「『障害者スポーツは遅咲きでいい』にとらわれてはいけない」パラサイクリング花岡伸和氏…2020年東京パラリンピックを支える

車いすレーサーで快走する花岡氏(提供)
車いすレーサーで快走する花岡氏(提供)
花岡伸和氏
花岡伸和氏

 スポーツ報知web版では、56年ぶりに東京で開催される障害者スポーツの祭典、東京パラリンピック2020(開会式2020年8月25日、閉会式9月6日)を迎えるにあたり、パラアスリート(障害者アスリート)を支える側にスポットを当てた連載を月1回配信している。

 第2回は、04年アテネ・パラリンピック、12年ロンドン・パラリンピックの両大会で車いすマラソン日本代表(T54)として出場し、現在はパラサイクリングで活躍しながら日本パラ陸上競技連盟副理事を務めている花岡伸和氏(43)。(取材・構成=松岡 岳大)

 自ら広告塔となりパラスポーツの普及や理解を広めている花岡氏は、日本のパラ陸上の問題点と2020の先にある強化・戦略について熱く語った。

 国内の陸上のパラアスリートたちは国際的に高いレベルに位置してはいるものの、メダルまであと一歩という選手が多い。その現状を「パラスポーツが本当に必要かどうかというのを選手たちも実感がないままやっているところがあります」と説明し、目的がハッキリしてくれば世界で勝てる選手が現れてくると分析。「(目的が)曖昧だったりすることころもう少し長い目で見たり、広い視野を持つことでもっともっと強くなれると思います」と述べた。

 1992年、高校3年の時にバイク事故で脊髄(せきずい)を損傷し車いす生活になった花岡氏は、入院中に出会った車いすマラソンに衝撃を受け競技にのめり込んでいった。猛練習を重ねると国外レースで1500メートルの日本記録を樹立。やがてパラリンピック・車いすマラソン日本代表に選出され、アテネ大会では日本人トップの6位入賞を果たし、ロンドン大会でも5位入賞の成績を収めた。

 「自分がフィジカルで劣っていたとしても、出せるものを出して満足できるかどうか、その差だと思う」と自らの経験を踏まえて話した花岡氏。「何のためにやっているのかというのをハッキリさせるためには試合に捕らわれてはいけない。結局試合に捕らわれると走らされていることになってしまう」と語り、「自分でやっているようでやらされているというのはすごく大きな問題で、自己決定ができない。結局は決めさせられているというか非常に大きな問題で、日本の選手の多くはそうなんだろうなと。そこが変わらないと障害者スポーツ自体も本当の盛り上がりが起きてこない」と鋭く指摘した。

 パラリンピックを来年に控えた東京だが、新国立競技場がまたぐ渋谷区や新宿区、競技の行われる各地ではハード面のバリアフリーか進んでいるものの、ソフト面、心の面では理解がまだまだ進んでいない。パラスポーツも人気は低空飛行のままだ。花岡氏は「パフォーマンスが高ければ見たいと思ってもらえると思う。圧倒的なパフォーマンスというのは入り口として使いやすいし、だからこそ本気でそこを目指しているんだというのを選手から伝わらないといけないんです」との見解を示した。「立ち振る舞いから肉体の作り上げ方から、そこにいるだけでこの人は本気だということを分かってもらえるくらいの迫力をパラの選手がまとい出すともっと興味を持ってもらえるようになるはず」。日本パラ陸連がスローガンとして掲げているは「競技力向上」だ。

 このことについても花岡氏は「『障害者スポーツは遅咲きでいい』みたいな空気感がありますよね。始まりが脊髄損傷なので、活躍している選手が40代、50代ということが当たり前にあるんですけど、そこにとらわれてはいけない」と自身の考えを述べた。強化策の一つの案として、ジュニア時代からパフォーマンスを上げていくための指針を教育も含めて考察していくことだという。義足のアスリートの強化についても「より若いほうがいいのであって、車いすみたいに年を取ってからパフォーマンスを向上させるのは難しいですから」。発掘・育成・強化というサイクルをもっとスピード上げて回せるようにしなくてはいけないとも意見した。

