99年ラグビーW杯日本代表が説く「しなやかさ」の重要性…平尾剛さん著「脱・筋トレ思考」

神戸製鋼時代の平尾さん。俊敏なステップワークを武器にバックスとして活躍した
神戸製鋼時代の平尾さん。俊敏なステップワークを武器にバックスとして活躍した
元ラグビー日本代表という異色の経歴を持つ大学教授・平尾剛さん
元ラグビー日本代表という異色の経歴を持つ大学教授・平尾剛さん
平尾剛著「脱・筋トレ思考」
平尾剛著「脱・筋トレ思考」

 いよいよ開幕したラグビーW杯。1999年ウェールズ大会に出場した元日本代表FBで神戸親和女子大教授の平尾剛さん(44)の「脱・筋トレ思考」(ミシマ社、1944円)は観戦の合間に読むのにオススメな一冊である。かつて桜のジャージーに袖を通した教授は、心身の「しなやかさ」の重要性を説く。(北野 新太)

 あの日、空高く舞い上がる楕(だ)円球を見つめながら、平尾さんは思っていた。「これ落としたら…日本に帰れへんな…オレ」

 1999年10月9日、ウェールズの首都カーディフのミレニアムスタジアムで行われたラグビーW杯・日本対ウェールズ戦。地元ファン7万2500人の大声援の中、開始直後のハイパントがFBの平尾さんに向かって飛んできた。「まず『なんでキックなん?』と思ったんです。スカウティングと全然違うなと。で、分かったんです。オレ、試されてるなって」。初戦でレギュラーFBが故障。リザーブの平尾さんが先発に抜てきされた1次リーグ第2戦だった。「イタズラ心か…と思ってボールを見ていたら音が消えて、スローモーションになったんです。なんて表現したらいいんだろう…。明らかに焦燥感なんですけど、どこか高揚感も充実感もある。捕ったら落ち着いて、ゾーン(超集中状態)に入りました」。20年前の記憶を感覚から詳細に言語化できるのは、平尾さんの「脱・筋トレ思考」の結晶ともいえる。

 本書は「筋トレはやめましょう」と訴える本ではない。現代のスポーツ界に広く浸透した筋トレの功罪、勝利至上主義などを問いながら、心身の「しなやかさ」の重要性を説く。2007年の現役引退後、平尾さんが学び、今は大学の教壇で教えている運動・身体学を基盤としている。「僕自身、引退後の12年間は自分の体にベッタリと貼り付いた体育会的発想を乗り越えるために過ごしてきた日々でしたから」

 平尾さんの考える「しなやかさ」を理想的に体現したアスリートがいる。「やはりイチローさんは特別ですよね。彼が続けた初動負荷トレーニングは自分も現役の時に試しましたけど、鍛えている手応えがなくて浮遊感しか残りません。常人とは違う感覚で身体と向き合い、パフォーマンスを発揮された方だと思います」。ラグビー選手では20日のW杯開幕戦で3トライをあげ、日本を勝利に導いた代表のエースWTB松島幸太朗を挙げる。「彼の動きをよく見てみてください。相手の芯を外して倒れない。体の大きな相手にも当たり負けしない。確実に独自の感覚を持っています」。そして真の「しなやかさ」とは身体のみならず、心や精神が融合して得られるものだと説いている。

 恩師もまた、圧倒的筋力ではなく、しなやかさを武器に戦ったプレーヤーだった。神戸製鋼、日本代表で監督として指導を受けた故・平尾誠二さん(同姓は偶然で血縁関係はない)の思想は、引退後にアカデミズムの世界に進んだ原点でもある。「考えるスポーツとしてのラグビーを身をもって教わりました。『イメージはイメージのままじゃあかん。マネージせんと意味ないんや』とか、よく言われました。『君のええとこは考えているとこや。あかんとこは考えすぎるとこや』と…。平尾さんに教わったことで、自分もガツガツの体育会系じゃなくていいんだと思えたんです」

 いよいよ開幕したW杯。平尾さんの心には今も、15対64で敗れたウェールズ戦直後のシーンが残っている。「ジャージー交換でウェールズのロッカーに行ったんです。そしたら、選手たちが他会場のテレビ中継を眺めながら缶ビールを飲んでるんです。で、『おお、お前らも飲めよ。一緒に見ようや』ってビールを渡してくる(笑い)。さっきまでガンガンやり合っていた相手ですよ? ああ、これが本当のノーサイドなんやな、と実感した瞬間でした」

 街全体がお祭り騒ぎだった日々を、懐かしく思い出す。「試合を全部終えた後、パブに行ったんです。そしたら『日本代表が来てくれました!』って、みんなでビールを注ぎに来てくれて。ラグビーが文化として根付いているんですよね」。だからこそ願う。「今大会がラグビーの価値と本質を知ってもらう機会になったらいいですよね。あとは…もちろん日本代表の躍進を」

 ◆平尾 剛(ひらお・つよし)1975年5月3日、大阪府寝屋川市生まれ。44歳。中学1年でラグビーを始める。同志社大、三菱自工京都、神戸製鋼でFB、WTBとして活躍。99年、W杯日本代表に選出。代表キャップ11。2007年に現役引退。その後、神戸親和女子大大学院で教育学を専攻。現在に至る。著書に「近くて遠いこの身体」、内田樹氏との共著に「ぼくらの身体修行論」がある。現役時代のサイズは182センチ、85キロ。

神戸製鋼時代の平尾さん。俊敏なステップワークを武器にバックスとして活躍した
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