独立リーグで日々奮闘~二岡智宏監督が流した涙(上)

二岡監督は厳しい表情で試合後の会見に臨んだ
二岡監督は厳しい表情で試合後の会見に臨んだ

 今季から独立リーグのBC富山で指揮を執る、二岡智宏監督(43)がシーズン前期を終えた。こらえきれずに男泣きした裏側には何があったのか-。その思いに迫った。(取材・高田 健介)

 目の前の選手たちが、涙でぼやけた。二岡監督は、思いがけない出来事に驚きとともにうれしさがこみ上げてきた。指揮を執る富山GRNサンダーバーズは、ルートインBCリーグの前期最終戦前日、6月20日の滋賀戦に敗れて西地区優勝がなくなった。試合後のミーティングでは、悔しがり、泣いているキャプテン・河本光平内野手らが視界に入った。

 「びっくりした。そういう選手がいるのはうれしかったし、もらい泣きしそうになって、言葉が出なくなった」

  • 牧田にマンツーマン指導
  • 牧田にマンツーマン指導

 ミーティングが終わってすぐ、監督室でコーチと話していると、ドアをノックする音が聞こえた。「どうぞ」と声をかけると、扉の向こうには泣きじゃくる牧田龍輝内野手の姿があった。

 「ボロボロ涙を流して『毎日教えてもらっていたのに、僕が打てなくてすみません。もっとうまくなりたいです。教えてください』って。ミーティングが終わって、俺の気持ちも少し収まってたけどいよいよ、我慢できなかった」。

 今年からチームに加わった21歳とは、毎試合前、ティー打撃でマンツーマン指導してきた。巨人打撃コーチだった昨年岡本と接してきたように、ともに汗を流した。そんな選手の涙につられ、男泣きした。

  • チームスタッフとも会話を欠かさない
  • チームスタッフとも会話を欠かさない

 自らBCリーグの監督の道を選び、2か月が経過した6月初旬だった。考えを巡らせる日々が続き、指揮官として決断の時を迎えていた。独立リーグには多種多様な選手が存在する。もちろん、全員が「NPBに入りたい」という希望は持っているが、それが近くにある者もいれば、遠い目標になっている選手もいた。

 「就任当初はみんなと同じ方向に進もうと思っていた。こちらから選手に降りて気持ちに寄り添ったりしたこともあった。ただ」

 そう続ける二岡監督の表情は厳しいものになった。自分が何のために富山に来たのか。選手となれ合うためにこの地を踏んだのではない。巨人で打撃コーチを3年間務め、指導熱が冷めないうちに、NPBを目指す選手の「本気」の手助けをするためだった。

 「選手を育てることが大切だと思い、あまり勝つことに重点を置くのをやめようとも思ったが、そう思って振る舞っている自分が許せなくなった」

 「育成」か「勝利」か-。もんもんとしている時、ある事件が起きた。9回にリードを守れずに打たれた有馬昌宏投手が、マウンドで泣き崩れた。この瞬間、気持ちは固まった。

 「本気でうまくなりたい、勝ちたい、そしてNPBに行きたいという選手の目線に、俺自身も上がっていこうと思った。負けたら終わりの高校野球のように泣いている選手が目の前にいて、俺自身、負けてもいい、なんて思ってはいけない」

 直後、選手たちに気持ちを伝えた。「やるからには負けられない。今までより、厳しく接するかもしれないけど、そういう俺に萎縮するヤツは勝手にしてくれ」。負けてもいい試合ならやる価値はない-。固めた気持ちを、素直にぶつけた。

 勝ちながら育てるという難題に、チーム全員で挑戦した。もちろん、萎縮する選手なんていなかった。6月は4連勝を含む6勝4敗1分けと粘り、最終戦の前日まで信濃とV争いを演じた。選んだ道は間違っていなかった。元巨人の乾真大投手兼投手コーチも「勝つことを意識しながらの方が、成長速度は速いです。重圧のない中で成功するより、プレッシャーの中での失敗の方が学ぶことが多い。今年の前期はまさにその連続でした」と証言した。

 「勝つこと、そして優勝を意識した状況の中でやるのと、下位でやるのは訳が違う。乾は昨年もこのチームにいて、チームのことはよく分かっている。『選手はいい方向に行っている』と言ってもらってそれはうれしかった」

  • BC石川の武田勝監督と笑顔で握手
  • BC石川の武田勝監督と笑顔で握手

 各選手は確実に成長している。勝つことへの喜びも覚え、雰囲気も明るくなった。ただ、ある試合が、二岡監督の気持ちを新たにさせた。6月19日、日本ハム2軍との交流戦だった。投手陣は、昨年のNPBドラフトで、富山から日本ハム入りを果たした育成の海老原に一発を打たれるなど5失点。打線も4安打1点に終わった。得点差以上に感じたのは、力の差だった。 「今の時点でここまで差があるというのは、残り3か月で、俺自身も何ができるのか、というのをものすごく感じた。選手の成長速度は速いし、ここまでの歩みは間違っていない。けど、その成長度合いと、残り3か月というのを考えると、今年のドラフトはどうなるのかという気持ちになった」

 後期終了は9月8日で、運命のNPBドラフト会議が10月17日。可能性を秘めた選手はいるが、シーズンは残り3か月。「来年に向けて」と切り替えられるNPBとは時間の流れ方が違う。選手たちに、そして自分自身に何ができるかを自問自答した。

 「就任当初に比べたら、いろんなことを聞きに来るようになった。でも、まだまだ。ミーティングでも、野球を辞める選手もいるかもしれないし、来年はチームが替わる選手もいるだろうけど、このチームで今年を戦うのもあと3か月。俺もあと3か月だと思ってやる、というのは伝えた」

  • 試合前練習でも厳しく選手の動きをチェック
  • 試合前練習でも厳しく選手の動きをチェック

 選手たちは何を意識して残りのシーズンを過ごすべきか。そして自身はどう、動くべきなのか。当然、答えはないが、時は止まってくれない。

 「選手はいいところを磨くしかない。良くないところを直すことだけ考えている場合じゃない。3か月って本当に短い。俺ができるのはその手伝い。技術的に上がらないと思って接したら、俺自身、どうでも良くなってしまう。だから、そこは曲げない。それは切れないように気持ちの部分で持っていないといけない」

 <二岡智宏>(におか・ともひろ)1976年4月29日、広島県生まれ。43歳。広陵高、近大を経て、逆指名した巨人に98年ドラフト2位で入団。1年目から正遊撃手として活躍。2002年に日本シリーズMVP、03年にベストナイン。08年オフに日本ハムへ移籍し13年限りで現役引退。15年オフに巨人2軍打撃コーチに就任し、17年から1軍打撃コーチ。昨オフに退団。通算成績は1457試合で1314安打、打率2割8分2厘、173本塁打、622打点。180センチ、80キロ。右投右打。

 ◇富山GRNサンダーバーズ 2006年11月に創立し、07年のリーグ創設時から参戦。15年には元巨人のタフィ・ローズ外野手が加入して話題を集めた。資本金9325万円で、地元の企業、個人など約70の株主が支える。昨年は、今季から楽天の1軍投手チーフコーチとなった伊藤智仁氏が監督を務めていた。

二岡監督は厳しい表情で試合後の会見に臨んだ
牧田にマンツーマン指導
チームスタッフとも会話を欠かさない
BC石川の武田勝監督と笑顔で握手
試合前練習でも厳しく選手の動きをチェック
すべての写真を見る 5枚

野球

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請