川内優輝の「妻」になるということ 侑子さんの涙の理由…涙にもいろいろな種類がある

ニューカレドニアマラソンで優勝した川内優輝と2位の妻・侑子さん
ニューカレドニアマラソンで優勝した川内優輝と2位の妻・侑子さん

 勝ってうれしい。負けて悔しい。感動もあれば、転んで痛いこともある。それでも、誰かのために涙を流せる人は美しいと思う。

 天国に一番近い島、ニューカレドニアで1人の涙を見た。「ごめんなさい…」。川内優輝(32)=あいおいニッセイ同和損保=と妻・侑子さん(34)は25日、同地でモービル国際マラソンに参戦。川内は2連覇したが、侑子さん(34)は2位でゴールすると泣き崩れた。「なにもそんなに泣かなくていいよ。よくがんばったんだから」。肩を抱く夫の言葉にも、嗚咽は止まらなかった。

 夫婦にとっては特別な大会だった。11年前、2008年。学生だった2人はそれぞれ国内レースで好成績を収め、日本学生陸上競技連合からの派遣選手としてこの大会で出会った。「ハーフマラソンに出場して、あのときは(ユニホームにつける)ゼッケンが溶けるほどの大雨でしたね」と川内は振り返る。その雨中決戦を男子は川内優輝が、女子は水口侑子が制してアベックV。このレースがなかったら、2人はどうなっていたのだろうか―。

 モービルマラソン3日前。「今日はポイント練習(走力を上げる練習)なので、取材と写真撮影はなしにしてもらえますか?」。川内の提案を了承した私は「そのかわり…タイムを読ませてもらってもいいですか」とお願いした。昨年帯同した際には一緒に走らせていただいた私だが、この日は順大元駅伝主務を務めた血が騒いだ。「いいですよ」と快諾してくれた川内は、こう続けた。「もしかしたら、僕より妻の方がタイムを読んで欲しいかもしれません」。

 どういうことだろう、と疑問に思いながら競技場に向かうと謎は解けた。侑子さんもポイント練習、しかも強度の高いメニューを設定していたのだった。軽めの練習なら自分の腕時計でラップタイムを確認しながら走れる。負荷が高くなるきつい練習ほどタイムを読み上げてもらう方が“ロス”が少なく、走ることだけに集中できる。

 しかし「タイムを読み上げていただけるような走りではないので…」とやんわり断られてしまった。右足首のテーピングに加え、でん部の痛みもあったそうだが、タイムを見れば十分すぎるスピード。集中力の高さから、気合いの入りようがうかがえた。このときから、私の中での侑子さんの印象は「クールビューティー」から「負けず嫌い」に変わっていった。

 レースは序盤こそ飛び出したものの、集団に吸収されるとペースアップに対応しきれなかった。それでも、最後まで振り絞る走りは、鬼気迫る思いが伝わってきた。思い出のレースでも、ガッツポーズすらせずに飛び込んだゴール。「今日は1位以外は何の意味もないんです。もう1回、2人で勝ちたかった…」。元実業団ランナーとしての意地ではない。プロランナー・川内優輝の妻として、11年前の再現を果たすことを1つの“けじめ”としていたのかもしれない。

 レース後の夜のパーティーでも表情がさえない様子を見て、こちらまでやるせない気持ちに…と思っていると、困った表情の川内から声をかけられた。「僕がレース後の自分のご褒美用に買っていたティラミス、1人で全部食べたら怒られちゃって…。『私も一口食べたかった』って」。仲のいい2人がほほ笑ましかった。侑子さん、思わず笑ってしまってすみませんでした。(太田 涼)

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