武藤敬司とファンが一体化した幸せな空間、「プロレスいいなぁ。やってて元気になるよ」…8・30「プロレスリングマスターズ」

マズターズのメイン終了後に集結したレジェンドたち。エル・サムライ、馳浩、獣神サンダー・ライガー(前列左から)、西村修、武藤敬司、永田裕志、中西学(後列左から。カメラ・生澤 英里香)
マズターズのメイン終了後に集結したレジェンドたち。エル・サムライ、馳浩、獣神サンダー・ライガー(前列左から)、西村修、武藤敬司、永田裕志、中西学(後列左から。カメラ・生澤 英里香)

「PRO―WRESTLING MASTERS」(8月30日、後楽園ホール)観衆1760人=超満員札止め)

 プロレスラー武藤敬司(56)がプロデュースする「PRO―WRESTLING MASTERS」が30日、後楽園ホールで行われた。

 レジェンドレスラーが集結する同大会。6回目となった今回は、カードを発表する前にチケットが立ち見も含めて完売する異常人気となった。試合当日は、開場時間の3時間前には、ホールに続く階段に長蛇の列ができ、第1試合の佐野巧真(54)と高岩竜一(47)のスペシャルシングルマッチから客席が完全にできあがった状態。90年代の新日本プロレスが放ったあの頃の期待感しかなかった沸騰した会場がそこにあった。

 私は、西側バルコニー席に設置された記者席から取材した。第1試合からメインまでの全5試合。上から見下ろす形でリングをじっと見つめていたが、ふと客席に目を移すと、あることに気づいた。それは、観客がすべて笑顔なのだ。何とも幸せそうな表情を浮かべていたのだ。マスターズの観客は、大半が40代、50代の働き盛りの男性が占めているという。あの20~30年前、自分たちが10代、20代の頃に輝いていたプロレスラーと今の空間を共有することで、「あの頃」の自分に一瞬でも戻る「幸せ」をファンも味わっているようだった。

  プロデューサーの武藤は、昨年3月の両膝の人工関節設置手術を経て今年6月26日の長州力引退興行で復帰し、マスターズは昨年2月以来、1年半ぶりの帰還となった。試合は、メインで馳浩(58)、マスターズ最後の参戦となる獣神サンダー・ライガーと豪華トリオを結成し、マスターズ初参戦となる永田裕志(51)、中西学(52)、西村修(47)の第三世代と対戦。最後はシャイニングウィザードで西村を仕留め復活勝利を飾った。

 メインを見て感じたことは、ライガー、馳、そして武藤。3人がプロレスが好きで好きでたまらないという喜びを発散していることだった。そのオーラがファンの笑顔を呼び、リングと客席が完全に一体化した空間を作り出していた。

 レスラーは、ファンの思いを背中で感じてリングで戦うという。しかし、この日の武藤、ライガー、馳は、「背中で感じる」という次元を超えて、ファンの思いが体に乗り移っているかのような戦いだった。

 バックステージで発した武藤の第一声は、「プロレスいいなぁ。やってて元気になるよ」だった。20世紀最後の2000年大晦日に「プロレスLOVE」を掲げて、栄光も挫折もリングで味わいながら、ひたすらに「プロレスが好き」という支柱だけを守り、ぶれずに走り続けた。56歳になり両膝が人工関節になろうと武藤が「LOVE」を貫いたからこそ、マスターズという幸せな空間が今、現実になった。

 そして、ファンは心からその幸福を味わっている。「プロレスいいなぁ」の武藤の言葉は、会場にいたファンも同じ思いだったのではないか。あの後楽園ホールを包んだ温かさは、ファンから武藤への「ありがとう」というメッセージだったと思う。「あの頃」の幻想を裏切らずファンの思いに応えようとレスラーたちは、年を重ねてもリングに上がる以上、肉体を鍛える。衆院議員で58歳の馳浩の筋肉で包まれた肉体は、驚きを超えた衝撃すら感じた。

 試合後、両膝への不安を聞かれた武藤はこう言った。

 「不安はすごかったけど。持ちこたえたね、今日は。ただ、やっぱりまだ不本意というかさ、理想としているところではないですよ。逆に言ったら、それだけ発展するところがあるというかさ。次の時までは…ここで連戦なんですよ。この連戦を乗り切ったらすごいオレにとって自信になるというか、頑張りますよ」

 不安があるから前進できる。現状に満足しないからこそ進歩できる…56歳でも進化を見据える生き方は、定年間際の同年齢の人には、エールとなるだろう。

 そして、続けた。

 「年取って…年取ってって、自分で言いたくないけどキャリア積んで頑張ると、いろんなものを感動することを全部取り入れて練習してますよ。それは些細なことで後輩が頑張っている姿、家族が頑張っている姿とか…いろんなものを吸収して感動して自分のエネルギーに変えて頑張っています」

 武藤は、ファンの笑顔を吸収して、さらにエネルギーに変えた。そして、ファンも武藤からエネルギーを受け取った。武藤は、それを「ファミリーの力」と表現した。ファンとレスラーが一体となって人生を前進するリング。プロレスファンだけが味わえる特権的感動。それが「プロレスリング マスターズ」の真実だ。

(記者コラム・福留 崇広)

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

スポーツ

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請