スポーツクライミング藤井快、東京五輪「最後のチャンス」若手に勝る経験力で勝負

ジムの壁に挑む藤 井。力を入れた瞬間、左腕に筋肉が浮き出る
ジムの壁に挑む藤 井。力を入れた瞬間、左腕に筋肉が浮き出る
スポーツクライミングの五輪代表を目指す藤井
スポーツクライミングの五輪代表を目指す藤井

 2020年東京五輪まで1年を切り、「しずおか報知」は新種目のスポーツクライミングで出場を目指す浜松日体出身の藤井快(こころ、26)=TEAM au=にインタビュー。出場権をかけた8月の世界選手権(11~21日、東京・八王子)を前に、地元・静岡に「いい報告ができるように」という意気込みを聞いた。(小松 雄大)

 日本のクライミング第一人者が「壁」と出会ったのは、浜松日体中に入学した際、たまたま山岳部を見学したのがきっかけだった。

 「登って楽しかった。最初の動機は純粋に楽しいだけ。木登りはやったことはあったけど、ジャングルジムや登り棒も嫌いじゃなかったという程度で、始めから上手とか才能があった訳じゃない。今になって、他のスポーツをやっていたら面白かったかなと思ったりするけど、結局続けたのはクライミングだった」

 以来14年、登り続けてきた。浜松日体高に上がると、山岳部の高校生は本格的な登山を行っていた。ほとんどの部員が登山を選ぶなか、当時の顧問だった米山英也さんに「クライミングだけやっていいよ」と背中を押された。車で30分、浜松のジムに送迎してもらいながら他校や県外の選手、大人に混じって腕を磨いた。

 「いろんな人がいて、一緒に練習して色々教わりながら、皆で切磋琢磨(せっさたくま)という言葉が合うのかな。ああ面白いなって。高校3年生の時にワールドユースに出た。大会に勝つために練習した。僕らの学年は強くてなかなか代表に入れなかったので、初めて代表のユニホームを着たのは印象に残っています」

 当時の仲間のうち1人は大学の研究者となり、スイスでヒッグス粒子の研究に携わっていたという。気付けば26歳。男子の一線で活躍する選手は、楢崎智亜(23)、原田海(20)ら20歳前後が中心となった。

 「10代から大学生までの子が、今は強いですね。(五輪に出る)最後のチャンスが東京なのかなと思っているので、そういう意味では若い選手は脅威ですけど。逆に言えば、僕らは今が一番脂が乗っているかなと。クライミングは実力はもちろんですけど、一瞬一瞬の判断は経験がないとできなかったりする。ボルダリングに関しては極端な話、8割ぐらい判断力が大事かな。そこはやっぱり、若さよりも回数や経験なのかな」

 五輪は「リード」「ボルダリング」「スピード」の3種目の複合で行われる(注1)。3種目はそれぞれに難しさがあるという。

 「最近はリードが結構、楽しい。ボルダリングはかなり難しい競技なので。運的要素もあったりする。ルートが毎回変わるんですけど、得意不得意がある。飛んだりすることも増えてたり。空間能力とか空中感覚とか身体操作能力が問われる。僕は元々そういうことをやってきた訳じゃないので、そんなに得意じゃないですね。予選6位通過した選手が決勝で逆転することも多い。1位の人がそのまま1位というのは難しい。リードの方が実力通りの結果になることが多い」

 五輪種目に決まって、始めたのがスピードだ。世界記録は5秒48。海外トップ選手は6秒を楽々切るが、藤井の自己最速は6秒47。1秒近い差がある。

 「動きが決まっていて、陸上の短距離のイメージに近い。日本人だと楢崎選手とか緒方選手(良行、21)とかが速くて6秒20、30。僕もシミュレーションは6秒20が出るくらいにはなってるけど、やはりどこかしらのミスをして6秒中盤くらい。やっぱり3種目で、スピードはちょっとジャンルが違う感じはする」

 身体能力の占める割合が大きいスピード。トップに肩を並べるには、フィジカルの大幅な強化が必要となる。逆にボルダリングやリードは、身体能力では克服できない部分が大きい。五輪は3種目の複合で行われるだけに、スピードの差を悲観する必要はない。

