1年で芥川賞2回落選…「まただめだった!!!」古市憲寿氏に“栄冠”は輝くのか?

スポーツ報知
またも芥川賞落選となった古市憲寿氏。ツイッターで「まただめだった!!!」とショックをあらわにした

 気鋭の社会学者は、またも芥川賞に届かなかった。

 17日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれた第161回芥川賞と直木賞(日本文学振興会主催)の選考会。約2時間の議論の末、芥川賞には今村夏子さん(39)の「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)が選ばれた。

 私も選考会開始の午後4時には現場に到着。約80人の記者が集まった控室で発表の瞬間を待った。最大の目的は今回の候補者中唯一のスター、2回連続2度目の候補入りで話題を呼んだ社会学者・古市憲寿さん(34)の「百の夜は跳ねて」(新潮6月号)の受賞がなるか否かだった。

 しかし、今回も半年前の候補作「平成くん、さようなら」での落選劇の“デジャブ”を見るかのように、あえなく落選。「今村さん受賞」の速報を書く私のキーボードを打つ指も申し訳ないけれども、やや鈍った。

 選考委員を代表して会見した小川洋子さん(57)は「1回目の投票で今村さんの作品だけが過半数を超えまして、2回目の投票でもさらに票を伸ばしました。文句のない受賞でした」と公表。その上で「2回目の投票で高山(羽根子)さんと李(琴峰)さんの作品の評価も高く、2作受賞の可能性を探って議論しましたが届きませんでした」と続けた。

 古市作品については「丸をつけた選考委員もいらして、なかなか長い議論にもなったんですけど…」と切り出した小川さん。直後に「ウーン」とうなると、「いろいろな素材を集めてきて、それをパッチワークのようにパカッとはめ込めば、これで小説になるんだというような手つきが見え隠れするという意見があったり…。やはり、この主人公が持っている凡庸な価値観にどうしても寄り添えなかった。都会の手触りとか精神の深い問題とか、いろいろ小説として書こうとしていることは分かるんだけれども…。この卑屈な主人公の男が母親の選挙を手伝うというある種、劇的な変化をするんですけど、それほどの変化が彼に起こった過程というのが読み切れなかったという意見がありました」と淡々と話した。

 さらに古市作品への評価を聞かれた小川さんは「都会的な手触りがある。老婆と出会うことによって、外の世界と内の世界が交流を始めて、それが作り物の箱になって一つの世界を作っていくという。そういう展開が今の東京という都市を非常にリアルに描き出しているのではないかという推薦もあったが、いかんせん、お一人だったので、なかなか援護がなかったという感じですね」と率直に話した。

 そうか。小川さん、島田雅彦さん、宮本輝さんらそうそうたる選考委員9人のうち古市作品を評価したのは1人だけか―。私がそんなことを考えていると、それぞれの作品の点数を聞かれた小川さんは「最終的な点数で言いますと、今村さんが7・0。高山さんと李さんが3・0。残りの二つが1・5です」ときっぱり。古市作品が最低点であったことまで明かした。

 この展開は、まさに半年前の再現だった。1月16日、同じく「新喜楽」で開かれた芥川賞選考会。この時もW受賞となった上田岳弘さんの「ニムロッド」、町屋良平さんの「1R1分34秒」以上に古市さんの「平成くん―」が注目を集めていた。

 選考委員を代表して選評会見に臨んだ奥泉光さん(63)は「最初に選考委員9人で投票した結果、最初の投票で上田さんが5・5点、町屋さんが5・5点、もう一人、高山(羽根子)さんが4・5点と、3人が高い点数を取りました。残りの3作品はもう一つ点数を集められず、この時点で落選。その後、もう一度議論を進め、最終投票で上田さんが6・0点、町屋さんが6・5点で2作品受賞が決定しました」と、一次投票の時点で古市作品が落選していたことを明かした。

