アウェーの洗礼は時代錯誤!? ホーム中国側の厚意を感じた世界戦

中国で世界挑戦した久保隼(右。左は王者の徐燦)
中国で世界挑戦した久保隼(右。左は王者の徐燦)

 5月下旬、プロボクシングのWBAダブル世界戦の取材のため、中国・江西省撫州市へ出張した。結果はフェザー級で久保隼(真正)が王者の徐燦(中国)に6回TKO負けし、ライトフライ級は木村翔(青木)が王者カルロス・カニサレス(ベネズエラ)に大差判定負けと日本勢は連敗。両王者が前試合より格段に強くなっていたことに驚いたが、久々にアジアのアウェー世界戦を取材した私には、驚いたことが他にもあった。

 前回、中立国ではないアウェーでの世界戦を取材したのは2001年5月だった。韓国・ソウルで当時WBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守(金沢)が、前王者のチョ仁柱(韓国)との防衛戦に臨んだ。その前年8月、大阪で徳山が下馬評を覆し、無敗王者・チョからダウンを奪い判定勝ち。世界王者となった。再戦をめぐっては、両陣営が日韓どちらで開催するかをもめた末、ソウルに落ち着いた。日本で生まれ育った徳山は、北朝鮮国籍であることを公表しており、大阪での対戦時から“南北対決”に韓国メディアが注目。大挙して取材に訪れた。王座初奪取から9か月。ソウルで徳山を待っていたのは、アウェーの洗礼だった。

 試合前日計量では、本番の前に行う予備計量で使った体重計が何者かに細工されており、徳山が300グラム超過。リミット52・1キロに落としたはずの体重が増えており、「ふざけるんじゃねえ」と憤慨した。相手陣営も応戦し、徳山は心拍数が一気に跳ね上がるなど、明らかに動揺していた。金具に詳しい徳山の父・洪炳允さんが細工を見抜いて事なきを得たが、あわや試合前日に不必要な減量を強いられるところだった。宿泊先には相手陣営の関係者も出入りし、徳山陣営の金沢英雄会長は「相手側に絶対、徳山の部屋番号を言うな」と全員に指示。睡眠を妨げるいたずら電話を警戒し、ぴりぴりムードだった。

 試合当日。興行主である韓国側が徳山陣営へ「試合中、北朝鮮の国旗を振って応援する者が1人でもいたら即、試合を中止する」と警告するなど、政治的要素まで入り込み、ものものしい雰囲気の中、ソウル市内のホテルでゴングが鳴った。試合はスピードで上回る徳山が5回、右ストレートを打ち抜いて、すっきりKO勝利。私は「地元びいきの判定などで、もめなくて良かった」と思わず安どしたことを今でも覚えている。

 あれから18年。今回の世界戦で驚いたことは、多少は覚悟していたアウェーの洗礼が一切、なかったことだ。中国3人目の世界王者・徐と戦う久保が、試合地から100キロ以上離れた空港へ到着すると、迎えの車が待っていて、宿泊先ではいつでも体重をチェックできるよう、精密な体重計が用意されていた。現地の学校で行われた公開練習時、久保の周りに群がった中国の若者たちの目に敵意はなく、皆が笑顔で記念撮影をねだる。徐に敗れた久保は、悔し涙を流しながらも「温かく迎えてくれた中国の方々に感謝したい」と礼を述べた。

 日本勢の連敗は残念だったが、中国・劉剛プロモーターの興行は盛況。日本ボクシング界にとって、かつてのライバル韓国が世界王者不在と元気がない今、中国こそアジアの新たなライバルだと実感した。東京、上海に続いて、7月19日には神戸で日中対抗戦が行われる。海外からやって来た選手やその陣営にアウェーの洗礼を浴びせるなど、もう時代錯誤なのかもしれない。戦うのは、やはりリング上だけでいい。(記者コラム・田村 龍一)

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