 パラスポーツの意義を「みなさんが生きやすくなるヒントだったりした方が価値のあることだろうなという気がします」と花岡氏。パラリンピックやパラスポーツは、それぞれの残された機能を最大限に発揮できるように細かくクラス分けしている。そのためメダル数が多い。メダリストたちに「(メダルを)取ったから自分の仕事は終わりというのではなく、そこまでの道のりはこうやって生きてきましたよっていうことが皆さんの役に立てれば、よりメダルの価値は上がる」と期待。「必要なのは普通の人としてどう生きてきたかというデータやメソッド。そういうものをパラスポーツから世の中に発信していきたいです」と希望した。

 花岡氏も含めパラアスリートは障害者が心身自立を果たして社会で役割を持って生きていけることを世の中に見せていくことだと話し、「社会の負担が減ればそれでいい。障害者だから世の中の役に立てなくて当然じゃなくて、出来ることはやらなくてはいけないし、そうなれば自分たちのことは自分たちでやっていけると証明できる」と語った。

 さらに障害者が体を動かすことやスポーツをする意義にも触れ「目標設定が明確に出来て、そこまでの距離とか達成具合が実感できるところ。それを医療に持ち込めれば、ベッドから起きあがったり退院することがゴールだったものがその先にゴールを設定できますよ」と語った。

 記者は現在42歳で、20代前半に心臓の僧房弁を置換する手術を受け、それから20年間で3度同じ手術を経験した重度障害者。しかし、3度目の手術から4度目の間にトライアスロンを開始すると、弁の対応年数が10年だったものが約15年に伸びた。科学的根拠はないが、スポーツを始めたことにより体の機能が飛躍したものと思っている。

 花岡氏が話した「スポーツをすることで病院に定期的に行かなくて済むようになったり、薬を飲まなくて良くなったり。体に良いことが訪れる」というのを実体験したと考える。

 最後に花岡氏は自分のこれからや日本のパラ陸上に触れ「選手発掘につながるための医療と教育へのアプローチと、芽が出た選手の受け皿を作って指導方法を確立していくということだと思います。こういうことは付け焼き刃で出来ることではないので協力者が必要。人のつながりはすごく大きく膨らんでいっているから、自分自身が諦めなかったら助けてくれる人は必ずいるはずです。その仲間をどう作っていくかと思っています」と希望した。

 日本のスポーツビジネスは年々拡大傾向にあるが、まだまだアメリカの10分の1以下。それでもスポーツ庁には2025年までに15兆円のスポーツマーケティング計画があるという。花岡氏は「日本のスポーツ文化が成熟していないというか、心身を鍛えることにしか使っていないというのが大きい。そういうところに障害者のスポーツが乗っかれなかったらしぼむ一方」と危機感を覚えている。答えはまだ見つかっていないというが「100年、200年障害者スポーツが続いていくんであれば、私が死んでから先のことも考えて行動していかないとと考えています。やっぱり伝えなきゃいけないし、伝承していくことは非常に大事。そのためにはチャレンジしていかないといけないし、チャレンジすると失敗することもあるだろうし、得るものもあるだろうし。それを次の世代に伝えて、またそれをさらに次の世代に伝えるという事も仕込んでいきます」と熱く語った。

 ◇東京パラリンピック2020陸上競技の主なメダル候補

 井谷俊介(T64:下腿義足など)、佐藤友祈(T52:車いす)、鈴木朋樹(T54:車いす)、重本沙絵(T47:上肢切断など)、高桑早生(T64:片下腿義足など)、高田千明(T11:視覚障害)、多川知希(T47:上肢切断など)、成田緑夢(T44:下肢障がいなど)、山本篤(T63:片大腿切断など)

 ※五十音順

 ◇東京パラリンピック2020出場競技日程

・陸上競技(オリンピックスタジアム)8月28~9月5日

 【注目ポイント】これまで陸上競技などでパラリンピアンを目指す選手は大人になってから中途障害者が多く、30代以降という人がほとんどだった。その原因は障害を受け入れるまで多くの時間がかかり、許容できるようになっていざスポーツを始めるアスリートが多いからだ。しかし最近ではパラアスリートの活躍を見て自分もスポーツに挑戦したいという若手も少しずつかもしれないが育ってきている。成田緑夢や村岡桃佳(T54:車いす)など、冬のパラリンピック「金」メダリストたちも夏の大会に挑戦する選手が増えてきた。

車いすレーサーで快走する花岡氏(提供)
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