「それぞれの人生です」…56歳でフリー転身・笠井信輔アナに贈ったフジ社長の言葉の重さ

9月いっぱいでフジテレビを退社、56歳にしてフリーに転身する笠井信輔アナウンサー
9月いっぱいでフジテレビを退社、56歳にしてフリーに転身する笠井信輔アナウンサー
フリーとして古巣・フジテレビの看板ニュース番組のキャスターという重責を担う加藤綾子アナウンサー
フリーとして古巣・フジテレビの看板ニュース番組のキャスターという重責を担う加藤綾子アナウンサー

 平凡な中年記者が仕事と人生について、じっくり考えさせられた1日だった。

 27日、56歳のベテランアナウンサーがテレビ画面の中で涙を見せた。この日放送のフジテレビ系朝の情報番組「とくダネ!」で同局を今月いっぱいで退社し、フリーに転身。99年4月から出演し続けてきた同番組の卒業を迎えた笠井信輔アナウンサー(56)が、別れのあいさつに立った。

 小倉智昭キャスター(72)が「20年前から『とくダネ!』を支えてくれた笠井君が卒業となります」と切り出すと、「長い間、ありがとうございました。本当に…」と、まず感慨深げに一言。その後、昨年亡くなった歌手・西城秀樹さんとの交流や被災地リポートなど過去20年分の同アナの出演シーンが流された。

 大先輩として慕い続けてきた小倉氏から「20年、あっという間だったね。ありがとうございました」と大きな花束を渡されると、「いろいろなことがありました。いろいろな取材をさせてもらいました。失敗もたくさんありました」と、しみじみ話した笠井氏。

 その後、「フジテレビで32年。『とくダネ!』で20年。本当にお世話になりました。一つの番組を20年続けるのは局アナにとって最高の経験でした」と話した後、「何よりも小倉さんがガンを乗り越えて、こうやって一緒に20年やれてきたことがうれしいです」と声を詰まらせ、涙ぐんだ。

 こちらの涙腺もゆるみそうな感激シーンの中、私が気になったのは、小倉氏が披露した「笠井から最後に相談を受けたのは『アナウンサーを辞めようと思う』という相談だった。ウチの事務所に誘おうとも思ったけど、『これからも笠井と一緒かあ』と思ってしまって」という裏話だった。

 そう、「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチフレーズのもと、82年から93年まで12年連続で視聴率「三冠王」に輝き続けた全盛期から、私にとって笠井アナは三宅正治アナ(56)、軽部真一アナ(56)と並ぶ同局の男性アナの代表的存在だった。

 87年入社、社歴32年ベテランのフリー転身。この日の「とくダネ!」でも小倉氏に「よく踏み切ったね。この年で」と聞かれ、「長いものには巻かれろという人生でしたが、この年齢で挑戦したいと思ったんです」と答えた笠井氏。その言葉に全くウソがないのは分かっているが、それでも、「32年間務め続けて、フジの情報番組の顔になったのに辞めるんだ」―。そんな素朴な疑問がわいたから、「とくダネ!」の生放送から5時間後、東京・台場の同局で行われる定例会見で遠藤龍之介社長(63)の思いを聞いてみようと決意した。

 笠井アナ退社についての質問に、まず「本当に情報番組中心に長い間、寄与してくれたアナウンサーですし、今後も一層、ご活躍願いたい」と遠藤社長。温厚で知られる同社長らしい温かいエールに感動しながらも、私も重ねて聞いてみた。

 「56歳のベテランアナが32年間務めた会社を辞めて、フリーになるのは異例なことだと思うが」―。

 この質問にこちらをじっと見た遠藤社長は「それぞれの人生です。心の中まで分け入ることはできないし、新しい選択をされたわけで。気持ち良く送り出してあげたいし、今後、一緒に仕事をすることもあると思います」と淡々と答えた。

 疑問はもう一つあった。笠井氏はフジの情報番組に長年、貢献してきた大ベテランだが、一方で民放各局は女性アナの早期退職、フリーへの転身ラッシュに見舞われている。

 テレビ朝日を退社し、フリーになった小川彩佳アナ(34)は、その2か月後にはTBSの看板ニュース番組「NEWS23」のメインキャスターに就任して、世間をあっと言わせた。

 TBSでは、今年1月退社の吉田明世アナ(31)、3月退社の宇垣美里アナ(28)が、それぞれフリーとして大手芸能プロダクションと契約し、大活躍中だ。すっかり、日本テレビ系「news zero」の“顔”になった有働由美子アナ(50)もまたNHKからの転身組だ。

 そもそも、フジの看板ニュース番組「Live News it!」のキャスターを務めるカトパンこと加藤綾子アナ(34)も16年に退社。フリーになって帰ってきた、言葉は悪いが、“出戻り組“だ。

 こうした数千倍の倍率をかいくぐり、あこがれのキー局アナとなった女性たちの早期退職、そして、フリーとしての大手プロダクションとの契約、各局で人気者という流れ。それこそ遠藤社長の言う「それぞれの人生」の選択に水を差すつもりは全くない。

 ただ、テレビ局の一会社員からフリーの身となった女性アナが転身直後に古巣のバラエティー番組に出演。社員アナとしての出演時とタレントとしての出演時の待遇の違いを明かしたり、局アナ時代の上司とのいざこざを暴露したりするのは、いかがなものかと思う。果たして、それでいいのか。

 入社の時点から時間もお金もかけてアナウンサーとしての技量育成を図った局側は、こうした彼ら、彼女らの言動をどう受け止めるのか。そもそも、今のキー局はタレント養成所なのか。極端かも知れないが、そんなことまで思ったので、続けて遠藤社長に聞いてみた。

 「フジにも16年に退職してフリーに転身。今、看板ニュース番組を任されている加藤さんのような存在もいるが、社長自身は今、各局で続く女性アナ中心の早期退職、直後に大手事務所に所属し、フリーになってのタレント活動をどう受け止めているのか」―。

 今度も大きな体を微動だにもせず、こちらを見た遠藤社長は淡々と「それぞれの方の判断なので、ああだこうだ言うことはありません。(フリー転身後も)分け隔てなくお付き合いできたらと思っています」と答えてくれた。

 そう、20代の若手女性アナから56歳の超ベテランまで、キー局社員という安定した立場を捨て、突然、仕事がゼロになる危険も抱えたフリー転身という決断は何よりも潔い。成功か失敗かはすべて、それぞれの技量、魅力にゆだねられているわけで、これほど公平な競争はない。笠井アナの熱い涙と遠藤社長のメガネの奥の冷徹なまなざしを同じ日に目にした中年記者は、この日、そんなことを思った。(記者コラム・中村 健吾)

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