楽しくなかったというわけではないけど、圧倒的に今の方が楽しいし、やりがいがある」と声を弾ませた。だが、一方で2人の日本記録保持者を教えているが、「まだまだ達成感はない。『もっとこうしておけば良かった』と思うことの方が多い」とコーチとして更なる高みを見据えている。

 ここまで書き進めてきたが、訂正させていただきたい部分がある。冒頭に高野コーチと「出会った」と書いたが、実は「再会」が正しい表現になる。高野コーチと私は高校の同級生で同じ陸上部出身。彼が部長兼短距離キャプテンで私が長距離キャプテンだった。毎年、数人が関東大会に参加し、そのうち1人でもインターハイに出場できればいいというレベル。決して陸上の強豪校などとは言えない中で3年間ともに汗を流してきた仲間とドーハで友人の結婚式以来、約5年ぶりの再会。異国の地で会えると思っていなかったので、本当にうれしかった。大会中、食事をしながら高野コーチから頑張っている話を聞いて「記事にしたい」と思い今回、コラムという形で彼を紹介させてもらった。

 大会の最終日、彼とスタジアムをバックに記念撮影した。そして私たちは、がっちりと握手を交わした。「それじゃあ、またね」。異なる立場の高野コーチと私だが、目指すのは同じ舞台―。2020年、東京五輪、パラリンピックで再会できる日を心待ちにしている。(記者コラム・相川 和寛)

 ◆高野 大樹(たかの・だいき)1989年1月17日、茨城・つくば市生まれ。30歳。中学1年から陸上を始める。下妻一高→埼玉大→埼玉大大学院。卒業後は高校教諭となる。その後、フリーランスのコーチとして慶大陸上部を主な拠点に高桑や寺田らを指導。今年4月から日本パラ陸連の専任コーチングディレクターを務める。179センチ、72キロ。家族は妻と長女。

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