ついにG1優勝の飯伏幸太…大人になった「精神年齢14歳のプロレスラー」の輝く未来

12日のG1クライマックスで初優勝、誇らしげにトロフィーを掲げる飯伏幸太(カメラ・橘田あかり)
12日のG1クライマックスで初優勝、誇らしげにトロフィーを掲げる飯伏幸太(カメラ・橘田あかり)
G1優勝一夜明け会見で東京ドーム大会でのIWGPヘビー級、インターコンチネンタル両王座への2日連続挑戦を表明した飯伏幸太
G1優勝一夜明け会見で東京ドーム大会でのIWGPヘビー級、インターコンチネンタル両王座への2日連続挑戦を表明した飯伏幸太

 そのレスラーは滝のように滴り落ちる汗をぬぐおうともせず、「乾杯しましょうよ!」と瓶ビールを差し出してくれた。

 12日、満員札止め1万2014人の大観衆が埋め尽くした東京・日本武道館で新日本プロレス真夏のシングル総当たり戦「G1クライマックス29」決勝が行われた。

 日本プロレス界最高峰の舞台で頂点に立ったのは、飯伏幸太(37)。「小学校を卒業する頃には今、やっている技が全部できた」という類いまれな身体能力に加え、キックボクシングの大会での優勝経験を持つ打撃力、さらにマット界一、二を争うルックスで20代前半から「ゴールデン☆スター」として期待を集めて続けてきた天才児がデビュー15年目にして、ついに初優勝を飾った。

 11歳年下の新星・ジェイ・ホワイトとの決勝はシビアな戦いとなった。7月6日のG1米開幕戦で靱帯損傷の重症を負った左足首を徹底的に痛めつけられ、金的攻撃、さらにイス攻撃まで食らった。意識も飛ぶ寸前の31分01秒、真夏の激闘を制した飯伏は5分以上かけて約30人の記者、カメラマンが待ち受けたバックステージに這いながら登場。「分かりますか? このうれしさ。最高に、最高に、最高に。みんなで乾杯しましょう!」と、最前列でしゃがんでいた私にビールを手渡ししてくれた。

 固いビールの王冠を指先でキュッと開けると、おいしそうに一気飲み。そのまま引き上げてしまおうとしたので、代表取材のテレビ朝日アナウンサーを差し置いて問いかけてしまった。

 「(準優勝に終わった)去年の飯伏さんと今年の飯伏さんは、どこが違ったんですか?」―。

 そう、ちょうど1年前の決勝で飯伏は新日のエース・棚橋弘至(42)の魂のハイフライフロー2連発の前に敗れ去っていた。その時の床にへたり込んだままピクリともしない落ち込みぶり、さらに10月のビッグマッチで敗れた際にも真夜中に「辞めないといけないということになります」と唐突に引退を匂わせるツイート、大きな騒ぎとなった精神面のもろさも知っているだけに、思わず口をついて出てしまった質問だった。

 こちらをじっと見つめて、そして確かにほほ笑んで見せた飯伏は、こう言った。「全てが違います。精神的な面も全部違う」―。

 1対1で初めて話したのは東京・木場のスタジオだった。昨年2月、「スポーツ報知」の女性向けページ「L」欄に登場してもらうため、出演するミュージックビデオの撮影先に押しかけ、70分間に渡って話を聞いた。

 「小学校を卒業する頃には今、やっている技が全部できました。フェニックス・スプラッシュも小6で形としてはできた。やり始めてもう25年くらいですか。今や絶対、失敗しないですね」と「天才」と呼ばれる身体能力を誇ったかと思えば、インディー団体・DDTでデビューしたことについて、「体重が軽いから新日のプロレスラーにはなれないと思い、自分の中で挑戦もせずに挫折してます。挑戦するのを諦めたというより資格がないと思ってしまった」と、請われて新日に再入団した現在から振り返ると、興味深い発言もしていた。

 そして、その時、この男の最大の魅力が「引退におわせツイート」に代表される自由奔放さ、危うさにあることもまた気づかされた。昨年1月放送のフジテレビ系「アウトデラックス」には「精神年齢14歳のプロレスラー」として出演。MCのマツコ・デラックスとナインティナイン・矢部浩之の2人を様々なエピソードで驚がくさせた。登場してソファに座るやいなや挨拶もそこそこにテーブルのお菓子に手を出し、マツコをあきれさせる一幕もあった。

 DDT時代には路上プロレスの試合で、ショッピングモールのゴミ箱を破壊。会場に展示していた新車の上から無許可でケブラータを敢行し、スポンサーを激怒させた。「イブシ」で検索すれば、対戦相手の顔をトイレの便器に突っ込んだり、全身に花火を浴びる「アブナイ」映像までネット上にはあふれている。

 さらにゲームのやり過ぎで腱鞘炎になり試合を欠場。外食では決まってチーズ系を頼む、満員電車が苦手で途中下車して試合に遅刻するなど逸話はとめどない。

 13年から新日とダブル所属となったが、16年に両団体を退団し、飯伏プロレス研究所を設立。フリーランスとして活動したが、“迷走”と呼ばれた期間が続き、マスクをかぶって試合。体の特徴から正体がバレバレという一幕も、私はくっきりと覚えている。

