イニエスタの恩師、アルベルト・ベナイジェス氏「重要なのは勝敗よりも勝つための思考力」

大きな体を揺らし、笑顔で若手選手の育成について語ったアルベルト・ベナイジェス氏
大きな体を揺らし、笑顔で若手選手の育成について語ったアルベルト・ベナイジェス氏

 スペインの名門クラブ・バルセロナを目標とするJ1神戸は昨年、世界最高峰のパスサッカーを実現させるため、小中高生の選手を育成するアカデミーの総監督(現アドバイザー)に、アルベルト・ベナイジェス氏(64)を招へいした。バルセロナのユース監督などを歴任し、元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(35)ら多くのスター選手を指導してきた名将。バルサの育成哲学を神戸に注入しようと、日々、奮闘している。(取材、構成・種村 亮)

 Jリーグに衝撃を与えた昨夏のイニエスタの移籍からほどなく、アルベルト氏も神戸に入団した。メディカルスタッフのエミリオ・リカル氏、アカデミースタッフのマルコス・ビベス氏=現トップチームアシスタントコーチ=と、バルセロナから3人で同時加入。きっかけはイニエスタからのラブコールだった。

 「アンドレス(イニエスタ)自身、アカデミーにすごく興味を持っていたんです。今回、イニエスタが日本に来たのも1つのプロジェクトですが、私とマルコスはアカデミーを良くするために来た。管轄としては、12歳以下をマルコス、それ以上を私が担当しています」

 神戸のアカデミーはU―18、U―15、伊丹U―15、U―12の4カテゴリー。アルベルト氏はまず、普段の練習をチェックすることから取り組んだ。

 「まず最初に、日本のことを知らないといけなかった。だからしっかり観察して、どのようなトレーニングをしているのかを見てきました。今年からはグラウンドで、現場のコーチングスタッフに練習のやり方、メソッド(方法)などを具体的にコメントしています」

 バルセロナから導入したメソッドの1つに「インテグラルトレーニング」と呼ばれるものがある。技術、戦術、判断力、フィジカルなどサッカーに必要な要素が統合されたトレーニングで、対面パスなど対戦相手が存在しない単純な反復練習だけでなく、より実戦に近い状況をメニューに取り入れ、チームの目標・テーマに必要な能力を伸ばしていこうとする手法だ。

 「例えばフィジカルトレーニングにおいても、ヨーロッパではサッカーを通してフィジカルを伸ばしていきます。しかし日本の場合はまだ、フィジカルはフィジカル、と分けて考えているところがある」

 サッカーへの考え方に関しては、ヨーロッパが優れているとするアルベルト氏。一方で、日本の方が優れていると感じた点もある。

 「リスペクトすることです。対戦相手に対してもそうですし、指導者にも観客に対しても同じ気持ちを持ってプレーしている。練習に対しての姿勢も素晴らしい。スペインが日本のようなリスペクトの部分を学び、日本がスペインの戦術、メソッドの部分を学んでいけば、完璧なサッカーになるのかなと考えています」

 世界的なトッププレーヤーとなったイニエスタは、12歳でバルセロナの下部組織に入団した。当初は決して、身体能力に秀でた少年ではなかったという。

 「初めて見たのは、彼がまだアルバセテというチームにいた時です。『なんでこんなに小さくて細くて上手い選手がいるんだ』と。フィジカルは優れていなかったが、すごく賢かった。サッカーはフィジカルじゃないということを、物語るような選手でした」

 171センチ、68キロのイニエスタは日本人選手に交じっても小柄な部類に入る。だからこそアルベルト氏は、日本の育成年代においてもインテリジェンス、つまり試合のさまざまな局面において先の展開を予測し、素早く、正確な判断を下せる能力を身に付けることが重要だと話す。

 「日本に限らず、サッカーをやる上では絶対に必要なことです。15年ほど前に日本で試合をしたことがあるが(対戦した日本のチームは)走って走って走って、みたいなサッカーでした。当時と比べると(今の少年には)すごくインテリジェンスを感じられるし、指導者もその部分を伸ばしていこうとするスタイルにはなってきています」

 インテリジェンスを磨くには、どのようなトレーニングが必要なのか。

 「サッカーは状況判断が必要なスポーツ。良い判断ができているのかいないのか、指導者が具体的に示してあげることが重要です。『この時は良いポジションだった、悪いポジションだった』と修正してあげることが、インテリジェンスの向上につながってくるのです」

 選手としては大成せず、18歳で指導者への道を志したアルベルト氏は、地元クラブでの取り組みが評価され、1991年にバルセロナに育成スタッフとして招かれた。「指導者は常に学び続けないといけない」と強調する。少年期の選手を指導する上で大切にしているのは、勝敗よりも、自ら考えるよう促すことだ。

 「16歳くらいまでは、勝つことよりも育成を重要視しています。勝利を目指さなくてもいいということではないが『勝つためにはどうしなければいけないか』を考えさせます。これは長い間、バルセロナで行われてきたアイデア。今もそう指導していると思います」

 トップチームは“バルサ化”を目指し、指揮官やスター選手の補強を繰り返すものの、必ずしも結果にはつながっていない。理想の実現には長い年月がかかることは誰もが感じているが、アルベルト氏は決して不可能ではないと力を込めた。

 「バルセロナだって長年、育成というものを考えて、今の形があるのです。ヴィッセルもすぐに結果が出るようなものとは思いません。長い期間をかけて、修正を続けていくことが重要です。クラブが望む限りは、今のプロジェクトを続けていきたい。このメソッドに継続して取り組んでいけば、イニエスタのような選手も生まれてくると思っています」

 ◆アルベルト・ベナイジェス 1955年3月2日生まれ。64歳。フランコ独裁体制下のスペインから亡命した両親の元、メキシコで生まれる。15年間を過ごした後、スペインに帰国。選手としては3部リーグでプレーした。現役引退後は小学校の体育教師とサッカークラブの指導者を両立し、91年に育成スタッフとしてバルセロナに加入。12年までユース監督などを務め、以降はUAE、メキシコ、ドミニカ共和国のクラブで育成部門の要職を歴任した。好きな日本食はすし。

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