高良健吾、見えた新境地 30代初の作品は「狂気のストーカー」役

スポーツ報知
30代の自分自身を楽しめるようになったという高良健吾

 俳優の高良健吾(31)が、主演した映画「アンダー・ユア・ベッド」(安里麻里監督)で、愛ゆえに暴走する“ストーカー”に挑戦している。かつて思いを寄せた女性の自宅のベッドの下に潜み、私生活をのぞき見する役どころ。同作は高良にとって、30代で出会った初めての作品。「10代、20代のころは欲があった」という青春時代を超えて、自立したひとりの俳優として、役との『距離』を実感できるようになってきたという。(宮路 美穂)

 孔子は「論語」で、「三十にして立つ」と説いた。「30歳で自身の見解を確立する」という意味だが、高良自身も、がむしゃらに俳優の道を走り抜けた10代、20代を超え、いま30代の自分自身を構えずに受け止めている。

 「10代後半から20代の前半から中盤にかけては、自分が『キツい、苦しいな』と思う役が多くて…。役が抱える問題を自分の問題にしすぎていたところが自分の中であった。20代後半ごろから感情をむき出しにしていく感じが体に悪いなという気がして、もうすこし自分の扱い方を知らなければと思いました」

 30代に突入して一番最初の作品が「アンダー・ユア・ベッド」だった。「これまで自分の問題にしてきた役に対して、どれだけ自分と距離をもって表現するのかが興味がありました」。演じた役は、いちずで純粋な愛をこじらせたゆえに、相手の家のベッドの下にまで侵入してしまう、偏執的な青年・三井。「ベッドの下にいると、感覚がなくなっていってベッドの揺れが生きものみたいに感じることがありました。『三井くんってこんなふうに思ってたのかな』としっくりきた」。どこか一歩引いた目線で眺めている自分がいた。

 観客は、見てはいけないものを見てしまったような感覚とともに、この青年の行く末から目が離せなくなり、ラストには不思議な慕情のようなものが芽生える。「今は特に『芸能界は、俳優はこうであるべき』という物差しが強い気がする。白とか黒とか、表とか裏とか2つでやりすぎているけど、もうちょっとグレーゾーンってある気がするんです。白や黒で分けられない、何かわからない人間の感情ってあるよな、と思っていて。あいまいな部分を大事にしました」

 劇中では、激しい性描写や暴力シーンも描かれる。なにかとコンプライアンスが求められる今の映画界において、生ぬるさを排除し、最大限にぶっ飛ばしていく作品だ。「この作品は、不思議と周囲から『今度ストーカーの役やるんだって?』とか言ってもらえることが多くて、みんなどこかでそういうギリギリの作品を求めているのかもしれない。優等生でないといけないことが求められる今、リミッターを外そうと思っている(制作者の)人がいることは励みになるし、その気持ちは僕も持ち続けたい」

 「欲があった」という20代を超え、31歳になった高良自身は「あんまり自分の首を締めるような芝居はしなくていいのかな、と思うようになりました」と語る。さまざまな作品や人との出会いの積み重ねにおいて「自分は自分でしかない」と思い知らされたからだ。若い頃は「憑依(ひょうい)型」と言われたこともあった。「なりきらなきゃいけない、という感じが大きくてつらかった。でも、今はなりきらなくても役として作品にいられる。今後は楽しんでやりたいですね」。「自分」を確立し、新たな俯瞰(ふかん)の目を持ったことで、高良の俳優人生はさらに豊かになっていくはずだ。

 安里麻里監督「(三井は)繊細な役どころで、同じシーンでもニュアンスを変えていくつか芝居をしてもらうことがあった。こちらが一言投げかけるだけで、まるで別人のような顔つきに変わっていて、よく驚かされた。『目を離してる間に何か塗りました?』とメイク部に聞いたほど。とんでもない役者と出会ってしまったと思う」

 ◆「アンダー・ユア・ベッド」 観賞魚店で働く三井(高良)は、11年前に自分の名前を呼んでくれた大学の同級生・千尋(西川可奈子)のことを思い出した。誰からも見向きもされず生きてきた三井にとって、人生で唯一幸せなときだった。三井はもう一度名前を呼ばれたいという衝動に駆られ、千尋の自宅を探し出し、盗聴、盗撮で監視する日々を過ごす。しかし、三井が目撃したのは夫から壮絶なDVを受ける千尋の姿だった。

 ◆高良 健吾(こうら・けんご)1987年11月12日、熊本市生まれ。31歳。高校時代にスカウトされ、05年に日本テレビ系「ごくせん」で俳優デビュー。10年、映画「おにいちゃんのハナビ」で初めて主演を務める。13年の映画「横道世之介」でブルーリボン賞主演男優賞。19年の公開待機作に「人間失格 太宰治と3人の女たち」「葬式の名人」「カツベン!」など。10月スタートのフジテレビ系連ドラ「モトカレマニア」に主演予定。熊本市の「わくわく親善大使」を務めている。

芸能

個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請 報知新聞150周年
×