 そんな悩める「ゴールデン☆スター」が、ついに一皮むけた。4月には新日への再入団を発表。「フル参戦を希望します。自分の最後の場所として、ここを選びました。死ぬまで。終わるまで」と生涯契約を結んだことを明らかにした。

 1年前のインタビュー。飯伏は米トップ団体・WWEからの誘いについて聞いた際、「普通に契約をして欲しいと言われたけど、断りました。(すでに超人気の)中邑真輔さんがいるから、もう自分はいいやという感じ」と明言。今年、DDT時代からの盟友で屈指の名タッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」を組んできたケニー・オメガ(35)が新日を退団して副社長としてAEW(オール・エリート・レスリング)という新団体を設立。飯伏にも当然、誘いが来たが、億単位と言われる契約金での入団オファーもまた断っている。

 すべては「プロレス界全体のプロモーションをしていきたい。プロレス界の歴史を変えていきたいと思っています」という思いから。芸能活動について大手芸能プロダクション・オスカープロモーションと契約しているのも、バラエティー番組で無防備な素顔をさらすのも、路上プロレスで全身に花火を浴びて話題となるのも、すべては「僕を入り口にしてプロレスに触れてくれればいい」という思いから。

 だからこそ、G1優勝直後のリング上でも「僕に言う権利が回ってきたんで言わせてもらいます。こうやって、みんなで、新日本プロレスを、プロレス界を盛り上げて行きま~す! みんな、付いて来て下さい」と絶叫したのだ。

 飯伏が「自分にとっての2人の神」と言う棚橋は「飯伏がいれば、これからのプロレス界はずっと安泰」と評価し、中邑は「飯伏は今までいなかった、ちょっと特別な存在」とつぶやいた。

 そんな「神」2人の期待に今回の優勝で十分応えたのではないか―。そう思ったから、激闘から一夜明けた13日、都内の新日本社で行われた会見でストレートに聞いてみた。

 「過去の棚橋さんと中邑さんの自分への期待の言葉を今、どう聞くか? 昨日の優勝で期待に応えたと思わないか?」―。

 今度も私の顔を見つめて、ニコリと笑った飯伏は「(自分に大きく)影響している部分なので、その部分は受け継いだまま、自分でアレンジして変えていきたいと思います」と言うと、「(期待への答えは)まだ少しです。まだまだです。でも、期待に応えるというより自分なりのやり方で行きたいと思います」と続けた。

 そう、「ゴールデン☆スター」が私たちの期待に応えてくれるのは「まだまだ」これからだ。一夜明け会見で、来年1月4日の東京ドーム大会でのIWGPヘビー級王座挑戦権利証を手にした際も「もちろん、(挑戦権を)行使します」と言い切った後、こう続けた。

 「一つ提案があるんですけど、僕はまだインターコンチのベルトにも愛着があります。4日にIWGPのベルトを獲った上で5日にインターコンチのベルトに挑戦するというのはどうですか?」と東京ドームという大舞台での2日連続の王座挑戦を提案。いまだに二つのベルトを同時に巻いたレスラーはゼロのIWGPヘビー級とIWGPインターコンチネンタルの王座に2日連続で挑戦、同時に獲得してしまおうと言うのが、その狙いだ。

 あまりに驚いたから、即座に聞いてしまった。「2日続けて最高峰の戦いに臨むのは、体力的、精神的にさすがにキツ過ぎるのでは?」―

 この問いかけに「現実的ではないと思いますが、非現実的ではないと思います」きっぱりと答えてくれた飯伏は「今まで二つ(のベルトを)持っている人すらいなかったのに、(2日連続で)獲れたらすごいことですよね」と続けると、心底、愉快そうにほほ笑んだ。

 ビッグマウスこそ結果を出したことの証し。レスラー生活15年。天賦の才能のままに突っ走った長い迷走期間を抜け、ついに幕を開けた飯伏の時代。新日1人勝ちとも言われる令和のプロレス界を引っ張っていくのは、大人になった「ゴールデン☆スター」しかいない。心の底からそう思う。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆飯伏幸太(いぶし・こうた) 1982年5月21日、鹿児島・姶良(あいら)市生まれ。37歳。キックボクシングや新空手を修得し2004年7月、DDT東京・後楽園ホール大会でのKUDO戦でレスラーデビュー。09年からは新日本プロレスに参戦。ケニー・オメガとのタッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」で活躍。11年にはIWGPジュニアヘビー級王座を奪取。13年、DDTと新日のダブル所属を発表。15年にはAJスタイルズの持つIWGPヘビー級王座に挑戦するなどエース格に成長も16年2月、両団体からの退団を発表。個人事務所・飯伏プロレス研究所を設立。フリーランス選手として各団体のリングに立つ一方、路上プロレスなどの活動も。今年4月、新日への再入団を正式表明。同月の米ニューヨーク・マディソンスクエアガーデン大会で内藤哲也を下し、初めてIWGPインターコンチネンタル王座に就くも6月、内藤に敗れ陥落。愛称は「ゴールデン☆スター」。181センチ、92キロ。

12日のG1クライマックスで初優勝、誇らしげにトロフィーを掲げる飯伏幸太(カメラ・橘田あかり)
G1優勝一夜明け会見で東京ドーム大会でのIWGPヘビー級、インターコンチネンタル両王座への2日連続挑戦を表明した飯伏幸太
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