中村匠吾は1か月以上前に展開を予言していた 重なる15年箱根駅伝1区の2段階スパート

優勝した中村匠吾(左)をたたえる駒大の大八木弘明監督
優勝した中村匠吾(左)をたたえる駒大の大八木弘明監督

 言霊、という言葉がある。「言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力が働いて言葉通りの事象がもたらされると信じられた(広辞苑)」。東京五輪代表選考会MGC(マラソングランドチャンピオンシップ、15日)男子で優勝した中村匠吾(27)=富士通=はその通り、自ら口にした信念を貫いた。

 「比較的暑くなるかな、と。気温は30度くらいを想定して準備しています。その中での色んな駆け引きになる。個人的に名前を挙げるとしたら、設楽悠太さん(ホンダ)がハイペースに持ち込んでいくのかな、と思っています。そういう中で、ペースメーカーもいなくて、最初から勝負。だけど、しっかり42・195キロの中での自分の見極めというか、勝負所まで持ち込めたら勝機はあると思っています。自分の展開に持っていけるようにしたいですね」

 実は、これを口にしたのは13日のMGC公式会見ではない。

 7月下旬、北海道・釧路。米・ユタ州での高地合宿を前に、涼しい環境でトレーニングする富士通チームを取材した。順大で駅伝主務を務めていた私にとって、駒大で1学年下の中村には何度もレースで返り討ちにされた苦い思い出がある。福島出身の大八木弘明監督(61)譲りの謙虚な姿勢と心の熱さは本物。富士通所属だが練習の拠点は駒大。米国武者修行でレベルアップした今年の日本選手権5000メートル覇者の松枝博輝(26)らを“選手ファースト”の指導で支える富士通の福嶋正監督(54)の懐の深さもあり、練習環境も申し分ない。

 取材の終盤、本音を聞こうと「MGCはどんなレースになると思いますか」と質問すると、先の答えが出てきた。そして、こう続けた。

 「2回目の上りからが勝負。まだ1回しか試走していませんが、そこから最後のゴールまでの道は幅が狭くなり、カーブもあるので、(順位が)入れ替わるのは難しいと感じました。戦略を練る必要はありますが、仕掛けどころは大切になるのかな、と思っています」

 15日のMGCで、スタートから飛び出した設楽を見て、私の脳裏には中村の“予言”がよぎった。いや、まさか…。まだ始まったばかりだ、この先は分からない。自分に言い聞かせながら、レースが進むにつれ、現実味が増していくのを感じた。このまま行ったら…。大迫傑(28)=ナイキ=も服部勇馬(25)=トヨタ自動車=もいる。あの坂だ、あそこで決まる。そして、会心の2段階スパート。有言実行とはこういうことか、と心底驚いた。

 抜群の勝負勘と強いハート。1か月以上前にイメージしたプランがそのままずばりハマった要因はこの2つだろう。それを養ったのが箱根駅伝だったのだと思う。ただ、それは大迫や設楽、井上大仁(当時山梨学院大)らとしのぎを削った13年3区ではなく、15年1区。先頭集団から2度こぼれるも粘りの走りで追いつき、区間賞を獲得したレースだった。

 「1区はスローペースもあるけど、1区ならではのロードでの駆け引きもあって、そう考えるとマラソンにプラスになる部分は大きかったと思います。特に4年生の時の1区ですね。遅れたけど、最後にまくって1位。本当にきつくて離れたんですよ(笑い)。前の集団のペースも思ったほど上がってなくて、だんだん近づいてきたら自分が元気になってきた。最後の年だったので、何とかトップでつなげてよかったです」

 19・7キロで久保田和真(当時青学大3年)との一騎打ちに持ち込み、20・4キロで再びギアチェンジ。「4強」の大迫、服部を振り切ったMGCと重なる2段階スパート。当時から“片鱗”はあったのだった。

 MGCレース後、忙しいだろうと思ったが祝福のメールを送った。すると、テレビや取材で引っ張りだこの中、律義に返信が届いた。「これからも大八木監督を信じて、五輪に向けてがんばります」。駒大カラー、藤色の絆が紡ぐ物語を、これからも見守りたい。(太田 涼)

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