ダルビッシュも認めるソーシャルメディア「ツイッター」発の野球評論家「お股ニキ」(@omatacom)が、プロ野球終盤戦を迎え、スポーツ報知に寄稿した。著書「セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論」(光文社、994円)は多数のプロ野球選手が読むなど注目度は上昇を続けている。著者の野球経験は「中学野球部を途中で辞めたレベル」ながら、的確な指摘でファンが多い。今回はセ・リーグの終盤戦、そしてクライマックス・シリーズ(CS)へ向けて、投手陣が安定するDeNAを取り上げる。
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DeNAが今年も終盤戦、そしてCSの鍵を握りそうだ。4月には10連敗を喫し一時は最大で11あった借金を完済し、10.5ゲーム差あった首位巨人にも一時は1ゲーム差に肉薄した。その背景にはラミレス監督が「采配とは80%がデータ、20%はひらめき、フィーリング」と語るように、IT企業らしいプロフェッショナルのデータと感性の融合がある。
近年のDeNAは様々な局面で積極的なデータの活用が目立つ。守備では大胆なシフトを敷いてアウトを増やしているし、打撃ではメジャーのデータ野球の先頭を走るヒューストン・アストロズも使用する「ブラストモーション」という機器をバットのグリップエンドに取り付け、キャンプから選手のスイングの分析や指導、練習の管理に役立てていることなどが報じられている。
そして何よりも心強いのが投手陣だ。ストレートの平均球速145.7キロは12球団トップで、狭くてホームランが出やすい本拠地横浜スタジアムで、被本塁打をリーグ最少に減らして三振を増加させたのは注目に値する。
さらに先発ローテーション投手6人のうち、私が絶賛するエースの今永、濱口や新人の大貫、上茶谷、そして若手の平良の5人は、拙著お股本こと「セイバーメトリクスの落とし穴」を読んでくれるなど、選手の向上心や探究心も高い。選手のモチベーションや意識の高さに加えて、IT新興企業らしい積極的で柔軟な姿勢が選手にも浸透している。
積極的に取り組める背景として、広島以外の11球団が導入する高性能弾道測定器「トラックマン」のデータをフル活用して投球データをアナリストが解析し、選手にフィードバックして技術の向上につなげたり、コンディションの管理にも役立てていることがある。
データを活用する利点はいくつもある。ボールの回転軸がずれて変化や軌道に狂いが生じていれば、微調整できる。また回転数からは、フィジカルやコンディションの確認やその回復、フォームの修正を促せる。さらに自分では気づかなかった球種のデータが良いことがわかれば、磨くことで「新球」を積極活用したり、配球へ活用できる。
しかし、世の中に「聖杯」はない。人々はともすれば、データが全てを解決し勝利に導いてくれる、あるいはAIが全て正しい判断をしてくれ人間はそれに従えばよいかのような勘違いを犯す。様々なデータを導入しそれに従った綿密なプレーを計画し実行し進化させることは不可欠ではあるもの、勝負事には相手がありまたその相手も一流のプロであり一筋縄ではいかないものだ。
そこで重要になるのが、コーチ陣だ。チームのOBでありレジェンドでもある三浦大輔1軍投手コーチは自身の様々な技術と経験とデータを照らし合わせて指導して、リーグ最高レベルのローテーションを構築している。2軍では大家友和コーチがメジャーリーグや独立リーグも含めたプロ生活で得た様々な技術や経験、投球術や様々な球種、投手としての心得を若手投手陣に指導し、底上げに大きく貢献していると思う。19歳の阪口や育成から支配下登録された中川虎はその“一番弟子”であると言える。2軍から多くの投手が供給されるのは、大家コーチの貢献が計り知れないだろう。そして、リリーフとして豊富な経験を持つ木塚敦志コーチもブルペンの管理や継投を支えている。こうした、三者三様の経験や技術、ノウハウを持つコーチがそれぞれの特徴を活かしながら投手陣を支えているのではないか。
いくらデータや配球を分析して最高のボールを投げても、打者に最高のスイングをされたら負けである。打者は空振りや詰まることを恐れているのだから、投手はその心理を利用する必要がある。データやメカニクスを当然理解した上で、最後は相手打者を見て抑えることが重要であり、そこには相手を抑えきるという強い闘争心や気持ちが不可欠だ。真の「心・技・体」の充実、冷静な頭と熱い心の両立が求められるのだろう。一時的にはデータを活用して、ともすれば頭でっかちともなりがちな選手が、本当の意味で腹の底からこれを理解するのは難しいが、これに大家コーチらは取り組んでいるといえる。
また守備シフトを敷くにしても配球との連携は不可欠。選手はどのように動くべきかも頭に叩き込む必要がある。打撃でも相手投手のボールの軌道分析をしても実際にそれを感覚に落とし込む必要がある。
主力の宮崎が右手有鉤骨の骨折で今季絶望となると、指揮官は主力の筒香を三塁手に戻した。三塁手の運動量は実は少なく、筒香が元々内野出身であるということからの決断だっただろうが、ここにもデータと感性による思い切った決断がある。
東京ドームでの直接対決は、巨人に優勝マジックは点灯したが、DeNAが2勝1敗で勝ち越した。ラミレス監督が語るデータ80%、感性20%の融合を実践するDeNA。その歩みには引き続き注目だ。シーズン終盤に向けた順位争い、そしてCSの激戦が今から待ちきれない。(野球分析家・お股ニキ)