平成30年間を戦った高田尚平七段 令和の夢は「世界に将棋を」

8月9日、最後の対局を終えて感想戦に臨む高田尚平七段(提供・日本将棋連盟)
8月9日、最後の対局を終えて感想戦に臨む高田尚平七段(提供・日本将棋連盟)

 夏、一人の棋士が最後の対局を終えた。規定により引退が確定していた高田尚平七段(57)が8月9日、第32期竜王戦6組で杉本和陽四段(28)に敗れ、30年間の現役生活に終止符を打った。平成元(1989)年デビュー。一つの時代を勝負師として駆け抜けた男に新しい夢を聞いた。「世界に将棋を」―。

 引退局は棋士にとってセレモニーではない。高田は勝負師として最後の盤上に臨んだ。「勝ちたかったです。東京在住ですけど将棋会館の近くに前泊して気合を入れました。令和でも勝ちたかったなあ」。勝ちたい。将棋を始めた10歳の時に抱いた思いは、47年が経過しても同じ。思うように勝てない時があっても闘志だけは不変だった。

 若い頃、高貴なルックスで「ベルサイユ高田」「オスカル先生」と呼ばれた男のデビューは平成元年。羽生世代の勃興期と重なった。最初の2年度は計55勝と奮闘したが、タイトル戦などの大舞台の経験や順位戦昇級など目覚ましい活躍はできなかった。

 昨年、フリークラスからの順位戦復帰を果たせず引退が確定した。「悔いはない…と言えばウソになります。公式戦で(同い年の)谷川(浩司九段)さんや羽生(善治九段)さんと指せなかったのも心残りです」

 苦しみながらも、常に新しい将棋を模索した。対振り飛車における革新戦法「高田流左玉」は、今もアマチュアから絶大な支持を受けている。「前例を離れた局面で考えたい、とずっと思って来ました。激動の平成将棋界を生きることができましたし、名前の残るものがあることは本当にうれしいことです」

 引退しても、棋士は棋士として在り続ける。将棋という競技に特別な貢献ができる者として生きる。早くから海外普及に尽力してきた高田は引退局の数日後、スロバキアの首都ブラチスラバに飛んだ。2011年から訪問している欧州選手権に今年も出席した。「今、ベラルーシの選手がとても強くて。将棋道場で生計を立てている人もいるんです」。ニュージーランドでも将棋を広めた。国内では、まだ出身棋士が生まれていない沖縄県で子供たちへの指導を続けて来た。

 「今、プラスチック製の一文字駒を作ろうとしているんです。成り駒の漢字の判別が難しいことは、海外普及での大きな問題で『竜王』『竜馬』を1文字で『竜』『馬』とすれば抵抗感は小さくなります。入口で諦めた人をすくい上げられたら、10年後に世界の将棋人口は必ず変わると思ってるんです」

 穏やかな物腰、生真面目な人柄は多くの棋士たちから慕われている。「引退が決まって、先ちゃん(先崎学九段)に『慰労会をやらせてください。高田さんに派手なのは似合わないから、少人数でゆっくり』って言ってもらってありがたかった。自分のことを理解してくれているんだなあって」

 引退局の後、畠山成幸八段から突然、一本の酒が贈られた。添えられていたのは「30年間、ご苦労様でした」とのメッセージだった。「関西の方なので、一度お仕事でご一緒したくらいなんですけど。同じ平成元年デビューだからなのかな…。うれしかったです」

 令和元年、夏。平成という時代をくぐり抜けた心優しい棋士が戦いを終えた。(北野新太)

 ◆高田 尚平(たかだ・しょうへい)1962年6月21日、東京都生まれ。57歳。故・荒巻三之九段門下。10歳で将棋を始める。77年、棋士養成機関「奨励会」入会。89年、四段(棋士)昇段。2016年、七段。通算789戦360勝429敗、勝率・456。麻布中・高卒。父は読売文学賞受賞作家の故・高田宏さん。

 ◇棋士の引退 自ら現役引退を表明する場合を除くと、成績低迷により強制的に引退となる。名人を目指す棋戦「順位戦」の最下級「C級2組」で年度下位20%に入ると「降級点」を取る。降級点を3回取ると順位戦参加資格のない「フリークラス」に転落する。転落後10年以内、あるいは満60歳の年度までに規定の成績を挙げて順位戦に復帰しないと引退となる。満60歳を超えてC級2組から陥落した場合も引退。加藤一二三九段(79)のケースが該当する。また、自らフリークラス転出を宣言した場合は引退までの年数や年齢の規定が異なる。

 【棋譜を並べて味わいたい「高田流左玉」の一局・高田七段選】

 ◇第20期竜王戦ランキング戦4組(2007年1月29日、東京・将棋会館にて)

持ち時間各5時間

(数字は消費時間)

▲八段 真部一男

△六段 高田尚平

▲7六歩  △3四歩

▲7五歩  △5四歩4

▲6六歩2 △4二銀2

▲7八飛  △4四歩

▲4八玉  △4三銀

▲9六歩1 △2四歩8

▲3八玉1 △4五歩3

▲7四歩9 △同 歩

▲同 飛  △6二銀6

▲7六飛4 △7三歩

▲5八金左2△5三銀

▲9七角2 △3一角5

▲2八玉2 △3三桂2

▲7八銀8 △2二飛

▲7七銀3 △7二金4

▲8六銀5 △5二金3

▲7七桂2 △2五歩2

▲6五歩  △4一玉

▲7五銀  △4四銀31

▲3八銀  △3二玉2

▲6四歩3 △同 歩3

▲同 銀  △6三歩1

▲7五銀1 △2一飛

▲8六歩5 △1四歩

▲1六歩  △3五銀8

▲8五歩3 △2六歩3

▲同 歩  △同 銀

▲2七歩  △3五銀

▲8六角3 △9四歩8

▲8四歩11 △同 歩9

▲同 銀1 △8六角8

▲同 飛1 △4四角

▲7八歩3 △2六歩15

▲同 歩1 △2七歩

▲同 銀  △2六銀

▲同 銀1 △2七歩

▲同 玉17 △2六角

▲2四歩5 △同 飛2

▲3八玉3 △2七歩15

▲7五銀17 △2八歩成8

▲4八玉1 △7一金

▲8二歩5 △2九と13

▲5九玉4 △3七角成13

▲6八玉1 △8五歩8

▲同 桂2 △7四歩13

▲8一歩成 △7五歩2

▲7一と  △7四桂

▲8九飛  △2八飛成

▲3八歩5 △5五馬2

▲7三角3 △6四歩1

▲5六銀2 △8八銀1

▲5五銀  △8九銀成

▲6四角成 △5五歩

▲7四馬  △7九銀7

▲6七玉1 △2六竜2

▲―――1

まで110手で高田尚平六段の勝ち。開始時刻は午前10時。終局時刻は午後5時42分。消費時間は▲2時間21分、△3時間34分。

 後手の高田が構えた△4五歩~△4四角~△3二玉~△2一飛の配置が基本型。相手の振り飛車に対し、4筋の位を取り、設置した角の左右へのにらみを生かしながら先手の飛車を完封する。「玉飛接近すべからず」の格言を超越した思想は現在のトレンドにも通じる。先後を問わない自由度もある。

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