 「ボルダリング、リードは手の持ちも大事。ホールド(突起物)がスピードは世界規格で持ちにくくはない。ボルダリングやリードの場合は持てなかったりすることもあるので、簡単には登らせてくれない。重力にどれだけ逆らえるかという所もある。スピードから来た選手はそこが難しいと思います」

  米山先生はくも膜下出血で倒れ2年近く闘病生活を送り、16年4月に52歳で亡くなった。高校で日本代表に入った時は「やっと世界に出る選手ができた」と喜んでいた恩師を度々見舞い、亡くなられた直後のボルダリングW杯(インド)で初優勝。五輪の舞台で戦う姿は見せられなかったが、帰省した際はお墓参りをする。

 「世界選手権前も1回帰ろうかと思う。米山先生のお墓参りも兼ねて。初めて優勝した時のインドのW杯は体が勝手に動くというか、通常だったら出せないような力が出てたような気がします。静岡で言うと(ジムの近くにあった)『さわやか』はずっと食べてましたね。皆で練習終わってから。もう1年は食べてない。今は3時間ぐらい待つとか。時間帯気をつけて行かないと」

 五輪へあと1年。8月の世界選手権から勝負が始まる(注2)。昨年は4位・原崎、5位・楢崎智に次いで日本人3番目の6位。五輪出場を決めるために準備を進めている。

 「世界選手権7位以内の日本最上位で決まりなんで、まずは予選突破して、決勝で。最大の目標ですね。状態的には理想を言えばもっと上がってきてほしいですけど、正直こればっかりは欲張ると良くないので。順調に上がってはいる。やっぱり地元に同級生とか住んでいるので、静岡の方にもいい報告ができればと思います」

 (注1)東京五輪のスポーツクライミングはスピード、ボルダリング、リードの3種目の複合で実施される。スピードはホールド(突起物)の位置が統一基準で定められ、高さ15メートルの壁を登ってタイムを争う。ボルダリングは複数の課題(コース)を完登できた数で争う。リードはロープを使用し、12メートル以上の壁を競技時間内により高く登る。
 (注2)スポーツクライミングの東京五輪には各国最大で男女2人ずつ計4人が出場できる。代表選考は世界選手権(8月11~21日、東京・八王子)で7位以内の日本人最上位者が内定。その後、11月の五輪予選(フランス)、20年4月のアジア選手権盛岡大会で選考する。有資格者が2人に満たない、または3人以上の場合は同5月の複合ジャパンカップで選考する。

 ◆五輪チケット当選恩師の妻応援行く 

 米山先生の妻で県内の中学校教諭・敦子さん(52)も藤井の活躍を楽しみにしている。東京五輪クライミングのチケットが当たり「応援に行きます」という。米山先生は経験無く山岳部の指導者となったが、藤井の指導と並行して「底辺を広げたい」と小学生クライミング教室や大会を開くなど熱心に活動。五輪に挑む、亡くなった夫の教え子に「ぜひ頑張って欲しい」とエールを送った。

 ◆藤井快(ふじい・こころ)

 ▽生まれ&サイズ 1992年11月30日、浜松市生まれ。26歳。中学までに親の転勤もあり浜松→沼津→浜松と県内引っ越し。175センチ。

 ▽代表&タイトル 浜松日体高3年で国体3位、世界ユース9位。中京大1年のアジアユース優勝。16年からボルダリング・ジャパンカップ3連覇。ボルダリングW杯4勝。今年3月、リード・ジャパンカップで初優勝。

 ▽会社員クライマー 都内のクライミングジム「B―PUMP」スタッフとして勤務しながら競技を続ける。

 ▽家族 17年3月に結婚。鍼灸(しんきゅう)師の資格を持つ妻にサポートを受ける。ただ「同じ職場で働いて、針灸師としても働いているので僕より忙しい。でも、試合の時はついてきてもらってケアしてもらいます」。実家の両親は「いい距離感で応援してくれるので、すごく助かってる」。

 ▽マンガ 好きなマンガは「ジョジョの奇妙な冒険」だが「競技の参考にはなりません(笑)」。逆に「はじめの一歩」などスポ根系マンガは「勉強になるというか、こういう意識は大事だし、もっと頑張れるなと思ったりしますね」。

ジムの壁に挑む藤 井。力を入れた瞬間、左腕に筋肉が浮き出る
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