30年前の片岡愛之助 「千代丸ちゃん」回想 人生の不思議と可能性

片岡愛之助
片岡愛之助

 30年くらい前になるだろうか。歌舞伎俳優の片岡愛之助という役者を初めて知ったのは、大学生のとき。当時は片岡千代丸を名乗っていた。広い講堂で「歌舞伎のいろは」的な講義を受けた。上方歌舞伎の女形で蜷川幸雄演出「王女メディア」にも主演した故・嵐徳三郎さんに連れられての登壇。「女形ができあがるまで」というテーマでは、千代丸が化粧など実演しながら見せていく楽しい内容だった。

 徳三郎さんはこのとき、大勢の女子大生を前に強調した。「みなさん、今日はこの千代丸ちゃんの顔と名前もしっかり覚えて帰ってくださいね」。整ったルックスをした繊細な少年という印象を受けた。愛之助が記憶にインプットされたのは徳三郎さんの、この言葉があったからだ。

 先ごろ、昼夜で計7役の奮闘となる東京・歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」についての話を京都で聞いた。現在、中村七之助、市川中車らの共演で南座公演「東海道四谷怪談」(26日まで)に出演している。その終演後だった。

 一方、妻で女優の藤原紀香は主演舞台「サザエさん」(東京・明治座)を終えたばかり。愛之助の取材は9月1週目。京都と東京。さすがに観劇に行くのは物理的に不可能だろうと思ったら「これがまた、休演日があるんですよー」と目を輝かせる。「四谷怪談」の休演日が17日で「サザエさん」の千秋楽が17日。なんとまぁ奇跡的なタイミング。

 愛之助は大阪生まれなので普段の会話はコテコテの関西弁で話すことが多い。疲労もあるだろうに唯一の休演日を自身の休養にあてず、妻の舞台に駆けつける。本当に公私に充実している様子をうかがわせた。「こっちも、あっちも満杯らしくて。ホンマにありがたいことです」。すでに観劇した記者が「サザエさん」の舞台内容を話し出すと「うわ、楽しみにしてるから。それ以上、言わんといて~!」“ネタばれ”拒否を懇願した。

 しかし愛之助の取材のたび、いまも30年前の記憶が思い出されてしまう。自分が新聞記者になって歌舞伎を取材することになるとは、想像もしなかった。

 人生の不思議、人生の可能性。愛之助は一般家庭から梨園に入って成功した数少ないケースに挙げられる。子役たちにとって、まさに希望の星。あのときの「千代丸ちゃん」は、将来をどう思い描いていたのだろうか。歌舞伎座で昼夜7役にもプレッシャー、不安はなさげだった。夕暮れの鴨川を眺めながら、30年という年月に感慨を覚えたのだった。(記者コラム)

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