「あなたの番です」折り返し点で番組最高視聴率…日テレは「リスク覚悟」の挑戦に勝ったのか?

「あなたの番です」W主演の原田知世と田中圭。原田は第10話で突然の死を迎えた
「あなたの番です」W主演の原田知世と田中圭。原田は第10話で突然の死を迎えた
「あなたの番です」での2クール、半年間連続放送という挑戦に勝った日本テレビ
「あなたの番です」での2クール、半年間連続放送という挑戦に勝った日本テレビ

 各局が勝負をかけた7月クールの新ドラマよりネット上で「バズっている」(口コミで人気が広く拡散する)ドラマがある。

 7日に放送された原田知世(51)と田中圭(34)W主演の日本テレビ系ドラマ「あなたの番です」(日曜・後10時半)第12話が平均視聴率9・2%の番組最高タイを記録した。初回8・3%でスタートし、第6話では6・3%まで下げたが徐々に回復。ついに2ケタ到達が見えてきた(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 同ドラマは日テレにとって、94年の「静かなるドン」以来25年ぶりに2クール、半年間連続で放送される大型ドラマ。中級マンションに引っ越してきた原田演じる菜奈と田中演じる翔太という年の離れた新婚夫婦が主人公。新生活に胸を膨らませていた2人だったが、住民会出席後に謎の管理人殺害事件が発生。マンション住人による緊迫の“交換殺人ゲーム”に巻き込まれていくという物語だ。

 第1部最終話となった第10話のラストでは、W主演の1人でストーリーを最後まで牽引すると思われた菜奈が毒殺される衝撃の展開。ほとんどの回をリアルタイム視聴してきた私もショックでのけぞった。そして、翔太が謎の“連続殺人犯”に怒りを爆発させる「反撃編」がスタートした6月30日放送の第11話から一気に数字は上がっていった。

 他のドラマとの大きな違いが、ネット上での熱い推理合戦だ。「あなたの番です 真犯人は?」という形の「まとめサイト」が乱立。交換殺人がテーマだけに「〇〇は××を殺している」「〇〇が真犯人に違いない」「〇〇は二重人格?」など、登場人物を名指ししての視聴者の興味津々の書き込みが殺到している。

 私も各サイトを興味津々のぞいてみたが、放送直後に書き込まれたそれらの推理が次回の放送回でずばり的中していたり、ミステリー好きの推理力の高さに大いに驚かされている。

 現在、「反撃編」では、菜奈の命を奪った殺人鬼に復讐を誓った翔太が交換殺人ゲームの全貌を解き明かすべく、狂気スレスレの奮闘中。元乃木坂46の西野七瀬(25)演じるマンション住人・黒島沙和らと協力しながら犯人を追い詰めていく中、大ブレーク中の横浜流星(22)もAIを駆使して翔太を手助けする大学生役で出演と、まさに役者と舞台が整った形になっている。

 作り手側のこのドラマを取り巻く環境も劇的に変わりつつある。4月の放送開始直後に行われた日テレ・大久保好男社長(当時)の定例会見では、「『あなたの番です』の視聴率が前作と比べて、低いようですが?」という作品名名指しの質問が出た。

 確かに前クール放送の菅田将暉(25)主演「3年A組―今から皆さんは、人質です―」は最終回で日曜午後10時半枠史上最高の平均視聴率15・4%を記録する大ヒット。その数字と比較すると、「あなたの番です」序盤の低調ぶりは目立つものだった。

 いきなりの質問にマイクを持った福田博之編成局長(当時)は「前クールの『3年A組』が最終回でかなり(視聴率が)行きましたので、そのままのレベルで推移できれば良かったんですけれども、残念ながら…」と正直に答えた上で「今回、全く新しい企画として2クール(連続で)走らせますので、もう一回、ゼロからのスタートという覚悟でスタートさせております」と淡々と話した。

 その上で「現状の視聴率という数字のみで言うと決して満足できるものではありませんが、当初から決めておりますことをこれからも続けてやっていく。日曜ドラマの枠のコンセプトは話題性と中毒性を持つエッジの効いたエンターテインメントですから、その通りのものができてきていると思います。前作とはタイプが違いますけど、今回は『あなたの番です』で勝負することを決めています」と決意表明。「ぜひ、応援をしていただきたいと思います」と集まった約30人の記者に頭を下げた。

 このやり取りの際、私が思い出したのが、3月14日に行われた同局の4月番組改編説明会の一場面だった。席上、4月クール最大の目玉として紹介されたのが、「あなたの番です」だった。

 企画・原案はAKB48や坂道グループでおなじみの大物プロデューサー・秋元康氏(61)。鈴間広枝プロデューサー(P)は「海外ドラマのように来週、どうなっちゃうのかという展開が毎回たたみかけるように起こる。早く見たいと思わせる作品にしたい」と意欲満々に語っていた。

 日曜のこの時間、2クール連続で学園もので勝負してきた日テレ。昨年10月クールの「今日から俺は!!」、そして「3年A組」の連続ヒットは、各局がノドから手が出るほど欲しい若者層の支持を得たからこそ。編成会見冒頭での岡部智洋編成部長(当時)の「新しい視聴者の開拓、今、見ている方にもっと好きになっていただくことを追求していきたい。日本テレビの特性、13~49歳のコアターゲットをしっかりつかんだ上で次世代の若い視聴者の掘り起こしを狙いたい」と言う気合のコメントも心に響いていたから、その時、思わず聞いてしまった。

 「この時間帯、2作続けての学園ものでティーン層の支持を得た。それなのにマンションを舞台にした夫婦主役のミステリーは『次世代の若い視聴者の掘り起こし』という狙いとズレるのではないか?」―。

