W杯出場のデフフットサル日本代表を取り巻く厳しい金銭事情「2000万円プロジェクト」に挑戦中の背景とは

11月のワールドカップに出場するデフフットサル の男女日本代表
11月のワールドカップに出場するデフフットサル の男女日本代表

 「デフフットサル」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 聴覚に障害のある人たちが競技するフットサルのことで、現在男女日本代表が今年の11月にスイスで行われるW杯への出場を内定させている。普段は補聴器などを使って生活している選手も、プレー中はそれらを外すことが必須条件。そのため試合は全く音がない静かな中で行われるが、競技自体のレベルは非常に高く健常者が行うフットサルと見ていて何ら変わりはない。

 そんなデフフットサルの日本代表が現在挑戦中なのが「W杯渡航費プロジェクト」だ。クラウドファンディングを使って2000万円を目標に資金集めを行っている。恥ずかしながらこれまで障害者スポーツというと、協会や国などからの援助がそれなりにあり、その費用の中で活動できているものと思っていた。しかし男子の川元剛監督(40)に事情を聞くと、選手を取り巻く厳しい環境が見えてきた。

 さまざまな障害者スポーツの団体がある中で、デフフットサルは「日本ろう者サッカー協会」に属している。現在国からは、パラリンピックや聴覚障害者のための五輪・デフリンピックの公式競技にのみ助成金があるため、支援を受けられるのは同じ協会に所属するデフサッカーだけ。公式競技には含まれていないフットサルは、国からの援助を全く受けられない状況にある。川元監督は「サッカーから分けてもらえる分もありますが、割合は少ないです。合宿や国際大会への出場で年に1人100~200万円は必要。障害者雇用で月15万ほどで働いている選手が多いので、現実的には厳しい」と話す。ちなみに海外に目を移すと、強豪国であるタイやイランには、国から何億もの支援があるという。

 現在日本代表候補の16人は普段はそれぞれ仕事をしながら、健常者に混じって社会人フットサルのチームに所属するなどして活動に励んでいる。障害者のアスリート雇用のある会社で働いたり、中には「ユニクロ」でマネジャー業務をばりばりこなす選手もいるが、活動費の捻出には苦労が絶えないそうだ。その理由のひとつが「結婚相手もデフ(聞こえない、聞こえにくい)の人が多いんです」と川元監督。女性の障害者雇用自体がそもそも少ないがゆえ、共働きも難しい。だから結婚しても実家暮らしなど、金銭的に自立できない人も多いという。そんな中でさらに代表での活動費を…となると負担も大きく「お金や家庭のことが大変で、心の状態が代表に向けない選手もいる」ほど状況は厳しい。

 そんな中、チームにさらなる悲報が舞い込んだ。今年2月のアジア予選を男子が2位、女子が1位で突破しW杯出場を決めた直後の4月、協会からサッカーと分け合っていた助成金が認められない、という趣旨の通達がなされた。加えて代表合宿の参加費も急に増額されたという。話し合いの末、それらの問題は後に解決はしたものの、W杯出場のため渡航費の調達は急務となった。川元監督は「選手を守るためにもお金を作るしかない!と思いました。W杯に出場するためには1人50万で男女合わせて40人、合計2000万円が必要。到達するのは難しいとしても、それぐらいかかると声に出すことが大事だと考えました」と前から温めていたというクラウドファンディングに乗り出すことを決めた。

 スポンサーを募ったり選手が自主合宿を行うために、以前男子選手を中心に設立した「OUR VISION」という団体が主導となり、それまでその団体に属していなかった女子選手も加えてプロジェクトを開始した。まずはFacebookで応援ページを作り、選手によるブログも開設してデフフットサルを知ってもらうところから始めた。

 ブログには選手1人1人のこれまでの人生や、フットサルへの思いが赤裸々に綴られている。魂のこもった文章には、読んでいて思わず目頭が熱くなることも。だがブログの開設にあたって最初は「生い立ちを知られるのは無理」「何を書いたらいいか分からない」といった声も多く上がったそうだ。それでも少しでも自分たちのことを理解してもらいたいという気持ちが上回り「彼ら彼女らは勇気と覚悟を持って発信してくれている。選手にとっても不特定の人に自分の話を読んでもらい、応援のコメントまでもらえたことは、自信になっただろうし意味のあるものになった。日本では障害者だとかわいそう、と思われてしまう。でもそうじゃなくて障害はあるけど普通なんだって感覚、すごい努力したんだなって思ってもらえたら」と川元監督。8日現在で600人近い人がプロジェクトに賛同し、支援も300万円近く集まった。Facebookの応援ページにも約2500人の人が登録している。

 今月13日から15日までは大阪の「マグフットサルスタジアム」で代表合宿も行われる。3日間とも自由に見学でき、最終日の9時30分からは大阪府1部リーグのカレビッチと試合も組まれている。興味を持った方は是非、彼ら彼女ら日本代表の頑張りとハイレベルなプレーを間近で感じてみてほしい。11月のW杯が指揮官として最後の大会になる川元監督は「世界一になると言い続けてきた。選手たちも世界一になることで何かを変える!と思っている」と気合い十分だ。クラウドファンディングの締め切りは今月末まで。デフフットサルに携わる全ての人の熱い思いが、1人でも多くの人の賛同を得ることを願っている。(記者コラム・筒井 琴美)

プロジェクトの詳細はこちら

https://camp‐fire.jp/projects/view/152388

応援ページはFacebookで「OURVISION(デフフットサル)応援メンバー」と検索。

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