 古市作品など3作品については「率直に申し上げて点数的にかなり低かった。私が記者会見をしている理由は、私だけが三角を付けたから。他の(選考委員の)方はバツだった」と率直に語った。

 さらに古市作品について「大変厳しい意見の中、厳しくないのは僕だけでした」と苦笑した後、「私は三角を付けたが、(作品が描いた)ポイントになるのは安楽死法が実現している架空の日本。実際に安楽死法が行われている日本が描かれていて、どこまでそれに批評性があるかが問題だった。私個人は批評性を認めてもいいと思ったが、ほとんどの選考委員が批評性がないと評価した。それが大勢だった」と話した。

 その上で「主人公の描き方の細部には魅力があると、私は思った。母親の骨を神社に捨てに行くシーンなど印象的なシーンはあったが、もっと、そういうシーンが欲しかった。そこが目立つのは、その他(の描写)がもう一つだったからではないかという意見もあったが…」と続けていた。

 2年続けての自作への低評価と辛辣(しんらつ)な選評を古市氏は、どう聞くのだろう。私が気になったのは、その点だ。レギュラーコメンテーターを務めるフジテレビ系情報番組「とくダネ!」(月~金曜・前8時)での毒舌発言などで、すっかり炎上キャラとなっているが、「平成くん―」などを読ませてもらった私は、その根底にあるのが、繊細な文学青年としての感性だと思っている。

 同氏に関しては、こんなこともあった。昨年、「スポーツ報知」WEB記事が何回も使用した同氏の若き日の写真がSNS上で「まるでオバサンみたい」と大きな話題になった。同氏はこれを苦にして、新しい写真を撮るため、「とくダネ!」終了後に自腹でタクシーを飛ばして、報知新聞社を電撃訪問。素敵な笑顔の写真を多数、撮り直したという一幕があった。

 「ポエムのAO入試で慶大に受かりました」と、テレビ番組で明かしたこともある古市氏は、それほどナイーブな人でもある。今回も落選直後に自身のツイッターを更新。「ちーーーん。」「まただめだった!!!」とショックをつづっていた。

 さらに一夜明けた18日には「とくダネ!」にVTR出演。この日の同番組では結果発表を待つ同氏に密着。電話で結果を知らされた瞬間、「ダメでしたね…。残念でしたね」と神妙な表情で話し、「やっぱり、ノミネートされてこれだけメディアでも取り上げてもらって、ダメだったっていうのが2回続いたので悔しいというのは正直あると思います」と悔しさをにじませる様子もオンエアした。

 さらに落選を一番最初に知らせたのはヘアメイクスタッフだったと明かした古市氏。「賞を取ったら、記者会見とかあるじゃないですか。だから、ヘアメイクさんに準備してもらっていたんですけど、その予定をまず、バラさなきゃいけないから誰よりも先にまず、友達よりも先にヘアメイクさんに『ダメでした』って伝えました」とポツリ。晴れの衣装も3パターン用意してスタンバイしていたことまで明かした。

 さらに、スタジオの小倉智昭キャスター(72)へのメッセージを求められると、「小倉さんも今回の話の方が前回よりも好きだと言ってくれたので、残念がってくれているといいなというのは、ちょっと思っています」と淡々と吐露。明らかに元気のない同氏に小倉氏も「いやぁ、まだ(受賞は)早いなとは思っている。ただ、前回の作品より僕はこっちの方が好きだったし、面白かったっていう話はした。賞が取れるとは一切言っていない」と辛辣(しんらつ)に続けた上で「作家・古市憲寿」の将来について、「応援してますよ」と言い切った。

 そう、半年で2回の落選は相当、辛いだろう。それでも、発表の瞬間にカメラを同席させ、一夜明けでも淡々と本音を語る古市氏の姿勢を私は断然、支持する。そして「応援してます」―。頭に浮かんだのは、小倉氏と全く言葉だったりする。(記者コラム・中村 健吾)

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