 意気込んで聞いた私の方を見つめた岡部氏は「彼女(鈴間P)が一番、プレッシャーを感じていると思う」と苦笑した上で「確かに話題性、中毒性のあるエッジの効いたドラマ作りを目指した枠で、ここ2クールはティーン層に刺さって好評を呼んできました。ただ、学園ものということより、ドラマの内容こそがティーンの心に刺さったと思う。さらに今回はティーンの気持ちをつかんでいらっしゃる秋元さんの企画ということで信頼しています」と冷静に続けていた。

 私の疑問はもう一つ。「飽きやすい」のもまた若者の特性。常に人気の水谷豊(66)主演のテレビ朝日系「相棒」にしろ、1話完結形式だからこそ半年間の視聴続行が可能なのではないか。直前に鈴間Pの「半年間(の放送は)長いのでございますけれども、面白い物を作ってやろうぜと、スタッフ、キャスト一丸で燃えております」というコメントも聞いていたから、そのまま質問した。

 「マンションでの交換殺人という一つのストーリーで半年間、視聴者は見続けるのか。途中で脱落する危惧はないのか?」―。

 この時も、こちらをじっと見つめた岡部氏は「編成上のリスクはあります」―。そう率直に答えた上で「カメラ、衣装までスタッフ一丸となって、きちんと作品を作れば、1話完結形式でなくても、しっかりやっていけると『3年A組』の成功が勇気をくれました。今回も制作陣に全幅の信頼を置いております」と続けていた。

 菅田演じる美術教師・柊一颯(ひいらぎ・いぶき)が自ら命を絶った女生徒の死の真相を暴くため、卒業式10日前に生徒29人を人質に取り、“最後の授業”を行うという物語が「3年A組」。設定はシンプルながら、毎回驚きの展開が待つ“ジェットコースター的展開”でティーン層の人気を集め、大ヒットとなった。

 同作の「スタッフ一丸となって、きちんと作品を作れば、やっていける」という“成功例”こそが王者・日テレの制作陣に、さらなる勇気を与えたのは確かだ。

 岡部氏が昨年10月の改編会見で口にしたのが、「まったく持って日テレが盤石とは思っていない。2つの危機感を持っています。一つは他局とのシェア(視聴率)争い。そして、もう一つが地上波として、デジタルメディアという部分での生活者の動画コンテンツへの接点の部分での危機感。他のメディアを含めた(戦いの中)地上波テレビとして、どういうプレゼンス(存在感)を持っていくか。そこに危機感を持っています」という言葉だった。

 その視線の先には、若者がスマホ片手に「いつでも、どこでも」動画配信サービスで好きな番組が視聴できるNetflix(ネットフリックス)やアマゾンプライムなどの新たなライバルがいた。

 民放各局の戦いのステージは、すでに「他局と争って、いかにリアルタイムで番組を見てもらい、視聴率を稼ぐか」から「いかに若者を魅了する動画配信サービスより魅力的な番組を生み出すか」へ移っている。

 現状維持ではなく、魅力的な番組を生み出し続けなければ生き残れない―。だからこそ、岡部氏は「リスク覚悟」という言葉を繰り返し、福田氏も社長会見の席で「今回は(前作の成功に捕らわれず)『あなたの番です』で勝負すると決めています」と言い放ったのだ。

 そう、なぜ、私が4月からこれほど夢中になって見続けているのかという疑問への答えは確固たる信念のもと「あなたの番です」を世に送り出した編成責任者2人が口にした「中毒性」という言葉にあった。

 このドラマにには確かに「今日から―」や「3年A組」で若い視聴者を惹きつけた青春の甘酸っぱい香りは全くない。代わりにあるのは、例えば宮部みゆきさんが高層マンションを舞台にした直木賞受賞作「理由」で描いた現代社会の冷たさや救いの無さだ。

 さらに言えば、「告白」などの湊かなえさん、「殺人鬼フジコの衝動」などの真梨幸子さんらの「イヤミス(読後感が悪く、イヤな気持ちになるミステリー小説をさす)」と共通する人間のいやらしさ、隠し切れない腐臭などを正面から描こうとする作り手側の狙いも多く含まれている。

 中流マンションでの生活と、その裏側を淡々と描く画面からにじみ出てくるのは、そんな人間社会のマイナス面をきっちりと捉えようとする挑戦的な姿勢だ。

 そう、ショッキングな展開が毎回畳みかけられる「中毒性を持つエッジの効いた」部分こそが「あなたの番です」最大の魅力。これは作り手たちも想定外だったろうが、そこに勢いを与えたのが、ネット上での視聴者の推理合戦と私は見る。

 “勝ちパターン”を捨て、あえてニッチな部分で勝負した日テレの挑戦は吉と出た。今、これから2か月半続く「あなたの番です」の放送が楽しみで仕方がない私は、そう確信している。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆「あなたの番です」平均視聴率の推移

 ▽第1話 8・3%

 ▽第2話 6・5%

 ▽第3話 6・4%

 ▽第4話 7・1%

 ▽第5話 6・5%

 ▽第6話 6・3%

 ▽第7話 6・4%

 ▽第8話 6・7%

 ▽第9話 8・0%

 ▽第10話 7・9%

 ▽特別編 8・1%

 ▽第11話 9・2%

 ▽第12話 9・2%

「あなたの番です」W主演の原田知世と田中圭。原田は第10話で突然の死を迎えた
「あなたの番です」での2クール、半年間連続放送という挑戦に勝った日本テレビ
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